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ミラクルニンジャガール 2025

第1章:令和の道場、昭和の遺物


2025年、ニューヨーク。かつて摩天楼と呼ばれた街は、巨大なホログラム広告と自動運転ドローンが飛び交うサイバーパンクな都市へと変貌を遂げていた。


ブロンクスの片隅にある、古びたガレージ。そこだけが、時が止まったかのように昭和の空気を纏っていた。


「違う! そうではないと言っておるじゃろ、ティファニー!」


白髪の老婆が、しわがれた声で叱咤する。かつてのミラクルニンジャガール、ジェニファー・タナカ(60歳)だ。彼女は今、グランドマスターとして、孫娘に忍びの道を説いていた。


「でもさー、グランマ。今時、生のタコとかマジ無理だし。ヴィーガン対応のプロテインバーじゃダメなの? 効率悪いじゃん」


スマホをいじりながら答えるのは、孫娘のティファニー(16歳)。彼女こそが、新時代のヒーロー**「ジャスティスニンジャスター」**である。そのスーツは最新のナノファイバー製で、LEDが七色に発光するゲーミング仕様だ。


ジェニファーは溜息をついた。あの輝かしいプロムの夜、彼女はブラッドと結ばれた。しかし、結婚生活は長くは続かなかった。「朝食に納豆を出すか、シリアルを出すか」という決定的な価値観の違い(という名の文化摩擦)により、二人は別々の道を歩むことになったのだ。


「ティファニーよ。効率ではない。『ソウル』の問題だ」 ジェニファーは、亡き祖父ヒロの遺影の前で、今日の金言を授けた。


『フルキ・オ・タズネテ・アタラシキ・オ・シル』


「その意味はこうだ。『古いYouTubeの動画ばかり見ていると、新しいTikTokのトレンドに乗り遅れて死ぬ。だが、古いしきたりを無視すれば、アイデンティティが崩壊してやはり死ぬ。つまり、新旧の板挟みで我々は常に死に体なのだ』」 「……何言ってるか全然わかんない。とりあえずバズればよくない?」


新時代のニンジャに、古き良き大和魂は届かない。


第2章:極彩色の脅威


その頃、ネオ・タイムズスクエアがパニックに陥っていた。 これまでの物理的なヴィランとは異なる、新たな概念の敵が現れたのだ。


「アアア……ワタシハ、スベテデアリ、ココニアリ、ドコニデモアル……」


不定形の光の集合体が、周囲の空間を歪めていた。その敵の名は**「レインボーセクシャル」**。 あらゆる属性、あらゆる指向、あらゆる価値観を同時に内包し、それを超高密度の「多様性ビーム」として周囲に放射する存在。その光を浴びた者は、情報量の多さに脳が処理落ちし、アイデンティティが崩壊して廃人となってしまうのだ。


「キャー! 私の推しカプが逆転した世界線が見えるわ!」 「俺の自我がゲシュタルト崩壊するううう!」


現場に駆けつけたジャスティスニンジャスター(ティファニー)が、最新ガジェットの「スマート手裏剣(自動追尾機能付き)」を投げる。 「喰らいな! Z世代の怒りよ!」


しかし、手裏剣は敵の光に触れた瞬間、虹色の粒子となって霧散した。 「嘘でしょ!? 物理攻撃が効かない!?」


「ムダダ……キサマノヨウナ、アイマイナソンザイハ、ワタシノヒカリデ、ウメツクシテヤル」 レインボーセクシャルが、ティファニーを捕食しようと光の触手を伸ばす。絶体絶命!


第3章:老兵は死なず、ただボヤくのみ


その時、けたたましいエンジン音と共に、錆びついた80年代製のキャデラックが現場に突っ込んできた。


「ゲホッ、ゲホッ! 今の車の排ガス規制はどうなっとるんだ!」 運転席から転げ落ちてきたのは、腹の出た老人。かつてのジャスティススター、ブラッド(61歳)だ。星条旗のスーツはパツパツで、継ぎ目から肌が見えている。


「文句を言わないで! 孫がピンチなのよ!」 助手席から、杖をついたジェニファーが降り立つ。蛍光ピンクの装束は色あせ、関節サポーターが痛々しい。


「グランマ!? グランパ!? 何しに来たの、そんな恰好で!」 ティファニーが叫ぶ。


「決まっておろう! お前を助けに来たのだ!」 「昔取った杵柄きねづかってやつさ! いくぞ、ジェニファー! 久しぶりの共同作業だ!」 「ええ、ブラッド! これが最後の『日米安全保障条約』よ!」


二人の老兵は、よろめきながらも敵に立ち向かった。


第4章:死に場所を見つけたり


「喰らえ! 老体に鞭打つ、『テンプラ・スラッシュ・還暦スペシャル』!!」 ジェニファーがショーグンソードを振るうが、腰がグキッと鳴り、剣筋がブレブレになる。


「俺の愛国心は不滅だ! 『星条旗インポッシブル・タックル(要介護認定)』!!」 ブラッドが突進するが、数メートル手前で息切れし、盛大にずっこけた。


「グフッ……寄る年波には勝てん……!」 「ハアハア……膝の軟骨が……!」


彼らの攻撃は、レインボーセクシャルには全く通用しなかった。光の触手が、無慈悲に二人を弾き飛ばす。コンクリートに叩きつけられ、動けなくなる二人。


「グランマ! グランパ!」 ティファニーが駆け寄る。二人は血を吐きながらも、孫娘を見て笑った。


「逃げろ……ティファニー……。ここは私たちが食い止める……」 「そうだ……。お前は未来を生きろ……。過去の遺物は、ここで散るのがお似合いさ……」


その姿を見て、ティファニーの中で何かが弾けた。 最新のガジェット? バズる動画? そんなものはどうでもいい。


目の前にいるのは、時代遅れで、カッコ悪くて、でも命懸けで自分を守ろうとしてくれた、最高のヒーローたちだ。


(これが……グランマが言っていた「魂」……!?)


彼女の脳裏に、祖母の言葉が稲妻のように走った。 『ニンジャとは……』


ティファニーはゆっくりと立ち上がった。彼女のゲーミングスーツのLEDが、激しい赤色に点滅を始める。


「わかったよ、グランマ。ニンジャの真髄、理解した」


彼女は敵を見据え、静かに言い放った。


「忍とは、死ぬことと見つけたり!!」


第5章:最終奥義・ハラキリ


ティファニーは、スーツのリミッターを全て解除した。内蔵された全エネルギーが、彼女の腹部にあるコアに集中していく。


「アイツら(ヴィラン)の多様性ビームがなんだ! こっちは命を多様に散らしてやるわ!」


彼女は懐から、祖母から無理やり持たされていた「切腹用短刀(プラスチック製レプリカ)」を取り出し、自らの腹部のコアに突き立てた。


「なっ、何をする気だティファニー!?」ブラッドが叫ぶ。 「まさか……あれは伝説の!?」ジェニファーが目を見開く。


ティファニーはニヤリと笑った。 「見てなよ。これが、クールジャパンの最終結論オチだ!」


「真・最終奥義! ハラキリ・エクスプロージョン(自爆・大和魂)!!」


カッッッ!!


彼女の体を中心として、ネオ東京全体を飲み込むほどの、超巨大な桜色の爆発が発生した。それは、あらゆる論理、あらゆる多様性、あらゆる概念を物理的に吹き飛ばす、純粋な「自己犠牲」のエネルギー奔流だった。


「アアアア……コノ、リフジンナ、エネルギーハァァァ……!」 レインボーセクシャルは、理屈を超えた熱量に耐え切れず、蒸発して消滅した。


エピローグ:黄昏のダイナーで


爆心地となったタイムズスクエア。奇跡的に、ティファニーは無傷で立っていた(スーツの緊急保護機能が働いたらしい)。 「……ふぅ。これが日本のワビサビってやつ? 案外、悪くないかもね」 彼女は焼け焦げたプラスチックの短刀を見つめ、少しだけ大人びた笑みを浮かべた。


数時間後。ネオ東京の郊外にある、レトロな雰囲気を残したダイナー。 窓際の席に、煤だらけの服を着替えたジェニファーとブラッドが向かい合って座っていた。


テーブルの上には、二人分のハンバーガーと、毒々しい色をしたクリームソーダ。 そして、ジェニファーの前には、持参したタッパーに入った「タコの酢の物」が置かれている。


「……まさか、君とまたこうして食事をする日が来るとはな」 ブラッドが、しわくちゃの手でハンバーガーを持ち上げる。


「ええ。あのプロムの夜以来ね。あの時は、世界がもっと単純に見えたわ」 ジェニファーはタコを一切れ、口に運んだ。酸味と歯ごたえが、疲れた体に染み渡る。


二人の間には、長い沈黙が流れた。離婚の原因となった「納豆vsシリアル戦争」の記憶が、ふと蘇る。しかし今、彼らの間にあるのは、共に時代を駆け抜け、そして老いを迎えた戦友としての、静かな共感だった。


「なぁ、ジェニファー」 ブラッドが、クリームソーダのストローをいじりながら呟いた。 「もし、俺が朝食に納豆を食べることを許容していたら……俺たちの未来は違っていたのかな」


ジェニファーは少し驚いた顔をして、そして優しく微笑んだ。 「さあ、どうかしら。でも……貴方が毎朝、星条旗のタイツでラジオ体操をするのを、私が許容できたとも思えないわ」


ブラッドは声を上げて笑った。 「ハハハ! 違いない。俺たち、最初から噛み合ってなかったんだな」 「ええ。でも、最高のパートナーだったわ」


窓の外では、ネオ東京の夕暮れが、街を茜色に染めている。 かつて摩天楼を飛び回っていた二人の英雄は、今は静かに並んで、変わってしまった街の景色を眺めていた。


「……ねえ、ブラッド」 「ん?」


ジェニファーは、テーブルの下でそっと、ブラッドのしわだらけの手に自分の手を重ねた。 「次のデートは、いつにする?」


ブラッドは少し照れくさそうに、でも力強く、彼女の手を握り返した。 「いつでもいいさ。俺のスケジュールは、これからずっと空いているからな」


1980年から2025年へ。時代は変わり、体は老いても、彼らの魂に刻まれた、勘違いだらけの熱い「大和魂」と、不器用な愛は、決して色褪せることはない。


ダイナーのジュークボックスから、懐かしい80年代のポップスが流れ始めた。 二人の最後のデートは、まだ始まったばかりだ。

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