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深夜と電話とランキング(嘘)

作者: 霧間愁
掲載日:2025/12/18

 深夜電話があった。

 もうかかってこないと思っていた高校時代の友人からだった。

「男子だけでやった人気投票ランキングって覚えてるか?」

 え?

「お前が企画した奴じゃないのか?」

 どうやら勘違いをしたまま卒業した類の知人のようで、静かに否定をした。

「んだよ、お前なら山戸美月の番号とか連絡先知ってるかと思ったんだよ」

 ヤマトミヅキ?誰だそれは?

「髪の長い、いつも俯いてた、ほら本ばっかり読んでた……?」

 いや、知らない。それに僕も本ばかり読んでたよ。

「ランキングで一票だけ入れたやつがいてさ、お前じゃなかったけ」

 いや、そのランキングは企画もしてないよ、と伝えると「偶にはテレビ見ろよ」と小馬鹿にした風に電話を切られた。


 家が貧乏でもなかったが、ただお金持ちに成りたかった。という安易な子供のころからの夢は、高校で証券会社に口座を開くというトンデモな発想に至る。

 何故と問われても困るばかりだ。テレビからの刷り込みのおかげで、大抵のお金持ちの人々は株を買っているというものがあったからだろうか。

 それともテレビで誰かが言っていた「金がないと自由じゃない」という言葉を真に受けたか。そう思えば、必然に不自由が嫌だっただけだ。

「――さん、……さん?」

 あぁ、少し考え事をしていて呼びかけれていたのを聞き逃してしまっていたらしい。

「お疲れの様でしたら、今日の幾つかのタスクをリスケしますが……?」

 彼女曰く、美人の社長秘書というは気遣いも出来るのが、定番のパターンなのだそうだ。

 よくは理解できないが、笑って納得しておく。そして、体調は大丈夫だと伝え今日のタスクをこなすために、大きく伸びをした。

「夜の会食はどうされますか?」

 いつも通りにキャンセルしようと思ったが、ずっと断り続けているのも後々面倒なので受けることにする。

「承知しました。連絡しておきます」

 スポンサーとサポーテッドの関係は信頼関係が大事という建前のもと、中身はただの接待なのだが、僕はこれが苦痛の原因だったする。晩御飯はいらないと家政婦さんに連絡しておく。


「――におきましては、何卒、よろしくお願いします」

 分かり易く手揉みをしながら、普段は偉そうにしているだろうと判る中年が僕に頭を下げていた。

 年下にみっともないと思っていた時期は通り過ぎて、これも”この人”の仕事なのだと割り切れるようになってしまった。この仕事をしなければ、この人に偉そうにされている人たちが喰いっぱぐれてしまう。そう考えたときに、接待会食を出来るだけ減らそうと思ってはいるけれど、ゼロにはならない。”ほとんど確実な事象”というわけだ。

「それでですね、今日は、今人気絶頂のアイドルグループを連れてまいりまして……」

 実際にお金持ちになってから気が付いたことが一つ。お金というのは、何かをするための手段であること。もちろん、生活していくためには必要なんだけれども。

 ただ「あ、金持ちになりたい」という漠然とした考えの僕みたいなタイプが本当に金持ちになってしまうと、何に使えばいいか判らないのだ。そしてただ持ち続けても意味がないので、言われるがまま何処かに投資なり融資なりするのだ。

 その結果が、どうやら今超人気アイドルグループがパフォーマンスをしてくれるらしい。この店に小さなステージが組まれていたのは、そのせいだった。

 あとでこっそり店員さんにサービス提供料を聞いておこう。


 パフォーマンスが始まり、驚いた。

 最近のアイドルというのは結構露出がある服装で踊るんだなと驚いていると、偉そうな中年が文字通り腰を低くして耳打ちをしてくる。

「センターのあの子、いま大人気ですからね。どうです、このあと二人でお話しする段取り組みますけども」

 何処かで見た顔だな、とぼんやり眺めていたのを勘違いされてしまったようだった。

 丁重にお断りしておく。

「えぇ、いいんですか?飛ぶ鳥を落とす勢いのMITSUKIですよ」

 いや、知らんがな。テレビを見ない僕からしてみれば、誰やねんという感想である。

 偉そうな中年が別次元のモノを見る様だ。

 そう思われても仕方ないと思うけれど、どうしろととも思う。目線をステージにもどすとアイドル達の何人かにあったが、吃驚するぐらいに媚び笑いをしてきた。

 テレビを裏で牛耳っているとか思われたとしたら、ぞっとする。歌い終わったアイドルたちがこちらにやってきて僕の隣に座っていく。

 薔薇を渡すトンでも企画のテレビ番組を海外で見たことがあるけど、まるでそんな感じだ。

 ステージにセンターで踊っていたアイドルが俯いて独り残っていた。

「MITSUKIもこっちに」と誰かが優しい声で手招きする。困った表情が一瞬見えた。ステージの彼女は首を小さく振って控室の方に帰っていく。

「オタカクトマッチャッテ」と別の誰かが言った。僕はそれを見送りながら、不機嫌なフリをした。


 深夜電話があった。

 もうかかってこないと思っていた高校時代の友人からだった。

「私のこと覚えてる?」

 山戸さん…だっけ?ごめん、正直あんまり覚えてないかも。

「だよね、私本ばっかり読んでたから。……今日はびっくりしちゃった。キミがスポンサー会社の社長さんだったんだね」

 あぁ、真ん中で踊ってたの、山戸さんだったんだね。

「うん、なんかね。今あのグループで頑張ってるんだ」

 すごいね。

「キミこそ凄いじゃん、二十代で社長だよ」

 社長は何歳からでもなれるけど、……そういえばこの間も同級生から電話かかってきたよ。

「えぇ、もしかして私のこと聞いてた?」

 あぁうん。

「人気投票ランキングで唯一私に入れたキミだから?」

 それは、……そうかもしれないね。

 ランキングという遊びを流行らしたのは確かに僕だけど、男子だけの女子人気投票を開催したのは僕ではない。十代が何を欲しているかの限定的な情報が欲しかった。

「その、……あの一票がね、キミがいれてくれたから、私、ここまで頑張れたんだ。そのお礼を言いたくて」

 そうなんだ、頑張ったのは山戸さんの力だと思うよ。

 それから幾つかの他愛のない会話。

「……、ね。また電話とかしていい?」

 山戸さんは電話を終える際にそう言った。


 うん、もちろん。

 と僕。



 ……でも、そもそも僕はあのランキングに票を()()()()()()

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