<十六>誘拐犯
<十六>誘拐犯
夫の陽平が帰宅した。久子は彼に抱きついて泣いた。陽平は別な意味で逼迫していた。久子が凶悪犯罪である男児誘拐犯の疑いをかけられていると言うのだ。ミュージシャン仲間の父親が、元警視庁で刑事をしていて、そこからの極秘情報だ。誘拐された子供の親は犯人に三千万円渡したが、受け渡しは直前に犯人が特定する形も色も同じ学生カバンによる巧妙なもので、現場に詰めていた警察は受け渡しの現場を見損ね犯人を取り逃がしたと言う。
「お前北海道でいったい何をしていたんだ」
「何のこと?」
「おまえが積丹近辺を歩いていた姿は何人にも目撃されているらしいよ。だいいちお前が、誘拐された男の子本人をY町の警察署へ連れて行ったそうじゃないか」
「ええっ? 誘拐って。何? ああそうか。あの子誘拐されてたんだ。その話、間違ってるよ。合ってるけど違う。いったいどうなってるの?」
「お願いだ。俺には全部正直に言ってくれ。俺はお前を信じてる。……犯人が数回に亘り男の子の親の家へ脅迫の電話をかけてきた電話の位置は、警察によると今回お前が歩いてきた経路とほぼ同じだ、とのことだよ」
「ええっ? 私、脅迫電話なんてしてないし。警察にだったら変な電話して怒られたことは有ったけど……。信じて! ああ、あの男だ。きっと。目付きの悪い緑のコートに帽子の男だ。あいつだ! あいつが脅迫してたんだ。札幌からずっと付けて来たんだよ。あいつ。ホントに目付き悪かったもの。間違いない!」
陽平は呆れた様子で言った。
「ばか。そうじゃない! 脅迫してきたのは女だ! そんなこと分かってるだろう」
「ええ?」




