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父が死んだと思ったら異世界で勇者になってたので、引っ越して一緒に暮らすことになりました。  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一章:父が死んだと思ったら異世界に引っ越してました

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第2話 引っ越し先はまさかの異世界

「広大な自然だろ? 空気がとても美味しいんだ」


 お父さんは、嬉しそうにチラシを私へ差し出した。


「いや……これどこなの? どこの国? こっちはイタリアっぽい街並みに見えるんだけど」


 資料には引っ越し先の周辺情報らしきものがぎっしり書かれている。

 家の間取りまで載っていて、今の家より明らかに広い。


「ていうか、引っ越しじゃなくて、ここで一緒に住めばいいじゃん!」


「……それができないんだ。訳あって父さんは、この場所へ戻らなきゃいけない。一度戻ったら、もうここには来られない」


 さっきまでの柔らかい空気は消え、お父さんの表情は再び真剣なものへ変わっていた。


「え……?」


「だから逆に、みなもをこちらへ招待できないかと思ったんだ」


 差し伸べられた手は優しいはずなのに、なぜか死神を連想してしまう。

 いや、一度死んだと思っている人だし……。


「『こちら』って……まさか父さん、実は死神で、私を冥府に連れて行くとか?」


 ため息まじりに冗談を言うと、お父さんは少し考えた後、いつもの笑顔で言った。


「あはは。“戻ってこれない”って意味だけなら、あながち間違ってないかもね」


「いやいや笑えないから! 高校始まったばかりで引っ越しとか嫌なんだけど!」


「そっか……みなも、高校生になったんだなぁ」


「ていうかなんで帰れないの? さっきからちゃんと答えてくれないよね?」


 父は少し迷った顔をしてから、散らばった資料をまとめて語り始める。


「そうだな……理解してもらえるか分からないけど」


「?」


「みなも、異世界転生のアニメとか見たことあるよね?」


「え? あるよ。今めっちゃ流行ってるし」


「ざっくりいうと、ここはそれなんだ」


「……は?」


 突拍子もなさすぎて、頭が止まった。


「ここは地球から見れば異世界。父さんはあの日、撃たれて死んだあと、この世界に転生したんだよ」


「いや待って!? リアルで聞かされても信じられないんだけど!」


「信じるかどうかは自由。でも、みなもが“行く”って言ったら一緒に向かうんだ。嫌でも現実として受け止めることになるよ」


 父が指差す資料。

 死んだはずのお父さんが目の前にいる――それだけは否定できない。


「……実際にいるし、嘘とは言い切れない、けどさ」


「いきなり来てこんな話をして、ごめんね」


 信じるか信じないかは後回し。まずは聞くべきことを聞こう。


「その……異世界なんだよね?」


「そう」


「じゃあさ……イケメンのエルフとかいる?」


 父は少し考えてうなずいた。


「父さんの感覚では、美男美女だらけだったよ。エルフもドワーフも格好良かった」


「ふーん……」


 興味津々なのに、必死で平静を装ってみる。

 でもお父さんは簡単に見抜いた。


「特にエルフと人族は、みなもの部屋に貼ってた“なんとかプリンス”みたいだったよ」


「ふーん……!」


(めっちゃ興味あるじゃん私)


 むしろ行きたい。


「持ちものって持っていけるの? スマホも?」


「持っていけるけど、電波はないし電池切れたらただの置物。……いや、充電はできるかも?」


「ちぇ。SNSに上げようと思ったのに」


「できても絶対にダメだからね?」


「わかってますって!」


 父はちらっと時計を見て、少し焦った表情で立ち上がった。


「とにかく、急に来てこんな話。今すぐ答えを出せとは言わない。来週の同じ時間にもう一度来るから、その時に答えを聞かせて。もし“行く”ならそのまま向かうから……準備だけはしておいて」


「え……もう帰っちゃうの?」


「ああ。こっちの世界にいられる時間がもう長くないんだ。みなもも、向こうへ行けば最後、あちらの世界に適した身体に変化する」


「てかさっき“戻れない”って言ったくせに、お父さんはまた来られるの?」


「父さんだけは、しばらくは行き来できる。多分あと二回だけどね」


「ずるい! 私もできたら最高なのに!」


「ごめんな。まあ戻れると言っても、このくらいの滞在時間だよ」


「全く戻れないよりはいいよ!」


 お父さんは笑ってうなずき――


「じゃあ、そろそろ時間だ。また来週来る」


「あっ、お父さん!」


 そう言った瞬間、ふっとその姿が消えた。


「……目の前で消えられたら信じるしかないじゃん。幽霊じゃないなら」


 もしこれが夢だと言われても信じてしまいそうなくらい現実味がなかった。


 だけど――。


「資料は……残ってる」


 テーブルに置かれた資料をぱらぱらめくりながら、冷めたフライドポテトを口に運ぶ。


「行ったらもう戻れないんだよね……」


 一人つぶやく。


「友達少ないし……イケメンいるなら行ってもいいか」


 無意識に漏れた本音。


 家族はいない。帰ってきても一人。

 今日の出来事で改めて思い知らされた――。


(一人の家って、こんなに寂しいんだ)


 死んだと思っていたお父さんと、また暮らせるのなら。


「決めた! 行こう。お父さんと一緒に暮らして、親孝行してやる!」


 残りのフライドポテトを口に放り込み、立ち上がる。


 決めたら早い――それが私の長所だ。


「……とりあえず“失踪”はマズいから、高校には退学の手続きしないと」


 学校、友達、手続き。

 必要なことは全部調べて片付けた。


 そうしているうちに、一週間はあっという間に過ぎていった。

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