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朝キョ。  作者: TKG
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17/24

第17話 孫バカ爺さんの喜びは、時に場を混乱させる


───鳴神透───




「う、ここは……」

 目を覚ますと、真っ白な天井が目に入った。

 今度は、白い天井か……


 って、コレ何回目だ?

 ここしばらく連続で意識を飛ばしてはこうして目を覚ましている気がする……


 体を持ち上げると、体にかかっていた毛布が床に滑り落ちた。

 見回すと、仕切りのカーテンがあり、さらに清潔感のある棚なんかがある。

 どうやらここは、病室。しかも、個室のようだ。

 壁にかかるカレンダーには日本語が踊り、施設の状況と外から聞こえる声や音は、日本を示しているから、ひとまず俺は、無事地球に戻ることができたようである。


 あの時、山の方に光が集まってきて、嫌な予感がしたが、爺さんに言われたとおり、いざという時の生存術と信じて、巨人用の赤い雫と、縮小した巨人が纏う小さな雫の両方を纏っていて正解だった。

 おかげで、でかい方はずたずたにやられたが、小さい俺の方は、直撃には至らず、爆風に吹き飛ばされるだけで済んだ。

 その爆風で、赤い雫も吹き飛んだけど、このとおり五体満足でベッドから起き上がれる。


 やっぱり、保険て大事だな。


 ただ、あのあとどうやって地球に戻ってきたのかは、さっぱりわからない。


「目を覚ましたのね」

 カーテンの影から声が響き、真姫さんが姿を現した。

 床に落ちた毛布を拾い、ベッドへ乗せてくれた。


「ひとまず、無事生還おめでとう」

 真姫さんが、どこか安心したように、目尻を下げ、微笑んだ。

 彼女がここにいるということは、もしかすると、真姫さんが俺を助けてくれたのだろうか?


「ひょっとして、むこうまで助けに来てくれたの?」

「ええ」

 俺の口にした疑問に、あっさりと答えを返してくれた。


「おおう。いつの間に、裂け目開けるようになったの?」

「博博士が、実現してくれたわ」


「すげーな博士」


 さすが天才ってヤツだな。


「とにかく、助けてくれてありがとう。助かった」

 あの王様のことだから、赤い雫撃墜しただけじゃ飽き足らず、追撃した可能性は無きにしも非ずだからな。


「助けたのは私だけじゃないわ。そよかもあなたを助けるために一緒に行ってくれた。彼女にもお礼を言うのね。もう少ししたら、来るでしょうし」

「マジか。それはなにかお礼をしないとな」


 ホントに、感謝しなくちゃいけないぜ。


「で、話題は変わるのだけど」

「へ?」

 なんか、彼女の声のトーンが変わった。

 視線を向けると、なんか冷たい視線を俺に向けている。


「あなたが気絶している間に、色々と検査をしてもらったわ。その結果が、これよ」

 彼女は手にした大型封筒から、レントゲン写真を取り出した。


 窓に近寄り、外から入る光にさらす。

 俺もベッドから移動して、彼女のさらしたレントゲンをのぞきこんだ。


 そこには、なにもうつっていなかった。

 体の輪郭はおろか、骨も、変な影も、形もなかった。


「え? なにこれ?」

「あなたの体をうつしたレントゲンよ。なのに、なにもうつらない。他の機器でも同様にうつらないものもあったわ。私は、目の前にいるあなたが、透だと確信している。でも、あなたは何者なの?」


 なんか出会った時みたいに、目を吊り上げて睨まれてしまった。

 一ヶ月ちょっとほど前の話だけど、なんか懐かしい。


 俺は、そのなにもうつっていないレントゲンをじっと見ていた。

 自身の体が、やっぱり本物とは違うものになったんだと、実感する。


「まあ、そうか。そりゃそうだよな」

 俺は一人で納得し、うなずいた。


「これから話すことはさ、信じられないことかもしれないけど、ひとまず黙って聞いてくれないか?」

「え、ええ」


 そう前置きして、俺はクロノスの言っていた、定められた運命がないから、他人に大きく関わった際、その運命を変えられるということを伝えた。


「そのおかげで俺は、予言を覆したいクロノスに狙われたんだよ」

「うそ……」


 いくら黙って聞けと言われても、あまりに突拍子のないことだから、彼女も声をつぐんでいることはできなかったようだ。

 だが、話をさえぎるようなことはしない。

 むしろ、今の言葉は、口から漏れてしまったというのが正しいかもしれない。


「俺等にとっては眉唾でも、むこうは本気で信じているんだよ」

 魔法もあるむこうの世界じゃ、予言はほぼ確実に起きる予定のようなもんなんだろう。

 神様だからこそ、その役は確実に決められてしまっているのかもしれない。


「で、ここからが本番」


 クロノスには、他人を食らうことで、その力を得る能力があり、俺が協力を断ると、俺を飲みこみ、俺のその力も吸収されたこと。

 そして、その確認のために移し身として召喚され、隙を見て逃げ出したが、空中で撃ち落されたことを説明した。

 当然、本来なら、食われたらクロノスの支配下に置かれるはずだが、俺はその運命に関わらないという特性のおかげで、クロノスとのリンクはなく、自我を保ったままいられるというのも伝えてある。


「つまり、今ここにある俺の体がおかしいのは、この体が本当の俺の体じゃなく、クロノスの力で生み出された、かりそめの幻みたいなもんだからってこと」


「なっ……」

 真姫さんが絶句している。

 そりゃまあ、信じられないような話だよな。

 だが、彼女の目の前には、俺の体がレントゲンにうつらなかったという証拠がある。

 むしろ、色々合点がいって、信じるしかないから、絶句しているのだろう。


「いや、そんなに深刻になるなよ。予言が覆される可能性なんて、俺等から見れば元々ありえる可能性だし、俺は死んだわけじゃない。今までと変わらず、倒すついでに、腹パンでもして吐き出させることができれば、俺も無事戻れるから」

 ……というか、その場合俺は二人になるのだろうか? それとも、この体が消えて、一人になるのだろうか? はたまたこっちのままで、本体は黒い石像のままなのだろうか?


「なぜそんなに楽観的なの! そんな単純なことじゃないじゃない! 救出が困難なのは当然だけど、それ以上にあなたはいわば、小さな巨人そのものなのよ。これが公になれば、あなたを切り刻んで巨人の秘密を暴こうとする輩が現れても不思議じゃない!」


「え? マジ?」

「本当よ!」


 ふむ。とアゴに手を当て考える。

 巨人と俺じゃ、全く同じとは言えないかもしれないけど、確かに素材や存在のメカニズムなんかの基本は同じなのかもしれない。

 それを解明できれば、この移し身に対して効く武器なんかも作れるかも……


「確かに、言われてみれば、そのとおりか」

「なんでそんなに気楽な物言いなのよ!」


「ストップストップ。状況は理解したよ、なんとかしなきゃいけないのも当然だ。でも、この体を調べて弱点を見つけるってのは、ありだと思うよ」


「なっ!?」


 むしろ俺の体を死なない程度に利用して、戦況が有利になれば、勝つ可能性も上がる。俺の体を取り戻すチャンスも上がる。

 俺の体でなにかできるのなら、なんとか協力した方がいいだろう!

 ぶっちゃけこの体がダメになっても、俺が死ぬわけじゃないし。

 痛いのは嫌だけど。


「でも、誰でもいいってわけじゃない。というかさ、そのあたりの研究はむしろ、真姫さんや、博士の領分じゃん。下手に秘密にするより、そういう検体を手に入れたって公表して手を出させない方に動いた方がいいんじゃない? 秘密ってのは、そのうちバレるもんだよ」


「……」

 ギラリと凄い目つきでにらまれました。

 もうすっごく怒っていらっしゃる目です。


「だ、だめかな?」


「……いえ、本人がそう言うのなら、私はもうなにも言わないわ。でも、いつ、どう公にするかは、私に任せなさい。それまでは、他言無用よ」

「はい。それはお任せします。というか、秘密にするなら、この病院からもれるって可能性は?」


「ここは、おじいちゃんが『機鎧』の研究費を稼ぐためにいくつか便利な医療器具を作って、それを生かすために建てられた病院だから、大丈夫よ。ここの理事長は、私に頭はあがらないわ。だからこうして、私があなたの検査結果をすべてを手にできる」


「マジですか」

「本当よ」


 そーいやお嬢様学校通うほどのお嬢様なんだっけね。


「ともかく、あなたの体のことはまだ秘密だからね。絶対表に出しちゃダメだからね!」

「はいはい。わかりましたよ。つーか普通に生活していれば、バレることはまずないって」

「あなたはそういうところは信頼できないのよ」

「……俺って信頼ないなぁ」


 でも正直、そうやって油断するのは確かによくないかもね。


「でも、まあ……」

「ん?」


 なぜか、ぶつぶつと、口の中で言葉を転がしながら、彼女は窓の外へ視線を向けた。


「……体はともかく、無事、戻ってきてくれて、よかったわ」

「……ふふ。心配かけました」


 なぜか恥ずかしそうに、赤くなった真姫さんを見て、俺は微笑ましくて思わず笑ってしまった。

 心配していたこととか、そういうのを知られるのが恥ずかしいのだろうか。

 まだまだこの子も、お子様だねぇ。


「なんで笑うのよ!」

「笑ってない笑ってない」

「笑ってるじゃない!」


 むーっと膨れられ、ぽかぽか頭のてっぺんを殴られた。

 痛い痛い。痛くないけど痛い。



 こんこん。



「ひゃぁ!?」

 そんなことをしていると、病室のドアがノックされた。

 なぜか真姫さんが一人でびっくりする。


 笑いを堪えると、真っ赤になった顔でにらまれちまったい。


「どうぞー」

 と、睨まれるのから逃げるため、声をかけたら、外が一気に騒がしくなった。

 そういや俺はが起きたのはまだ外に伝わってないのか。


 扉が乱暴に開き、そよかねーちゃんを先頭にして、博士と助手さんが飛びこんできた。

 カーチャンの姿が見えないのは、今間が悪く、家に戻っていたからだそうな。あとで聞いた。


「透、やっと目を覚ましたか。よかった。本当に良かったよ!」

「うわっぷ」

 走りこんできたそよかねーちゃんに頭を乱暴に捕まれ、ぐりぐり撫でられてしまった。


「丸一日眠ったままだったから、あたしはも……」

 そこまで口にして、ちょっと涙目だったそよかねーちゃんはなぜか俺の頭をむんずとつかみ、そのまま力をこめてきた。

「いだだだだだだ!」

「べ、別に心配はしてませんでしたよ。あたしはもう、無事だと思ってましたよ! だから、これはあくびだからな! 全然安心して喜んでねーから!」


「す、素直に心配だったって言っていいと思うよ。なんで二人ともかたくなに心配してませんでしたアピールするわけ!?」


「う、うるせえな!」

「というかなぜ私の方までそれを明かすの!」


 なぜか二人に怒られてしまった。

 素直に心配したんだからと言えばいいのに。


 女の子ってよくわからん。



「無事帰還おめでとー。それで、今度はどんな情報を持って帰ってきたんだい? またとびっきりな情報かい? 楽しみだなあ。楽しみだねぇ」

「博士。鳴神君は病み上がりなんですから」

「だーいじょうぶ。彼はそんなにヤワじゃないよ」


 相変わらずハイテンションな博士が、ベッドの周りをぐるぐる回り、助手さんにたしなめられていた。


「まあまあ。俺の体を心配してくれるのはありがたいのですが、今すぐ退院しても平気なくらい元気なので、大丈夫ですよ」

 とりあえず、体の方に違和感も感じないから、助手さんにそう言って感謝の辞をのべておいた。

 ちなみに目が覚めたので、退院は、明日にはもうしていいそうな。


「つーわけで、早速色々伝えたいことあるけど、いい? 早急に探してもらいたいものもあるしね」

「おおー。まただね。またなにか凄い情報手に入れてきちゃったんだね!」

「そのとおりです博士!」


 俺達二人で親指を立てあった。

 助手さんには呆れられた。


「つーわけで、真姫さんも聞いて。これは、早急に探してもらわなきゃいけないことだから」


 俺は、クロノスの腹の中でキュクロプス爺さんに聞いた、三種の武具のこと。そして、クロノスの持つ槍の威力のことを話した。

 あの槍の光は、どうやら俺を助けに来たそよかねーちゃんと真姫さんも見ていたらしく、その危険性を、俺の話に追従して訴えてくれた。

 クロノスがキュクロプスの爺さんを食って作製したと伝えると、さっき真姫さんと約束した秘密のことも話さねばならなくなるので、同じ作成者が作ったということにしておいた。実際これで間違ってないし。


「あの赤い雫を一撃で破壊するのかい。それは脅威だねー。でもそれと同じくらいの武器が、この地球にも隠されている。と」

 博士が、目をキラキラさせながら、続きをうながす。


「ですです。名前は……」

 俺は、キュクロプスの爺さんに教わった三種の名前と、その能力を伝える。


 一つ。『ケラウノス』

 俺のいた世界ではゼウスの雷とも呼ばれる、振るうことで雷を発する神器のことである。

 ギリシャ神話では最強と謳われるほどの武器で、その気になれば一撃で世界を融解させ、全世界を焼きつくすことができるなんて言われている。

 こちらの世界でも、出来ることは同じだが、その威力が実際どれくらいなのかは、当然わからん。


 一つ。『トリアイナ』

 ポセイドンの三又の矛のことである。

 ギリシャ神話では嵐や津波を引き起こし、それによって大陸を沈ませたり山脈を真っ二つに裂いて川の通り道を作るなど、水を支配して様々なことができる海を司るものである。

 こちらの世界で、どこまで出来るのかは、当然不明。でも、下手するとこっちのがタチが悪いかも。


 一つ。『アイドス・キュネエー』

 ハデスの兜のことだ。

 ギリシャ神話では、冥府の王ハデスが手に入れた、かぶれば姿を消す兜だ。これ以上の説明は必要もないくらいの効果である。

 こちらの世界でも、当然効果は同じ。かぶれば、透明になる。


 以上の三つが、この地球のどこかにあるはず。

 クロノスと戦う上で、ゼウスの雷である『ケラウノス』とポセイドンの槍である『トリアイナ』は必要だろう。

 でなければ、クロノスの持つ槍の一撃で、こっちは一瞬にして消し炭だ。

 最も俺は、三つ目の姿隠しの兜が是非欲しいところだが。

 理由は、言わずもわかろうな。である。


「……ケラウノス?」

「ケラウノス……」

 博士と真姫さんが、二人で首をひねっている。


「もしかして、心当たりがあるとか?」

「あるというか、どこかで見た覚えがあるんだけど、なぜか出てこないんだよねー」

「私も。なにかひっかかるけど、はっきりしないわ」

「そっか」


 うんうんと唸る二人を横目に、俺はさらに言伝を続けることにした。

 記憶を探ってもらうのは、後でも十分できるからだ。

 ひとまず、この三種の武具を探すのを急がせなければならない理由も伝えねばならない。


「まだ伝えることはあるんだ。一応俺、逃げる途中でむこうからこちらに裂け目を開く装置を一時的に使えないようにしたんだ。だから、しばらく奴等は来たくてもこれないはずなんだよ」

 すると、全員から「おお!」と歓声が上がった。

「それは朗報ね」

「ですね。これで皆さん怯えずに眠れます!」


「ただし、修理が終わり、開通したら、下手すると百万の軍勢が一度にやってくるかもしれないけど」


「はぁ?」

 喜んでいたそよかねーちゃんが、なに言ってんだお前という風に、声をあげた。


「あ……」

 そうか。と納得したように、真姫さんが声をあげる。

 彼女も、この事実に気づいたようだ。


 なので、秘密はどうする? という意味の視線を送る。

 この件の説明は、俺が食われた件も説明しないと、理解されづらい。


「……そうね。ここにいるみんなには話してしまいましょう。どうせ博博士には事情を話さなければならないし、そよかも、あなたを助けに行った本人ですもの」

「オッケー」


 情報解禁のお許しが出たので、俺はクロノスの秘密。そして、俺が何故誘拐されたのかを皆に伝える。

 皆、真姫さんと同じように、最初は絶句していた。


「というわけで、運命のくびきから逃れたと思ったクロノスは、直接地球へ乗りこんでくる可能性があるんだ」


 クロノスは、巨人を運ぶ大空母と言ってもいい。

 腹の中に収めた存在を、自由に出し入れ出来る。だから、その気になれば、裂け目を一つ開くだけで、巨人の戦力全てをもってこれる。


 予言を恐れなくていい王様なら、これくらいやりかねない。

 次回の襲撃は、いきなり百万の巨人が地球にやってくるかもしれないのだ。


「つまり、それまでに武具を見つけていないとアウトというわけね」

「だね」

 一人、すでに状況を聞いて知っていた真姫さんだけが、冷静に状況を分析して、考えを巡らせている。


「でも、そう簡単に……」


 ゴに手をあて、部屋の中へ視線を動かしていた真姫さんの視線が、部屋の壁に向いたままとまった。

 その視線が釘付けになったのは、一枚のカレンダー。

 俺が目を覚ました時も目に入った上半分に風景写真があり、下半分に日付のあるタイプだ。

 別にかわったところはない。あるとすれば、せいぜい風景写真が古い大正か明治風街並みをうつしているだけだ。

 写真の看板に『ずろよ』と書いてあるのがその建物の古さを現している。


 でもそれを見て、真姫さんは呆然としている。


「……見つかったわ。ケラウノス」


「ええー!?」



 病室は、驚きの声に包まれた。




───早乙女そよか───




 次の日。

 透が退院したので、あたしが迎えに行った。

 昨日真姫がケラウノスを見つけたと騒ぎ出して、博士を連れてあわただしく帰り、あたしに今日退院する透を連れて博士の研究所へ来いと言ったからだ。


「ったく。なんであたしまで……」

「さあ。なんかそよかねーちゃんにも聞くことがあるみたいだったけど」

「みたいだな……」


 なんか、むこうの世界でとんでもないことをやったらしいが、あたしはその自覚はない。

 そのあたりについて、一緒に話すらしいが、なんのことなんだろうか。

 まあ、頭を使うことは、真姫や博士にまかせればいいだろう。なんて思いながら、博士の研究所へ向う。


「しかし、ホントに体は違うのか?」

「みたいだよ」


 道中、隣を歩く透を、頭のてっぺんからつま先まで見回した。

 昨日説明を受けて、口をあんぐりと開けてしまった事実だが、いまだに信じられない。

 目の前の透の体が、巨人と同じ光でできているなんて。

 どこからどう見ても、いなくなる前の透と変わらなかった。


「まあ、基本は変わらないからね。中身も一緒だし」

「だよなあ」


 つまり、透は透ということだ。

 なら、ワザワザ考えても無駄だな。

 真姫もなにも言わなかったし、大きな問題はないんだろう。

 やっぱりあたしがこのあたりのことを考えてもしかたがない。


「あ、そうだ」

「ん?」


 透がなにか思いついたように、ポンと手を鳴らした。



「昨日はさ、ごたごたしていて言えなかったけど、助けに来てくれて、ありがとう」



 隣を歩くあたしに、少し上目使いで笑みを見せてくれた。



 どきっ。


 な、なんだ? 胸が変にびっくりした。

 顔が熱い。



「べ、別にこの前助けてもらった借りを返しただけだよ。それ以上の意味はない!」

 そっぽを向いて、視線をそらす。

 ダメだ、透をマトモに見れない。


 前に助けてもらってから、なんかあたし、おかしいぞ!


「? どしたの?」

「なんでもねーよ!」


 あたしは歩く足を早め、顔を見られないよう、歩き出した。


「ええー」

 透が困ったような声を出し、あたしを追いかけてきた。

 当然あたしは、顔を見られないよう、足を早める。


 逃げる、追うの、追いかけっこがはじまった。



 ……なにやってんだあたしは。




───鳴神透───




 そよかねーちゃんに退院の迎えに来てもらい、言われたとおり、博士の研究所へやってきた。

 ちなみに、カーチャンも退院の迎えに来てくれて、俺の荷物を持って家に帰って行ったのは報告しておこう。


「おーっす」

「来たよー」


 ビル四階にある研究所のドアを開け、俺とそよかねーちゃんは勝手知ったる我が家のように、研究所の応接室へ上がっていった。


「ようこそー」

「こんにちはー」

「いらっしゃい」


 博士と助手さん。そして真姫さんが出むかえてくれた。


「それで、どこにあったの? というか、あったの?」


 顔をあわせてすぐ、俺は本題を切り出した。

 あったの? と質問したのは、実は勘違いでした。の可能性を考えたからだ。


「これさ」

「これね」


 博士と真姫さんが、二人でテーブルを指差した。

 それは、応接室にあるテーブルだ。最初に来たときからずっとここにあるやつ。

 テーブルの上にあるのは、乱雑に積まれたサイエンス雑誌と、お茶を飲んだ形跡のあるカップにお茶うけ。そして、真姫さんの『機鎧』ソヌアレクだった。


 さすがに雑誌は違うだろうし、テーブルも量産品だ。まさかカップや茶うけが? なんて考えるが、んなわけない。

 ならば残るのは、テーブルの上に鎮座するこれしかない。


「……え? まさか、これが?」

 アレクを指差す。


「そのとおり」

「そう。最初からずっと、目の前にあったのよ」


 それが合図だったのか、助手さんがホワイトボードを動かし、真姫さんの後ろに移動した。

 彼女はボード付属のペンをとり、アルファベットを書いてゆく。


 ソヌアレク。

 sonuareK


「この子は、大戦時からおじいちゃんがずっとオーバーホールを続けて使い続けてきた、最初の『機鎧』でもあるの。その頃の文字は、右から読むものだったわ」


 ああ、だから昨日、大正、明治風のカレンダーを見て気づいたわけね。


「つまり、この子の本当の名前は……」


 ホワイトボードに、ペンを走らせる。



 Keraunos



「ケラウノス!」


 場に居た全員が、その名を叫んだ。


 ただの偶然か? とも思うが、これの製作者は、あのゼウスの遺言も読み解いた大門博士だ。ただの偶然と片付けられない一致といえるだろう。


「ふふ……」

 全員がそのアレク改めケラウノスに視線を集めていると、真姫さんが小さく笑った。

 それは、自慢で鼻を鳴らしたというより、自嘲するかのような雰囲気だった。


「私が物心ついて、文字が読めるようになった頃、この名前を左から呼んだの。多分、文字を読んだのは初めてね。おじいちゃんも、それからそう呼ぶようになったわ。きっと、おじいちゃんなりのジョークだったのね……」

 彼女が、遠い目をしている。


「それが正しくないなら、そこで教えてくれればいいのに。おじいちゃんはずっと死ぬまでそれを修正しないで、私の間違いに、いつ気づくのかを笑っていたんだわ……ふふ、ふふふ……」


 微妙に目のハイライトが消えてませんか真姫さん?

 ご自分がおじいちゃんに馬鹿にされたみたいにとってませんか?


「でも、俺もおじいさんの気持ちはわからないでもないな」

「え?」


 真姫さんが俺の方を見た。

 今度は、目のあたりに影が生まれた気がする。


「おじいさんのことはよく知らないけど、真姫さんが文字を読めるようになって、そう読んだのなら、嬉しくてそう呼ぶようになったのかもしれないよ。だって、記念じゃん。真姫さんが文字を読んだ、大切な瞬間の」


 目の周りに生まれた影が、消えた。

 変わりに、頬が赤くなってきているように見える。


「は? え?」


「勝手な想像だけどさ、そう考えると、おじいさんも可愛いじゃん? それだけ、真姫さんが可愛かったってことじゃん?」


「な、なにいってんのよ透。馬鹿じゃないの? 馬鹿なんじゃないの!」

 ハイライトが、戻った。

 その上、おろおろわたわたとしている。


 うーん。可愛い反応だなあ。

 口に出したら飛び蹴りとか食らいそうだから、言わないけど。


 助手さんもそよかねーちゃんも、真姫さんのことを見てにやにやしている。

 このあたりも指摘すると怒られるだろうから、黙っておこう。



「こほん。ともかく……!」

 おろおろするのを咳払いして取り繕い、全力で話を戻そうと努力する真姫さんがいる。


「アレクは、その時代から何度も改修され、今ある形になったわ。最初に作られた部品なんて、普通は残っていない。でも、これには唯一、ずっと使われ続けてきた個所があるの」


 今度は博士がコンピューターを立ち上げ、三面図のアレクを見せてくれた。

 というかこれから、どう呼べばいいんだろこの『機鎧』


 すると、その背骨にあたる部分の色をかえ、表示してくれた。


「この『機鎧』の屋台骨となるこの部分に、意味のないパーツがあるんだ。取り除けもしないし、意味もあるわけじゃない。僕も前に整備させてもらって、首をひねる個所だった」


 ああ、そういえば、防衛戦の時に整備していたっけ。だから、ケラウノスという単語に覚えがあったのね。例え、逆読みだとしても。


「でも、君の情報と、大門君の情報で、意味がつながった。これをその武器と考えて、改めてこの『機鎧』を見ると、驚くべきことがわかる!」



 ごくり。

 誰かの喉が鳴った。



「なんと、この部分は、やっぱり全く意味がないと!」


 真姫さん以外の人が、全員肩や足をすべらせ、ずっこけた。


「この屋台骨のパーツは、人間で言えば背骨にあたって、絶対に外せないものなんだけど、背骨そのものを外して他のパーツに変えても、この子は動く。むしろやっぱりなくてもいいものなんだ!」


「意味ねーじゃねーか!」

 そよかねーちゃんが怒りの声を上げ、真姫さんは額をおさえている。


「そう。意味がない。この子は、無意味なパーツを背負ったただの重装甲タイプの『機鎧』だ。でも、あの大門博士が、そんな意味のないパーツを組みこんで、しかもケラウノスなんて名前をつけるだろうか? 答えは、ノーだと思うんだよ」


「てことは、その無意味なパーツそのものがケラウノスで、アレクはそれを振るうためにあるものってことなんじゃ?」

 説明を聞いて思った疑問を、俺は述べた。

 それなら、別の名前になったのを指摘しなかった理由の補強にもなるし、今は無意味でも、なんらかの条件で起動して、使えるようになるかもしれない。


「うん。そのとおり。その可能性は十分にありえる。この重装甲も、クラウノスを使うための反動に耐えるためと考えれば、十分ありえるからね。もっとも、そのエネルギーの射出口なんかが見当たらないから、これまた仮説の域をでないんだけど」


 とほほ。と博士が頭をたれた。

 無意味なパーツを取り出したとしても、それ単体では全く役に立つようなパーツではないらしく、結局はアレクの中に戻してあるのだそうな。

 どうやら、ケラウノスらしきものを見つめたのはいいが、これが本当にそのケラウノスなのかは、さっぱりわからないようだ。


「それってつまり、結局これが本物なのか、紛らわしい偶然なのか、わからないってことか?」

 つんつんと、ケラウノスをつつきながら、そよかねーちゃんが聞く。

「そうなるわね」

 そよかねーちゃんの問いに、真姫さんが答えを返した。


「意味ねー」

 そよかねーちゃんが、思わず声をあげた。

 俺も、がっくりと肩を落としている。


 結局、探し物は、減っていない。


「そうでもないわ。確かにケラウノス探索も、継続することになるけど、これが大きな手がかりであることには変わらないわ。あなたが発動させた、無効領域のように、それが、なにかの拍子で起動するとも限らないのだから。『機鎧』の性能にはまだ、それほどの秘密が隠されているのよ」


「へ?」

 真姫さんに視線を向けられ、そよかねーちゃんは自分を指差した。


「博博士。私は一度おじいちゃんの研究室をくまなく調べてみますから、博士は前に見つけた壁画になにかヒントがないか調べなおしてもらえます?」

「オッケー」

 博士は快諾した。


 いきなり言われて混乱するそよかねーちゃんを無視して、話が進んでいる。


「透。あなたの得てきた武具の情報は、きちんと上に通しておいたわ。ケラウノスもふくめて、全力をつくすそうよ。ただ、今回私達がケラウノスを見つけたという報告は、確証が得るまでお預けね」

 まあ、このまま報告したら、真姫さんのおじいちゃんの形見が持っていかれちゃう可能性もあるしね。確証もないし。


 さらに、裂け目がしばらく開かないことと、こちらから一メートル半ほどの裂け目が開けるようになったことも報告したそうだ。

 ただ、博士が作った装置だけど、博士は裂け目に関してはもう興味はないのか、名声などは放棄して、真姫さんに全部放り投げたのだそうだ。

 おかげでまた、真姫さんの名声が高まったようである。

 俺が誘拐されたさい、裂け目がこちらから開いたのは、この実験をしていたからで、俺の誘拐そのものはなかったことにされたようだ。

 当然、俺の体のことを報告しなければならなくなるからだ。

 ゆえに、裂け目の作成機を秘密にすることはできなかった。一応こちらからむこうへ行くのは危険だと釘をさしたようだが、それが守られるかは、わからないという。

 そして、偵察の結果、むこうの裂け目作成装置を一時的に使えなくし、クロノスがこちらを攻めるということもちゃんと伝えられている。

 クロノス自身が攻めてくる情報は、クロノスの槍が完成し、赤い雫を破壊するほどだと報告することで、緊張感を出すことに成功したらしい。


 結局俺は、もうしばらく秘密兵器のままらしい。

 前回は裏切りを警戒して無名の俺を裏においていたわけだが、今回は俺の体の問題で秘密継続になったそうな。しばらく博士と研究してから発表するってさ。



「で、あたしがなんだってんだ!」

 無視され続けたそよかねーちゃんが、ついに爆発した。


「うっふっふ。そんなに慌てなくてもいいんだよー。むしろこれからが今日の本番なんだからー」

 博士がそよかねーちゃんを見た。

 にひひと笑い、かけている丸めがねがきらーんと光らせる。

 さらに両手をわきわきとさせながら、上半身をゆらゆらと揺らしてさえいる。

 そよかねーちゃんが一瞬びくりと後ずさった。


 そよかねーちゃんを怯えさせるとは、さすが博士。


「そーいや、そよかねーちゃんが無効領域を発動させたとか言ってたけど、どういうことなわけ?」

「うん。彼女はね、なんと君を助けに行った時、無効領域を発動させたんだよ!」


「いや、それ聞いたよ……」

 何度も言われたので、流石の俺もあきれ……


「……って、え? マジ?」

 ……る前に、その事実に思い当たって、愕然とした。

 無効領域って、飛び道具を無効にする、巨人だけが持つとんでもない能力じゃん。ひょっとすると、あの光の一撃も防げるかもしれない、とんでもないバリアじゃん。


 それを、そよかねーちゃんが発動させた?


「……マジ?」

「うん。マジさ」

「そう聞いてますよ」

「マジ?」

 博士と助手さんを見て、今度はそよかねーちゃんを見た。


「いや、あたしは覚えたないんだって」


「マジ?」

 今度は、真姫さんを。


「ええ。本当よ。あなたは気絶していて気づかなかったでしょうけどね」


「マジなんだ」

 すげーなそよかねーちゃん。俺よりなんか特別な感じがするぜ。


「だから、再現実験をするために、彼女もここに来てもらったんだよ!」


「とはいえ、ここでは『機鎧』の起動ができないから、私の家にいきましょうか。おじいちゃんの研究室を調べて、アレクのケラウノスが起動できるのか、本当に関連性があるのか調べないといけないし」


 あ、結局『機鎧』としての呼び方は『ソヌアレク』のままでいいんだ。了解了解。


「それはつまり、大門博士の研究室へ入っていいということかい!?」

「ええ。博士にも調べてもらった方が速いでしょうからね」


「いやっほーい!」

 博士、飛びあがって喜ぶの巻。



 というわけで、場所は大門家に移るのだった。




───大門真姫───




 みんなが私の家にやってきた。

 門の鍵を開く。


 大丈夫。昨日色々決まった時、きちんと掃除したのだから。


 ウチに誰か人が来るなんて、おじいちゃんが死んでから、初めてかもしれない。

 なんか、どきどきするわね。


「うわー。マジかよこれ。広すぎだろ」

 そよかが声をあげている。


 私の家は、市外に少し行ったところにある山を背にして屋敷が建てられている。


「大したことないわよ。『機鎧』の起動実験をするためにも、これくらいの広さが必要なだけ。本当なら、山の方にある実験場の方がいいんでしょうけど、今回は資料も探すからね」


「山、山って裏に見えるあれも敷地なのかよ!」

「あー、そういえば同じようなつくりの別荘とかあったし、病院にも出資してるし。すげーんだね」

「別荘? マジかー」


 なぜそんなに驚くのかしら。

 そよかだって父親は今日本の『機鎧』を統括する人だというのに。


 屋敷を案内し、ひとまず無効領域の実証実験を開始する。

 サムライ号を使い、そよかを乗せ、再び無効領域が発動するかを試すのだ。

 そのために、庭で色々なものが射出できる大砲を用意しておいた。


 むこうから戻り、この事実を報告してから、博博士の興味は裂け目からこれに移り、わくわくしながら今日を待っていたようだ。

 再現実験の方は彼にまかせ、私はおじいちゃんの研究の中で、ケラウノスが言及された個所がないかを探すことにする。

 クレタ島で壁画を発見した時のように、隠し通路があったりしないか念入りに調べたが、残念ながら今住んでいるこの家には、そういうものはないようだ。


 さらにおじいちゃんの書庫にある研究日誌なども調べ、製作の記録なども確認したが、やはりケラウノスに関しての記述は存在しなかった。

 当然と言えば当然か。ここにある書物は、すでに私が読みつくしている。

 記述があるのなら、記憶にあるはずだ。


 それでも、今回の右から読むような思い違いがなかったかと思って再検討したが、それもなかったようだ。

 念のため、データベースに検索をかける。


 おじいちゃんは紙が好きで、その研究結果の電子化は私の仕事だったから、ここにケラウノスのデータは入っていないはずだった……



「う、そ……」



 なのに、検索の結果に、『一件』のファイルがひっかかる。

 こんなもの、私が自分で登録した覚えはない。

 さらにそれは、私がアクセスして、ケラウノスを検索した時のみ表示されるようになっていた。


 震える手で、そのファイルを開く。


『このファイルを読んでいるということは、私はもうこの世におらず、巨人が世界へ攻めてきたあとだろう』


 そんな一文から、おじいちゃんの言葉がはじまっていた。


『このファイルを見つけたということは、アレクの真の力の存在に気づいたということだ。お前は、ケラウノスという名の真の意味に気づき、私に怒りを覚えただろうか? だが、私はお前の初めて読み上げた単語が嬉しくて、それを正すことができなかった。とんだ孫バカだが、許して欲しい』


 ……彼の見立ては、当たっていた。

 ホント、おじいちゃんは、孫バカなんだから……


『ソヌアレクには、ケラウノスの起動に必要なものが二つ、もしくは三つ欠けている。これは、ワザと私がそう設計した。それほど、ケラウノスは危険な武器となりえるのだ。巨人との戦いがなければ、私はこれを海の底か、空の果てへと投げ捨てていただろう』


 おじいちゃんがこれほど警告するのだから、やはりケラウノスとは、あの巨人の世界で見たあの光に匹敵するほどの兵器なのだろう。


『ソヌアレク単体はそれだけで完結している。だが、つながりの意味を考えよ。ケラウノスは、鎧であり、武器である。その鼓動が、いかにして伝わるかが、重要だ。真姫よ。お前は一人ではない。仲間が必ずいるはずだ。その者と協力して、必ず地球を守って欲しい。そして、これを読む者よ。どうか私の真意を悟り、心してケラウノスをあつかって欲しい』


「……」


 そして最後の締めには、私のことを愛していると記されていた。

 起動に必要という欠けたピースは、どこか暗号のようにぼかされて表現されている。

 私しか読めない文章だが、それでも用心に用心を重ねるというのは、ケラウノスとはそれほど恐ろしい威力なのだろう。

 心して使わねばならない。



「わかったわおじいちゃん。巨人との戦いが終わったら、この兵器は誰の手にも届かない場所へ、捨てることを私は誓うわ」

 当然、破壊するという考えも、選択肢にある。


 私はこのファイルの文章をすべて頭に記憶し、このファイル自体は消去することに決めた。

 これでケラウノスを起動できる可能性があるのは、私だけになる。



 私はおじいちゃんの研究室から出て、実証実験を行っている庭の方へと向った。



 様々なパターンで実験は行われたらしい。



 結論から言えば、実験は成功した。

 発動の条件は、大まかに言って二つ。


 一つは、透が向こうの世界で手に入れた、あの青い液体の入った、裂け目を開く装置の動力源であった水晶があること。

 当然それは、巨人の力を再現した『機鎧』につまれていなければならない。それ以外では、ただの置物でしかない。

 これは、向こうの世界でしか手に入らない物だろうが、同じく裂け目を開くために使用した博博士の装置を用いれば、代用がなった。

 やはり空間に作用する領域だからこそ、これが必要なのだろう。


 もう一つは、男女が同じ『機鎧』に乗っていること。

 これは、息を合わせて動くなどの必要はなく、ただ男女が相乗りしていれば良いというものだ。

 博博士と助手でも、私と透でも成功したのだから、間違いはない。

 ちなみに、一方が人間で、もう一方がそれ以外(猫など)の場合は無理だった。ただし、巨人世界にいた異種族の場合は、不明。



「なぜ、男女の場合だけなんだろ?」

 私が実験場へ行ったら、透が疑問の声をあげていた。


「さあー? 魔術的なことを言うなら、男と女で、陰と陽がそろったことになり、完璧になるという話もあるからねー。それくらいじゃないかなー。この理由は」

 博士が首をひねりながら言う。

 これはもう、理屈ではなく、そういうルールなのだろう。

 なぜ飛行機があの翼でなぜ飛べるのかまだわかっていないが、飛べるから飛んでいるのと同じような理屈だ。


「じゃあ、ニューハーフを乗せれば一人でも?」

「どうだろうね。肉体的にどちらもそろっていなければダメかもしれないよ」


 男二人がはははと笑う。

 なにを話しているんだこの二人は。


 ……でも、男と女が必要ならば、半陰半陽の人ならば、確かに一人でいけるのかもしれない。

 人間は男がいて、女がいて、二種いるから不完全であり、だからそれがいいという話もきく、が……


「っ!」

 その瞬間。私の頭に、ある仮説が生まれた。


 男女、二人いなければ完成しない。

 ケラウノスはあくまで、武器……


 おじいちゃんの言葉と、アレクの姿が思い浮かぶ。

 あの状態のアレクには、エネルギーの放出口は存在しない。だが、つながりを考えれば……

 頭の中で、アレクを分解し、その鼓動の伝わりを新たに生み出す。


 すると……


 私の中で、ケラウノスの全体像がはっきりと完成した。

 アレクは、鎧であり、武器だったんだ。

 仲間がいて、協力しなければいけないんだ。


 私は、おじいちゃんの真意を、はっきりと掴んだ。


「そうか。そういうことだったのね。アレクは、いえ、ケラウノスは、あくまで武器なんだわ。そう考えれば、すべてがつながる……」


 私はその事実に愕然としながらも、興奮を覚えずにはいられなかった。


 これで、ケラウノスが起動できるかもしれない。



 私はこの思い付きを、博博士に伝えた。

 これを実現するためには、私の技術では実現できないと考えたからだ。



「そ、そういうことだったのか!」

 博博士も、私の仮説を聞き、目の色を変えた。


「いける。確かにそうかもしれない。わかったよ。ケラウノスの件は、僕にかませてくれるかい!? 王様が攻めてくるまでに、きっちり使えるようにするからさ!」

「もちろんです。お任せします」

「まーかせてー!」


 さすが。普段はケラケラしているが、こういう技術面では頼りになる。

 透の動きについていける『機鎧』の製作に、飛行ユニットの完成。さらに、裂け目を生み出す装置の開発。彼一人で、これだけの成果を成し遂げている。

 ならば、今回も同じように実現させてくれるだろう。


 ならばあとは、敵がこちらへ押し寄せる前に、二つの武具を見つけることだ。

 残された時間は、一ヶ月と、敵が裂け目を開ける間。

 長くても十日。早ければ、直った直後に人型のサイズに縮小して姿を現すだろう。


 私達は感じていた。

 クロノスとの決戦も、近づいてきていることを……



 次に裂け目の予兆が観測された時。それが、決戦の火蓋を切る合図であると……


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