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「仮面でもかまわない」【愛美視点】

久しぶりの投稿。透藤愛美ちゃんの物語。

十四、五ミリ口径、機能のイカれた私の武器。

 私の濃い桃色をした銃口ひとみは、殺傷力が全くないからだった。

 仲間の冷たい視線は私の心を打ち抜く。それはじわりじわりと内側から私を腐らせていく。

 そんな現実から逃れるために、私は今日も――――本を開くのだった。




『「仮面でも構わない」』




「なぁなぁ聞いてくれよ! 今日の演出最高だったんだぜ、相手をぐるぐる巻きに縛り付けてさ。手の甲に蝋燭ろうそくを突き立てて拷問してやったんだ! それで『お前の心臓まで届くまであと――――』とか言ったら相手はぐじゅぐじゅの顔で口を割ったよ。新選組の土方歳三も納得する再現だったと思う ぜ。まぁその後止めてあげなかったのは、オリジナルなんだけどね」

「いやいやそれでは、七十点もいかないような出来前だろう」

「はぁ!? この映像見た上でそんなこと言うのか? 完璧じゃないか!」


 私、透藤愛美はそんな会話が行き交う部屋で、薄型テレビをずっと眺めていた。自慢をする男と、それを評価する男が目の端に映る。本当はこんな話をしている中にいたくはない。しかし、どうしても見たい番組がこれから始まるのだった。そのためにじっと私は座り、待ち続けている。


(服装の描写)


 私達の集団、誇り高き芸術の家系『透藤』は、常に自分の描く台本通りの〝演出〟を追い求めている。そしてそれを映像に撮り、評価をし合うのだった。ただ、よくある芸術家と は少し異なるのだ。


「なぜなら『透藤』の能力を使っていないではないか。お前の〝同調〟という立派な能力をその演出に使わなければそれ以上の高得点は目指せないだろうね」

「――――おい、俺の能力を知って言っているのか。これを使ったら目に写った相手の痛覚がそのまま俺に写るんだぜ? どうやってそんなの演出に入れればいいと思うんだよ」


 何が異なっているのかというと、私達が巷の一般人は持っていない〝異能〟を身につけているということだった。私の桃色をした瞳が二人の男――――鼠色の瞳と黄土色の瞳を捉える。

 透藤家とは、五感の中でも視覚が卓越した演出家である。そしてその扱う内容とは人を殺めるまでの演出に凝るというものなのだ。




*****



 こんな異能者が生まれたのは、島国の苦悩が発端である。欧米列強の驚異に晒された島国は、〝最強〟の人間を造るべく研究を始めた。

 その一部の研究員は、『人間の五感の超越』を目指し研究を始める。視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚をそれぞれ極めた者同士がチームを組んで戦えば最強だと考えたのだという。


 そして生み出すことには成功したものの、その五人同士で争い始めた。時間が経つに連れてそれは五つの分家に別れていった。その名はそれぞれ嗅覚の匂神におがみ、聴覚の七基ななき、味覚の世辞せじ、触覚の刺宮しみや、そし て――――視覚の透藤とうどうとなった。


「ワンレンジャーはこんなに良いコンビネーションをするのに……」


 私は真っ暗闇の中で思わず呟いた。真夜中の二時。テレビの画面がぼんやりと私の顔を照らす。結局男二人の無言の圧力から耐えられず自分の部屋に帰ってしまい、この見たかった番組を見ることができなかったのだった。録画予約をかけてよかった。心底私はそう思った。


 テレビの中では、変身スーツを着て戦う五人の戦士が足のたくさんついた敵と戦っていた。赤、青、緑、黄、そしてピンクをしたヒーロー達が鮮やかな連携技を繰り出す。そして弱った敵は奇妙な薬を使って巨大化し、その敵と戦うため個々の持つ戦闘機を合体させ巨大ロ ボとなり応戦するのだ。


 私はその中でも、ピンクが好きだった。私と同じ濃い桃色のスーツを纏った戦士。好きな理由は共感する色だということと、女の戦士だからという理由だけではない。黄色も女の戦士なのだが、私は断然ピンクの戦士のほうが好きだった。なぜなら、女性らしさも兼ね備えた上で竹を割ったような性格をしていたからだった。好きなものを好きと言い、嫌いなものを嫌いと言える、たまにワガママだとメンバーに言われてしまうようなそんなキャラクター。


 それが私にとっては輝く憧れの存在だったのだ。


 私は『透藤家』の落ちこぼれだった。

 生粋の透藤家である両親から生まれたが、必ず持って生まれてくるはずの〝能力〟がない。そのため五感家との抗争にも 参加ができないし、その過程で生まれる演出も当然ないのだ。だから評価もされるわけがなく、皆は私を忌み嫌っている。――――むしろそれならまだ良いほうだ。もはや興味の範疇にないかもしれない。私はピンクどころか、透明だ。何色にもなれない居ても認知されない、そんな存在。そんな私が何かを好き、嫌いで区別できるような立場ではない。


 皆の視線がただただ怖かった。灰色の視線、黄土色の視線、赤い視線、青い視線。『透藤家』には他にも様々な色をした瞳を持つ人間がいる。しかし何色であれ、私に向けられる視線は冷たいものだった。パパもママも「時期に愛美の〝能力〟は開花する。もう少し待って欲しい」と周りに言い続けている。その顔は最近少し疲れているように見えた。

< br>「…………あ」


 そんなことを考えているうちにワンレンジャー達は無事に怪物を倒し、エンディングを迎えていた。生きがいとも言える『最強戦隊ワンレンジャー』を見終わった後の虚無感は言葉に表せない。また一週間、頑張ってまたなければならない。私は思わず小さく溜息をついた。テレビのある広間に別れを告げ、自分の部屋に帰る。特に疲れてもいない私の身体は、寝ることもできずに桃色の瞳は新たな〝没入できる物語〟を探す。部屋が本の匂いになってしまうくらいに、ぎっしりと本棚に本が詰まっている。大小様々の本が、むしろ本棚にさえ収まりきらず積み重なっている。演出に命をかける『透藤家』だからこそ、こんな私でもテレビや漫画、本などを見ることは許されているのだ。

< br> 童話は読み飽きた。好き嫌いが判断できない私には、勧善懲悪を理解することはできなかった。

 何が善で、何が悪なのかわからないからだ。

 自分を愛す素敵な王子様のキスも、待ち続けたところでやってこない。

 教育に用いられる童話のくせに、とっても嘘つきだ。


「……愛美」


 その時、ふと私の名前を呼ばれた。本棚から目を離して少し遠い方を見る。ぼんやりとした視界はゆっくりと鮮明さを取り戻し、名前を呼んだ人の顔が浮かんできた。


「お、お母さん」


 私は実の母であるその人物を見て、目を丸くした。そして一歩だけ後ずさる。私は恐怖を覚えた。いや、そういうと語弊があるかもしれない。私は母親自体に対して恐怖を覚えたわけではない。ただ、“欠 陥品”である私に、母親が積極的にこのように話しかけていることに対して恐怖を覚えたのだ。嫌な予感しかしなかったのだ。


「愛美、もう寝ようとしていた頃かしら?」


「い、いえ。寝つけられなかったので本でも読もうとしていたんですが……」


 久しぶりの会話に、唾をのみこむタイミングさえ失ってしまう。おかしいことを言っていないだろうか。そんなことばかりが頭をまわり、結局自分が今何を話しているのかわからなくなる。


「じゃあちょうどよかった。ちょっとお話してもいいかしら」


 そして母は私の部屋の扉を閉める。閉鎖された部屋で母親の匂いを直に嗅いだような気がした。母親も自分の服から漂うお気に入りの洗剤の匂いのはずなのに、それさえ緊張を助長さ せるものにしかならなかった。

 遂に、面と向かって“欠陥品”の烙印を親から押されてしまうのだろうか。


「驚かないで聞いてちょうだい。……そして、この内容は誰にも言わないこと」


 しかし母の瞳は私を責めるものではなかった。それは直感的に思ったことだった。母親も私と同じ濃い桃色の瞳をしている。その瞳はまっすぐと私に向けられていた。少しだけ私の肩から力が抜けた。


「透藤は近々、七基ななきに滅ぼされる」


「……!!」


 それはあまりにも唐突な話だった。七基というのは透藤家と対立している“五感家”の一つだ。聴覚の卓越した超人達の集まり。音楽団として各地を放浪している少し変わった家のようだ。


「七基の女性が刺宮の家長へ嫁いだみたいなのよ。そして七基はそれに対して反感を覚えつつも、刺宮の力を利用して他の家を襲撃しようとしてる。とは言っても化け物の世辞家と、情報屋の匂神家は手を出しにくい。だから私達、透藤家を先に食い物にしようということらしいわ」


 母は淡々とそう今の状況を説明する。しかし、私はその言葉の羅刹を理解しきることができなかった。耳には入るが、脳が意味を導き出せない。というよりも心を守るために拒否していると言っても過言ではないだろう。


「でも、恐れることはないわ。むしろ貴方のことを解放をしてくれる英雄よ。七基の人間に愛美が能力を保有していないことを説明したら、逃がしてくれるということを約束してくれた」


 そう 言うと、母は私のことをそっと抱きしめたのだった。柔らかく包容してくれるこの感触はいつぶりのものだろうか。


「貴方がもう、蔑まれることはないのよ」


それは私にとって甘く聞こえた。それだけ気にしていないつもりで過ごしてきた日常に私は参っていたのだろう。


 私を“私”という一人の人間として評価をしてほしかったのだ。


「重ねて言うけれども、絶対この話は内緒にして頂戴。少しでも誰かにばれてしまったら、愛美も私は命はないわ」


 その言葉は私の耳元で囁き、そっと母は私の部屋を後にした。私は母の背中を見届けてからベッドに寝転がる。母の言葉が頭から離れない。そして胸の動悸が収まらなかった。様々な気持ちが渦巻いていて、窒息しそうになる。それ でも一つだけ言えるのは――――私は久しぶりに、楽しい夢を見れそうと思えた夜だったということだ。






 怪物の喰い跡が残る三日月が夜を照らす。遂にその日は訪れた。別に決行日を母から聞いたわけではない。しかし今日は“演出”を担当していた鼠色の瞳と黄土色の瞳をした二人組の男が帰ってこなかったのだった。その二人組は透藤家の中でも指折りの実力を持つ人だった。だが、その二人組はいつまで経っても戻ってこない。まるで神隠しの出演者になってしまったのかのようだった。


 二人組の男が組み立てた物語が、何かより大きな物語に呑み込まれた瞬間だったのだろう。


 騒然としている館の中で、一族集合の合図が出された。その合図とはどこにいても視界一面に瞬 間的に映る“目のマーク”だ。家長は一族に対して視覚の情報を一斉に送る能力を持っているのだった。実戦向きではないが、司令官としては非常に有能な力である。

 私も例外ではなく、その合図に従い家長のいる部屋の隣に設置されている大会議室に向かった。私の部屋から少し遠くにあるため足早に向かう。開かれた扉へ足を運ぶと、そこには家長であるお爺じいさんが豪奢な椅子から立ち上がり、何かを言おうとした瞬間だった。


 そしてその言葉は、私達が認知をすることができなかった。


 「よう」


 低く蠢うごめくような声が聞こえた。それはお爺さんの方向から聞こえたものだったが、決して聞き なれた彼の声ではなかった。こんなにおどろおどろしい声ではない。そして何も声を発せないまま、私達、透藤家の象徴でもある家長が――――倒れた。その先に人型は残った、そこに耳障りな声の主がいた。


 影と形容してもおかしくない黒のジャンパーを身に纏った男の姿だった。まるで黒魔術師のような姿だ。そして彼は常に目を瞑つむっている。その瞼はぴくりとも動かない。


「家長、透藤間語まかたり討ち取ったり。こんなにもまぁ、残虐な“演出”で魅せる透藤家が急襲に弱いとは傑作だ。あぁこれこそ面白い物語を作れそうじゃないか」


 男はゲタゲタと汚く笑っていた。そしてベロリと舌なめずりを する。蒼白な顔とは対照的に、血のように赤い色だった。男に対する透藤家の人間は長が倒れているのにも関わらず、互いの顔を見合わせじりじりと後ずさっていた。様々な色をした瞳は困惑と恐怖に色を濁らせていた。


「な、なんだ……お前は何者なんだ!」


 茶褐色の目をした透藤の男はそう叫んだ。その表情を見えているのかどうかはわからない。しかし、黒魔術師は嘲笑した。


「俺は七基さ。それ以上でも以下でもない。お前らと違って、己の名や実績、作品などどうでもいいのだよ。家の実績のために己の命を捧げるのさ」


 七基、聴覚に長けた家。母が予言をした通りのことが今起こっているのだ。そして信じられないことが起こったのだ。その質問を投げかけた茶褐色の目の男 を差し置いて他の透藤家の人間がこともあろうに――――逃げ出したのだ。


「ここまで腐ったか」


 呆れたように七基の男は嗤う。そして扉の奥で控えていたのか黒い服を着てサングラスを着用した集団が扉を塞いだ。


「まぁまぁ、そんなに死に急がないでくれよ。ちゃんと殺してやるからさぁ」


 私はただただその状況を見ていることしかできなかった。滅ぼされそうになっている透藤家の姿。滅ぼそうとしている七基の男の姿。私を助けようとしている母の姿、その母を助けている七基の男の姿。

 しかし、私の自由を取り戻そうとしている二人の人間は、どこまでも醜く歪んだ笑みを浮かべていたのだった。童話で出てくる悪の魔法使いのように。ワンレンジャーで出てくる悪役のよ うに。


 “悪”とはなんだ?


 私の頭の中でポツリと誰かが呟いた。そして喪服のような黒いものを纏った人間は、私を蔑んできた透藤の者達に銃を向け、発砲する。私にとっての脅威はいともたやすく“他の脅威”に殺されていく。


 “私にとっての悪”とはなんだ?


 怯え、慄おののいている透藤の人間も、仲間を見捨てて逃げようとするような“善”からほど遠い人間だ。しかし、こんなあっさりと生を終わらされることに正当な理由はあったのだろうか。ゆっくりと銃口が私に向けられるのがわかった。もう私しか標的が残されていないのだろうか。周囲を見渡す余裕さえも私の桃色の瞳には残っていなかった。


「お勤めご苦労様。私の 可愛い、そしてお馬鹿な愛美。貴女の魂は“七基”の子としてもう一度産み直させて頂戴」


 私の母は、私が銃口を向けられているのにも関わらず、七基の男の唇を奪って恍惚とした表情を浮かべていた。そして七基の男は長く赤い舌で、母の下唇を撫でていたのだった。


“悪”とは別の正義だ。

では“正義”とはなんだ?


 私はやっと、自分が都合良く母に利用されていたということを知った。

 自分が助かりたいばかりに、母の甘言に酔って一族を滅亡に追い込んだ。

 私は死んでも死に足りない、最低な人間だ。だが、私の中で強い何かが動き出した。怒り、悲しみ、後悔や嫉妬が――――私を突き動かした。


 そう、“正義”とは私の意志だ。


 意志よ、突き動け。

 私は桃色の瞳をまっすぐ“悪”へ向けた。


「あんた達、さ、最低ね! “悪”と呼ぶのに相応しいわ!」


 好きなものを好きと言い、嫌いなものを嫌いと言える。ワガママなワンレンジャーのピンクのように。私は震える声を必死で絞り出し叫んだ。するとまるで主人公補正が掛かったかのように銃口を向けたまま銃を持つ喪服の連中は固まった。


「あら、貴女そんなに大きな声が出せるのね」


 母は私を嘲笑うようにそう言った。私は気落ちしそうになるのを必死でこらえる。そうだ、ピンクになりきるんだ。今は弱い私ではない。あの“悪”をなぎ倒すピンクなのだ。


「自分の幸せの為に、人を利用して仲間を殺すのなんて許せない」


 そう、それが実の母だとしても。私は その言葉を飲み込んだ。そして母から視線を逸らし、殺された透藤家の人間が持っていた長刀を拾い、鞘から抜き取る。あまりの重たさに一瞬ぐわんと足元がおぼついたが、すぐに体勢を整える。母も男も私がまさかそのような手に出るとは思わなかったのだろう。武器を没収し損ねていたようだった。


「はは、それで何ができるというのだ。さっさと始末しろ」


 七基の男が、そういうとそれに連動するように喪服の人間共が私に向かって発砲した。もう私は一つのことしか考えなかった。


 “ピンクを演じろ”と、私は頭の中に暗示をかけ続けたのだった。

 強気でかっこいい女の子に。自分ことを自分で決められる女の子に。


 バツンと音がした。目の前ではサングラスをぼろりと落 とした喪服の男が立っていた。そしてジェンガを壊したかのように、首、身体と順番に崩れ落ちていく。そして思い出したかのように真っ赤な鮮血が飛び散った。


 あぁ、傷つけたときに現実では火花ではなくて血が出るんだ。そして本当に分断できてしまうのか。私はそんなことを頭の端で考えた。ぬめり気のある血で柄から手が滑り落ちそうになる。でもピンクだったらこんなところでそんなミスはしない。そしてピンクならここで休んだりしない。彼女なら“仕事”は一気に片付けて基地に戻り、ネイルにいそしむのだ。


「あんた、こういうときに限って、能力を目覚めさせるなんて……!」


 母がヒステリックに叫ぶ。しかし、私はそれを気にも留めなかった。女の子は非力だから、突き刺 したら抜くのは時間が掛かる。胴体を真っ二つにするほどの勢いもつけることができない。それならやはり首を狙わなければ。


「私、強いでしょう? 観念なさい。“悪”ども」






「すごい顔をしてますね」


 全てが終わった。終わってしまった場所に身体を残しておく必要はない。私は真っ赤とも真っ黒とも言い難い姿でぼんやりと当てもなく歩こうとしていた。そこで一人の少年に会ったのだった。


「私に近づかないで。“悪”は大嫌いなの。殺すよ」


 私はそう言いながら、少年のことを桃色の瞳で睨んだ。演じていなければ自分が壊れてしまう。私はどこかでそう気づいていたのだった。


「これは思わぬ情報を得ましたね。この血の匂いは是非とも妹の“無臭化” を使ってあげたいのだけど、そうもいかないですしね」


「あんたは誰なの、それによって私はあんたを“悪”か判断する」


「ええとですね、私は匂神庵と申します。あなたを是非とも私の“計画”に参加させたくてスカウトをしにきました」


「匂神家ってことは……五感家の!」


「殺気立たないでくださいよ。それだけで敵、いや“悪”だと認識しないでください。私は、五感家という概念をぶち壊そうと考えているんです。貴方は“子悪党”を成敗して、世界が平和になると思いますか? 悪の根源である“悪の組織”を壊してしまいましょう。それが一番ではないでしょうか」


 少年は細い目で微笑んだまま、短い眉を困ったように眉間によせた。


「まぁ、そんな格好で長話も なんでしょうから、こちらに来てください」


 私は後ろを振り返って終わってしまった場所――透藤家の拠点――を見つめた。そこに、弱気で蔑まれた可哀想な自分を置いてきた。もう恐れることはない。


 私にはワンレンジャーのピンクの魂と、透藤家の桃色の瞳があるから。 


 導いてゆくチシャ猫を追うアリスのように、私は新たなものを見に行くため、“悪”を砕くため――――新たな一歩を踏み出した。 




END

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