第3話 引っ越し完了!
「本当かい! 嬉しいよ!」
再び現れたお父さんは、最初こそ不安そうな表情だった。
でも、私が「一緒に行く」と言った瞬間――今まで見たこともない笑顔になり、思い切り抱きついてきた。
「ちょ、抱きつかないで! 父さんも荷物持ってってば!」
お父さんは私の荷物を見て、眉をひそめる。
「結構な量だね……しかも、ほとんどお菓子とフライドポテト……?」
「だって向こうにこんなお菓子ないんでしょ!? これでも少ないくらいだよ!」
「お菓子はいいけど……冷凍フライドポテトはチンする機械ないよ。てか溶けちゃうと思う」
「……じゃあその分のお菓子増やしてくる!」
「はいはい」
そんなやり取りをしているうちに準備は終わり、異世界へ行く時間が来た。
「じゃあ……本当に行くよ? 友達にはちゃんと言ったの?」
「もちろん! 手続きも全部済ませたし、友達にはイタリアあたりに引っ越すって言っといた!」
胸を張って答える私に、お父さんは感心したように笑う。
「すごいね。手続きまでしっかり……えらいよ」
「えへへ。もういつでもいいよ。覚悟は出来てる」
「わかった。じゃあ、その場から動かないでね」
ぎゅっと抱きしめられた瞬間、私たちの身体が光をまとい始めた。
視界が真っ白に染まる。
あまりの眩しさに私は反射的に目を閉じた。
「もう目を開けても大丈夫だよ」
「うん……」
あれ。声が違う――?
ゆっくり目を開けると、そこには超美形の青年が私を抱きしめていた。
「――ええ!? ちょっ、え? お父さんは!?!?」
状況が理解できないうちに、目の前の青年の顔が視界いっぱいに入ってくる。
ブラウンヘアーの短めポニーテール。ゆるくウェーブ。
そして、完璧な顔立ち。
というよりこの姿は推しの――
「レン様ッッ!!」
――ビターン!!
「ちょ、みなも!?」
あまりの衝撃に私はそのまま卒倒した。
・・・
・・
・
「みなも、目が覚めた?」
意識を取り戻すと、さっきの美形男子が私を覗き込んでいた。
「うわあああ! レン様!? どうして!?」
私は反射的にベッドから飛び起きる。
「待って! 落ち着いて!」
勢い余ってベッドから落ちそうになった瞬間、レン様は風のような動きで私の背中を支えた。
「な……なんでレン様がここに……」
あまりにも速くて、目が追いつかない。
「ごめん。姿は変わったけど、父さんなんだよ」
「…………え?」
レン様はこんなおっとりしてない。もっとクールだ。
でも目の前のこの人は、どう考えても父さんの空気を纏っていた。
「ちょっと落ち着いた?」
「少しだけ……」
じっと見つめているうちに、混乱が少しずつほどけていく。
「信じられないって顔してるね」
「当たり前でしょ!? 姿違いすぎるし!」
「じゃあ、みなもと父さんだけが知ってる秘密、言うよ」
「……言ってみて?」
父は少し考え――ぱっと指を鳴らした。
「小学校5年の時、友達が泊まりに来た時――みなもテンション上がりすぎて、おねし――」
「やめて!! お父さんだって分かったから!!」
急いで口をふさぐ。
あの夜、私は父と指切りした。
『絶対言わないで! 一生だよ!』
二人だけの秘密。それを言えるってことは、確かに父さんだ。
「信じてくれてよかった」
「信じてるよ! でも気持ちはまだ複雑だからね!」
「そ、そうだよね……てか見すぎ。困るなぁ」
「見るわ! 推しの姿してたら見るに決まってんでしょ!」
声も仕草も優しい父さんのままなのが余計に混乱する。
「なんか……モヤる!」
「とりあえず、こっちに来て」
父は手を引き、部屋の外へ連れていく。
扉を開けると、広いバルコニー。
まるでカフェのようにテーブルと椅子が並び、風が通り抜けていく。
「ほら、この景色。地球じゃ見られなかっただろ?」
父が指さす先には――見たこともない鮮やかな自然が広がっていた。
パステルカラーの森、氷みたいな木、奇妙な形の鳥。
本当に異世界なんだと一目で分かる景色。
「確かに……綺麗。でも、ここって……?」
「バルコニーだよ。ここで紅茶を飲むのが最近の日課」
いつの間に用意したのか、紅茶セットが並び、私の分まで注がれる。
「……貴族かよ! これがバルコニー!? 広すぎでしょ!」
「前の家より広いでしょ?」
「予想の遥か上だったよ!」
父はティーカップを置き、ため息をつく。
「分かってたけど……一人には広すぎる。使ってない部屋ばかりで」
「普通サイズの家はなかったの!? 掃除とかどうしてるの?」
「ここは“頂いた家”だからね。文句は言えないよ」
「もらった!? いや、これ家っていうより城か砦でしょ!」
バルコニーの下には広大な敷地と城壁が見える。
「そうだ! お菓子用意してた。座ってて。こっちのも食べて欲しくて」
父さんはそう言って、城の中へと戻っていった。




