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<十四>帰還

<十四>帰還


「お母さん!」

 華絵は目を真っ赤にして久子に抱きついてきた。唇が乾いてひび割れしている。初めての旅行の知らない地で丸三日間も一人になり余程心細かったに違いない。十八歳とはいえ、これまで遊びの外出もせず、住む町を一歩も出たことのない華絵はまだまだ子供だ。

「なんがいぼでんばじだどじ、べーるぼじだどじ」

 何回も電話したのに、メールしたのに、と言っているが、口が曲がってしまって言葉にならない。久子は自分の携帯を見た。百十番通報する時には気付かなかったが、不在着信やメールが数件ずつ届いていた。久子は娘との初めての旅行で彼女にとんでもない寂しい思いをさせてしまった。いったい自分は何をしにきたのだろう、と久子は己を反省し悔いた。

 その日久子は華絵とともにホテルでゆっくりと過ごし、札幌での娘の体験話の聞き役になった。華絵の笑顔は少しずつ戻ってきた。

 翌日、新千歳空港から二人は空路東京へ帰還した。

◆◇◆

 久子には、積丹での不可解な出来事とは別に、新たに心落ち着かないことがあった。

 前の日ホテルに入る時から何となく誰かに尾行されているような気がしていたのである。時々見え隠れする深緑のコートに同じく深緑のハンチング帽を被った怪しい男が、久子の後方の視界の中で度々見え隠れしている。この、尾行のような行動はホテルから駅、駅から新千歳空港、機内、羽田空港から最寄駅、そして、自宅の玄関口までしつこくちらつき続けた。


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