<三>再会
<三>再会
「久子!」
「琉依ちゃん!」
久子は琉依の病室に入るなり、満面の笑みを浮べて琉依のベッドへ駆け寄った。
「だめだめ! 走っちゃだめ。危ないよ」
「大丈夫よ。私、お産ゼンゼン軽かったんだから。するするって感じ。琉依はどうだった?」
「大変だった。気を失いかけたみたい。ヘヘ。ウチは女の子。あなたは?」
「私も女の子だった。二人誕生日まで一緒だね。当たり前だけど」
琉依は高校卒業後、地元で家事を手伝いながら暮らしていて、昨年お見合いで地元の実業家と結婚したという。夫の事業はバッグなどの高級ブランド品の輸入販売で、年商約二千四百万円。彼女はいわゆる玉の輿に乗ったという訳である。対する久子は、フリーの売れないミュージシャンの妻で毎日の生活にも困窮している。 久子がふと、ベッドの傍らに目をやると、そこには数十万円もしそうな見慣れたモノグラム模様のルイ・ヴィトンのボストンバッグと、これまたいくらなのか見当もつかないようなロレックスの腕時計が置いてあった。久子は、自分の病室に置いてある、虎猫模様のハンドバッグを早く隠さなくては、と思った。
かつて夏祭りの時に屋台で三千円で売っていたものを買ったものだ。
「お嬢さん。これはエルメスのバッグだよ。中古だけど掘出し物だよ。新品なら二十万円はするよ。ほら、ちょっと見えにくいけど、ここにエルメスって書いてあるでしょ。今日は特別に二千円でいいよ」と言われ買った。喜んで家に持って帰って陽平に見せると、「それ、エルメスじゃないよ。エルメスって『H』から始まるんだよ。普通に『ERUMES』って書いてある」「しまった。騙された! あんのジジイ。許せない!」
陽平はスペルの問題ではなく、新品で二十万円のものを中古で二千円で買って喜んでいる妻の方に問題があるように思い、今後のことを案じた。
◆◇◆
二人の間には懐かしい学生時代の話が次々と出てくる。
想い出話に華を咲かせているうちに、琉依は余程出産で疲れていたのか、いつの間にかウトウトと眠ってしまっていた。彼女の出産した女の子の名は既に決まっていて『吉池百合』と命名されていた。久子の方も夫に相談し、その日のうちに我が子を『松原華絵』と名付けた。
百合は生まれた後、未だおしっこが出ないということで、母親の琉依と共にその日の晩、大事を取って小児科のある市立病院に転院することになった。久子と琉依との懐かしい会話はたった数時間の短い間で途切れることになった。
琉依の夫は新居を琉依が高校時代に過ごした小樽市内に購入したという。出産後はそこへ移り住むという。久子は退院後の検査が終わって落ち着いたら東京へ戻る。二人は互いに住所を交換し、再会を誓い合った。