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<十二>彼女は居る? 居ない!?

<十二>彼女は居る? 居ない!?


 久子は蒼くなって、来た路を転げるように降りた。まずは警察に知らせよう、と思ったが、混乱していて何をどう話していいのか分からない。久子は思考力を失い、唯々(ただただ)車を東積丹の民宿へととばした。

 民宿のおかみさんは首を傾げて言った。

「いったい誰のこと言ってるの? カップルの若い人達のこと? あなた一人だけだったじゃないの」

 久子は何故こんな時にふざけてるのか、と憤った。

「やめて下さい。今はまじめな話です! 夕べはおかみさん含めて七人でテーブルを囲んだじゃないですか」

「また、あなたこそ何言ってるの? 昨日の泊り客は五人よ。あたしを入れて六人。何なら宿帳を見せましょうか?」

 宿に入る時、彼女は自分で名前を記入した筈だ。ところがおかみさんが持ってきた宿帳には久子を含め五人分の記帳しかなかった。五人だ、六人だと二人がもめていると、昨夜一緒に食事をした彼氏、チョーくんが来た。

「ああ、おにいさん。この人、夕べ若い人と一緒だったって言ってるのよ。訳分からないの」と困り果てたおかみさんが言う。

「何なに? 連れの若い人? それって男? 女の子? どんな人? もし可愛い子だったら、帰る前に会わせてくれない?」

 久子はじっとその青年の目を見た。可愛い子だったら会いたいなあ、というような、明らかにもの欲しげな目をしている。久子には、そのスケベったらしい目がとても嘘をついているようには見えなかった。

 はっと我に返ったように久子は携帯で百十番通報した。

『こちら百十番、警察です。どうかされましたか?』

「あの。靴が有ったんです」

『靴を見つけた? 拾得物のお届けですか?』

「いえ、少女が居なくなったんです」

『少女? 靴の話じゃないのですか? では、その少女とあなたとのご関係は?』

「有りません」

『はあ? 有りませんって、関係の無い人が居なくなったって、何であなたが警察に電話を?』

「あの、そもそも電話したのは靴の話からです。靴が無くなったんです」

『靴は有ったって、あなたさっき言いませんでしたか?』

「いえ、居なくなったのは少女の方です。靴は有ったんです。いや、違う。逆だ。居たのは少女。あれ? 少女は居ないよ。やっぱ逆じゃない。合ってる……。うん。あなた、合ってますからゼンゼン大丈夫です」

 警察は遂に怒り出した。

『あのね。大丈夫でないのはあなたの方ですよ。靴拾っただの、もともと知らない人が居なくなっただのって、警察をからかってると本当に処罰しますよ!』

警察は呆れ果てて、全く取り合ってくれない。


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