<八>小樽
<八>小樽
久子は翌日、朝食も摂らずにホテルを出て行った。同窓会の事務局に登録されている住所は十八年前に聞いた当時新居の小樽の住所と変わっていない。夫は既に逃げたと聞いたが、琉依と百合さんは未だそこに留まっている可能性がある。しかし二人がもしそこにいなかった場合、久子は現地でも動きやすいように鉄道はやめて、札幌駅前でレンタカーを借り、小樽の住所の所へと向かった。
カーナビの示した住所には表札が取り除かれている古びた一軒家が有った。結構な豪邸だ。しかし庭は荒れていて誰も住んでいる様子もなく明らかに空き家だ。借金取りの返済催促の貼り紙が沢山あった。その一通の宛名の苗字は『吉池』になっていたので、琉依の家であることは判った。鍵は締まったままなので中に入れないが、窓から見る限り家財はそのままである。
久子の腕に誰かが触れた。
「あんた誰? 金貸した人? それなら無駄だよ」
そこには腰の曲った老女がいた。腰が曲がっているというよりも完全にお辞儀していて顔だけ上げている状態である。
「あの。私は以前ここに居た住人の知人です。ここに居た人を捜してます。何かご存知であれば教えてください」
「知人とかうっかり言わないほうがいいよ。借金取りが集るから」
その老女は、夫婦はそこからやや離れた西積丹のT村にいると教えてくれた。積丹半島の反対側だ。子供は夫婦が夜逃げする前に家出したという。同窓会で聞いた、夫が母子を捨てて逃げたらしいという話とは少し違う。夫婦の詳しい住所は分からないと言う。久子は老女が適当なことを言っているのかもしれないと思ったが今は手掛かりがそれしかない。取り敢えず礼を言って久子はT村へ向かった。