<二>琉依ちゃん!
<二>琉依ちゃん!
「よう!」
病室へ陽平が入ってきた。実家から出産の連絡を受けて空路東京から飛んできたのだ。
「大変だったそうじゃないか」
昨日は、もう出産予定日も間近だというのにも拘らず、久子は一人で実家から小樽の産院まで歩いてきたという。案の定、途中の田舎路で破水し四つん這いになっていたところを、通りすがりの車に助けられ事無きを得たらしい。夫の陽平も天真爛漫なら妻の久子も似た者同志である。
「何のこと? ううん。ゼーンゼン」
「むうぅ……。でも良かった。夕方には赤ん坊も検査を終えてこっちへ来るらしいよ」
その時、部屋の外では赤ん坊の元気ななき声が聞こえた。
「うちの子かなあ」「やだ。何言ってるの? 決まってるじゃない。ウチの子しかいないわよ。ははは。東京の大病院と違うのよ」
「いや、そうじゃない。あれ? 知らなかった? ここでもう一人昨日生まれたんだってさ」
「あら、そうなの」
夕方になって我が子を連れてきた看護士さんは久子の高校時代クラスメートの田所君だった。七年振りの再会である。二人はお互い懐かしむように握手した。
「おめでとう。元気な女の子だよ。二四七〇グラムで少し小さめだけど、充分月が満ちてるからね。心配ないよ」
「ありがとう」
「ところでさ。昨日先に入院していて出産した患者さんのこと。誰かに聞いた?」
「ううん。何、誰? 有名芸能人? な訳ないか……」
「琉依ちゃんだよ。クラスメートの中川琉依ちゃん。今、苗字は吉池さんに変わってるけどね」
「ええ? 本当こんな偶然って……」
「いやいや。市内には周辺を含めても地元の産婦人科は数える程しかないからね。卒業して地元を離れた人でも、君みたいに初産の時は実家に帰ることが多いから、これからまだまだ旧友に会えるかもね」
琉依は小樽市内の高校時代、久子のクラスメートの中でも特に親しい間柄だった。
「歩いてもいいんでしょ」
「もちろんだよ。院長先生は、母親ができるだけ早く動いたほうがいいっていつも言ってるよ」