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<九>西積丹の民宿

<九>西積丹の民宿


 久子にとってT村は意外に遠かった。

 北海道は本州の感覚でいると、時にとんでもない間違いをすることがある。北海道本島の面積は東北六県と新潟県を合わせた広大なもので、他の地図とは基本的に縮尺が異なっていることが多い。例えば、函館と札幌を地図で見て、東京と横浜や名古屋と岐阜、大阪と神戸みたいな隣町的な感覚でいるととんでもないことになる。その距離はこれらの十倍程度で、東京からいわゆる『三百キロ都市圏』の名古屋や新潟や仙台に行くよりも遠い。

 久子は西積丹で琉依の所在を必死に捜したが、とうとう分からず終いだった。しかし、夫婦はどうやら東積丹へ行ったらしいことだけは確認出来た。

――何なのよ。またそっちへ戻るわけ? 婆ちゃんの奴、、おちょくったな!

 もう日が沈み、辺り一面暗闇になりそうだった。久子はその日西積丹に泊まることにして、宿を求めて車を走らせた。

 古びた西積丹の民宿が見えたので、久子は今晩そこへ泊まることにした。

 出てきたアルバイトの女の子のような若い人は泊り客に対して、『いらっしゃいませ』とも何の挨拶もない。

――まあ、しょうがないか。こんなところで客に媚売る必要ないもんね。

 ところが民宿にはその女の子一人の女性しかいなかった。久子はとても物騒だと思った。部屋に彼女が持ってきた夕食はフライものや煮物中心のごく普通のものであったが、こうして見知らぬ客にきちんとした食事を一人でもてなすことのできる彼女は凄いなあとも感じた。おまけに民宿全体の管理もしているようだ。同じ年位の娘の華絵にはとても出来ないことだと感心した。久子は、自分の娘である華絵にこれまで何の経験もさせてやらなかったことに申し訳なさを感じた。

 彼女は少しばかり変わっていた。久子が「ありがとう」と言って食べ始めても、彼女は久子の正面に座ったまま動かない。

 接客応対する訳でもない。久子は一生懸命自分のことを話したり、時に相手のことを聞いたりするが彼女は少しの作り笑いのまま無口だ。

――立派だけど変な子だなあ。土地柄かなあ。

 久子が明日東積丹へ戻ると告げると、たった一言、彼女は言葉を発した。

「東積丹に私、明日付いて行ってもいいですか?」


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