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金属と人間と  作者: VISP
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第一話

この物語は作者なりに「地球外生命体の地球への来訪の理由」に迫ってみた作品です。


 第一話

 

 2020年代の地球にて、突如宇宙から隕石群が飛来、ユーラシアを中心に世界中に落下した。

 数日後、落下地域を中心に不可解な事件が相次ぎ、一カ月後には大規模な異変が起こり始めた。

 後に言う「隕石異変」である。

 その具体的な内容として、落下地点付近の森林や山地等が金属状の何かに覆われていた事がユーラシアを中心に続々と発見されたのだ。

 調査は遅々として進まず、遂には田舎の町村が住民ごと金属状の何かに覆われた事件を切っ掛けとして金属状の何かに浸食された場所を軍によって焼き払う事が決定された。

 結果として、焼き払い作戦は失敗した。

 他ならぬ金属達によって、作戦に従事した部隊は壊滅の憂き目に会ったのだ。

 その数刻後に、サンプルを研究していた日本のとある研究者からの発表により、金属体が周囲の物質を吸収し、分裂増殖している事が判明した。

異論は多々あるものの、これを以て正体不明の金属体を生命体であるとされた。

 こうして、人類は初めて地球外生命体との最悪な形での接触を持ったのだった。

彼ら(と便宜上言わせてもらうが)敵性金属生命体は、ユーラシアを中心に人類他地球上の生命体全てに敵対行動を取り始めた。

中国はあっと言う間に砂漠地帯を奪われ、ロシアやモンゴルもその領土の大半を奪われていった。

また、日本等の島国を除いたアジア、ヨーロッパの国々も膨大な犠牲を払いながらも、祖国のためにと必死の防衛戦を続けていた。

 敵対的金属生命体の多くは接触した物体を無差別に取り込み、吸収。己の一部としてしまう。

 そのため、従来兵器の多くは陳腐化し、別の対抗手段が練られた。

 ミサイル等の誘導兵器は全て近接信管が採用され、レーザー兵器や粒子兵器といった非質量或いは質量が極僅かである兵器の開発が進んだ。

 また、兵器の他にも、敵性金属生命体との和平手段の模索として金属生命体そのものの研究も推進された。


 その結果として、金属生命体の大まかな性質も判明した。

 一つ、その形態は(大きさは兎も角として)基本的に薄い六角形であるが、自由にその形態を変更する事が出来る事。

 二つ、接触した物体を(中でも金属は)吸収してしまう事。ただし例外あり。

 三つ、激しい衝撃や高い熱量、エネルギー等は吸収し難く、一定以上を超えるとダメージを負う事。

 四つ、繁殖するには吸収して質量を増加させ、分裂する事。

 五つ、重力制御を可能とし、360度全方位に飛翔し、更に浮遊・停滞が可能。

六つ、一部の固体は通常とは異なる性質を持ち、高い能力を有する。

 

そうして研究された結果の一つとして、非敵性金属生命体の「利用」が計画された。

 その計画の切っ掛けとなったのはユーラシア大陸の外、そこで非敵性金属生命体と融合してしまった人間の治療方法の研究だった。

 彼らの多くは大小様々な六角形の非敵性金属生命体と中途半端な融合をしており、今まで通りの生活を送るには肉体と周囲からの差別もあって不可能だった。

 そして、彼らはその大半が国により保護され、治療を受ける事となったのだが、それ名前だけで実際は隔離と研究だった。

 詳しい説明は公開されておらず、解っている範囲だと当初の彼らの生活は燦々たる有様で、国によっては人権すら無かったと言われる。

 だがその結果として、未だは根本的な治療方法を開発できていないものの、ある程度融合した金属生命体の能力を利用する事に成功した。

 つまり、敵性金属生命体と同じ力を人類が手に入れた事に他ならない。

 研究が一定の成果を上げると、敵性・非敵性金属生命体を区別するための呼称としてそれぞれ「エネミー」と「アンノウン」が用いられるに至った。

 前者は敵として確定しているが、後者は未だ謎に包まれているが故の安直なネーミングだったが、この通称が区別前から徐々に使用され、浸透してしまったために普及する事となった。

 さて、当初は不幸な犠牲もあったが、日本やアメリカ、アフリカやオーストラリア、東南アジアといったユーラシア以外の地域に散見される金属生命体と融合してしまった者達は各国政府の保護下に置かれてからは政府や企業の対金属生命体研究施設の他、一部ではユーラシア戦線やその近隣地域での水際防衛作戦に投入される事となった。

 時は2033年。金属生命体の地球への飛来から、実に3年の月日が経過していた。



 ・・・・・・・・・


 

 雲一つ無い、春先の行楽日和の快晴。

 空の下に広がる青い海も、今日は波が穏やかだった。

 そんな空を、一つの飛翔体が白い雲を引きながら飛んでいた。

 それは航空機ではなかった。

 それは奇妙な形状をしていた。

 正六角形。

 表面に銀色の光沢を持った、生物的な要素は一切感じられない外見の何がしかの金属体。

 それが飛翔体の正体だった。

 それは何らかの目的があるのか、先程から一直線に飛翔を続けている。

 証拠に、それが今まで引いてきた白い雲は多少風により歪むなり、消えるなりしていたが、凡そ真っ直ぐに続いていた。

 それが何を考えているのかは誰にも解らない。

 何せ、それは人ではないからだ。

 

敵性金属生命体、通称『エネミー』で呼称されるそれは、主にユーラシアにて猛威を奮っている存在だ。

 その標的は人も動物も植物も、非生物であるかすら関係無い。

 視認(眼球は確認されていないため、どうやって確認しているかは不明だが)した存在には、同族を除けば片っ端から攻撃=吸収へと移る。

 そんな脅威の存在だが、ユーラシア大陸の内外では途端に分布数が激変する。

 ユーラシア内に存在する金属生命体を100とするなら、その外にいる個体数は1に届かないと言えば解るだろうか?

 ユーラシアでは毎日が金属生命体と人類とが生存競争に明け暮れていた。

 そして、この個体はそうした場所から離脱し、その外へと出ていた。

 通常、こうした個体は即座に撃墜されるのだが、極稀にユーラシア大陸外への脱出に成功するのだ。

 それは何らかの理由で防衛戦が突破された事を意味していた。

 

 不意に真っ直ぐに飛翔を続けていたエネミーが身を翻した。

 直後、一瞬前までエネミーが存在した空間を、何者かが高速で通過、すれ違って行った。

 その余波で衝撃波と大気の乱流が生まれたためにエネミーは僅かにバランスを崩すものの、即座に安定を取り戻し、予定していたコースに戻ろうとする。

 しかし、まるでその様を観察する様に先程高速ですれ違って行った者が並行に飛行していた。

 それは航空機ではなかった。

 それは奇妙な形状をしていた。

 それは人だった。

 全身を金属生命体と酷似した装甲で覆われ、高速で飛翔しながらも、それは確かに人だった。


 『もしもし、聞こえていたら返事をしなくても何らかの反応をしてください。』


 不意に、人から金属へと声が掛けられた。

 それは通常の電子機器を介して行われる様なものではなく、まして肉声で行われたものではありえない。

 この速度域で直接肉声で話すとなれば、触れる程の至近距離でもまともな発音になるかも怪しい。

 詳しい原理は未だ不明であるものの、仮説として金属生命体には特定の重力波に音声情報を乗せて発信する機能がある事が推測されている。

 彼らはこうして宇宙空間で膨大な距離が在っても問題無く交信できるのだ。


 『貴方は現在、日本国領空を飛翔しています。このままでは我々は貴方を攻撃しなければなりません。それを避けるため、貴方には当機が誘導に従ってこちらの保護下に入って頂きます。認められない場合、当機は貴方への攻撃を開始します。』


 まるっきり領域侵犯した不明機への扱いと同じだった。

 それも当然だった。

この飛翔する人は日本国自衛隊と公的には同じ様な立場にあるのだから。


 『警告に従ってください。態々ユーラシアから死に物狂いで逃げてきたのに、ここで撃墜されたくは』


 そこまで人が言った時、不意に金属体が加速し、引き離しにかかった。

 その進行方向は先程と変わらない、つまり日本本土を目指していた。


 『敵対行動と認識、排除に移ります。』


 そして、人もまた望み薄だった説得を諦めて、戦闘行動を開始した。

 その腰へ接続していた火器を腕部へ保持し、エネミーへと銃口を向ける。

 人が携行する火器としては余りに大き過ぎる20mmガトリング砲、M61バルカン。

 退役したF-4に搭載されていたものを、艦載仕様のJM61-Mの予備パーツと組み合わせる形で携行火器として改良したものだ。

 その威力は弾種が徹甲榴弾、それも新型炸薬への交換により威力が向上したものを採用しており、より対金属生命体を意識した仕様となっている。

 無論、人が携行するには重量・反動・威力等のあらゆる面で不向きな筈なのだが、この人は難無くそんな代物を振り回す。

 直後、重低音が青空へと響き渡り、20mm徹甲榴弾が高速で飛翔する六角形へと放たれた。

 人体では当たらずとも周辺を通過するだけでバラバラになるだろうその銃撃を、六角形はU.F.O.染みた不規則な挙動でその全て回避する。

 ただし、その機動力は人も保持している。

 回避機動により速度が鈍ったエネミーに対して激しい機動の中であっても、人は常に後ろ斜め上空のポジションを維持、一方的に攻撃を加える。

 これが戦闘機ならとっくに空中分解を迎えていてもおかしくは無い程のGが互いに掛かっているにもかかわらず、双方ともにその機動には些かの疲れも誤操作も無い。

 しかし、全力で撃てばあっと言う間に弾切れとなる事、そして1対1での戦闘である事から、人はどうしても決め手に欠けていた。

 だが


 『ライン2、照準は?』

 『ばっちり!』

 

 直後、エネミーの下面へと光が突き刺さった。

 ガトリング砲弾へと気を取られていたエネミーに、斜め下から放たれた光速の槍を回避する余裕は無い。

 レーザー兵器はその性質上、回避が非常に困難だった。

 未だ一瞬で金属生命体を撃破するだけの出力を出す事が出来るのは艦載・車載式のものをしかないが、大型携行火器クラスなら5秒もあれば撃破できるし、数が揃えばその時間は短縮できる。

 重力波通信越しに何らかのノイズがエネミーから発せられるが、2人は断末魔の声とでも言うべきそれにも躊躇しない。

 上からのガトリング砲、下からのレーザー砲に挟まれ、機動も制限されながら、それでも生存のために右へ左へ上へ下へと不規則かつ高速で回避機動を取る。

だが、この2人は狩人。

そうしたエネミーの機動に対し熟達しており、自分達もまた同じ機動力を持った存在なのだ。

奮闘空しく10秒と経たない内にエネミーは見る見る内にその体積を削られていく。

 レーザーに照らされた部位は赤熱し、溶解していく。

 ガトリング砲弾が掠めた部位は、大きく削ぎ落とされる。

 そして、遂には回避機動すらままならなくなり、砲弾の集中豪雨の前に空の花と化した。

 

 『標的の撃破を確認。』

『サンプルの回収は後続に任せよう。飯の時間だ。』

 『…ライン1、帰還する。』

 『ライン2、同じく帰還する。』


 そして、空を行く2人は本土へ向けて加速した。






 

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