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<十八>遺伝子

<十八>遺伝子


 ノックが有って久子がドアを開けると緑ずくめの例の尾行男が居た。隣にはもう一人若い男が居る。

「目付きの悪い犯人顔で悪かったな。警視庁M警察署捜査一課、橋爪だ」

 久子が固まっていると、「署まで同行願います」と横の若い男は言った。

 久子は自分の疑問を投げかけてみた。

「何故私が犯人だと思うのですか? 何か確証でも有るのですか?」

「はは。Y町の警察署では、あなたの声を全て録音していたよ。解析の結果、その声は、脅迫してきた誘拐犯と声の周波数こそ違うものの、声紋はぴったりと一致していたよ。声の高さは変えることが出来ても、声紋だけは変えることは出来ないからな。遺伝子を変えることは出来ない」

――遺伝子は変えることが出来ない……。百合は間違いなく私と血の繋がった子供だ!

 久子は警察が考えることと全く別なことを確信した。

 久子は決心がついた。

「はい。確かに私がやりました」

「なっ! 何い!? 何てことを!」

 陽平は叫び声を上げ地団駄を踏んだ。

「何を言っているんだ! お前はやってないんだろう? やってもいないのに、何でそんなにあっさりと認めるんだ。何故だ! だいいちお前にはアリバイがある。いつ脅迫電話があったか知らないが、その時お前は都内にいたかもしれない。お前が犯人だとしたら、どこかで必ず矛盾が出てくる筈だ。それを立証することなど簡単だぞ!」

「いいえ、そんなこと必要ありません。だって、誘拐したのは私ですから」

「ばっバカ」

 陽平はこめかみに青筋を立てた。

「旦那さん、あとで詳しくお聞きしますから、ここでは……」

 久子の心には微塵の迷いもなかった。

 手紙が本当だとすると、百合はもうこの世には居ない。それなのに生きている自分を犠牲にしてまでこの世に居ない娘をかばう母の心とはいったい何なのであろうか。


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