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悪魔が来たりて法螺を吹く【オチが三谷幸喜版】

作者: ふじの白雪
掲載日:2025/10/17

桜朔太郎(さくらさくたろう)の失踪、そして富士の樹海での遺体発見は、元華族の家柄に暗い影を落とした。


彼の手元から見つかった『もう耐えられない!アクマが来たりて法螺(ほら)を吹く』という遺書は、自殺か他殺か、あるいはその両方を暗示しているかのようだった。


朔太郎の友人の依頼を受けた探偵・謎田一掘彦(なぞだいちほるひこ)は、桜家の応接間にいた。黒い作業服に長靴という、探偵らしからぬ格好で、手にはピカピカのシャベル。


「毒殺です」

謎田一は低く言い、シャベルの柄で床をコンコンと叩く。


「そしてこの遺書──『アクマが来たりて法螺を吹く』。どうやら、真実はこの床下に隠されているようです」


視線が一点に注がれる。


「この下に穴があります。物理的な穴だ!真実が埋まっている!」


梅子夫人が胸を押さえた。

「ああ、なんてサスペンスフルな穴!まるで運命の地殻変動!掘って!私の心まで掘り起こして!」

元ゴミジェンヌだけあって、身振り手振り、言葉遣いが大袈裟である。


娘の桃はスマホから目を上げずに言った。

「穴掘るのやめて。Wi-Fiのケーブル通ってたらどうすんの。回線切れたら犯人より先にママがキレるよ」


その時、息子の菊之助が、なぜか手に持っていた法螺貝(ほらがい)を吹いた。

「プー。……あっ」


扉が静かに開く。

トレンチコート姿に、やけに芝居がかった古館任一郎(ふるだてにんいちろう)警部補が現れた。

「事件ですよ、皆さん。……でももう解決してます」


古館警部補は、謎田一のシャベルを見てため息をついた。


「あなた、掘りすぎですよ。探偵ってのは、論理で真実を暴くものでしょうに」


「……証拠は発掘するものだと思っています」

素朴で何処か泥臭い謎田一は真顔で言った。


古館警部補はポケットから桜餅を取り出した。

「男爵はこれを食べて死んだ。つまり──『毒入り桜餅事件』。そして犯人は……この家にいます」


富士の樹海で発見された桜朔太郎の死因は、毒入り桜餅を食べた事による毒殺だった。


古館警部補は菊之助を見つめた。

「犯人は、あなたです」


菊之助は震えた。

「な、なぜです!?私は父を敬愛していた!」


「敬愛。結構なことです。しかしあなた、法螺貝が吹けない。吹けるのは、人一倍の法螺(嘘)だけです」


梅子夫人が嬉しそうに言った。

「あら!まるで私達夫婦の馴れ初めみたい!」


古館警部補は続ける。

「男爵は気づいてしまった。あなたの演奏会では、代理奏者、開間(あくま)氏が代わりに吹いていた。遺書の『アクマが来たりて法螺を吹く』は──あなたの嘘への告発だったんですよ」


菊之助は顔を歪めた。

「父は、私の将来を法螺で塗り固めるなと言った。…でも違います。私は父を殺してはいない!」


「皆さんそう言います。私はやってないと…詳しくは署のほうでお伺いします」

と古舘警部補は、右手でドアの方を示し、連行するように促した。


謎田一掘彦はシャベルを掲げる。

「真実は埋まっていた!やはり私の推理通りだ!私はこの家の『穴』をさらに深く掘る!真実もWi-Fiも繋がるまで!」


古館警部補は静かに呟いた。

「……やれやれ、掘るのが探偵の仕事。埋めるのが、警察の仕事。小泉君!」

「何ですか?古舘さん」

「謎田一さんが掘った穴は君が埋めなさい」


小泉は不服そうだった。古舘警部補は小泉の額をデコピンした。


「それくらいしか君は役に立たないんだから…なんなら警察やめて防衛省にでも行くか?」


「……防衛省に行った方が、まだ穴埋めがマシですよ」


「なら訓練だ、小泉君!地雷を踏め!」

「了解です!」


小泉君は、言われた通りにの事しか出来ない男だ。しかも無能の働き者ときている。


小泉君が応接間の床をドスン!と踏み鳴らすと、床板がバキバキと音を立てて落ちた。


床下から現れたのは、水の入った赤い洗面器だった。


何故、床下に赤い洗面器があるのか?

立溝先生ご用達の謎田一には、赤い洗面器の意味など、掘り出せるはずもなかった。


謎田一が首をひねっていると

「二谷先生の赤い洗面器は、オチがないんですよ」

古舘警部補はニヤリと言った。



三谷幸喜先生の小話で有名な

『赤い洗面器の男』でした。

覚えてる人いる?

お若い人はわからんかもしれないですね。


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― 新着の感想 ―
古畑の洗面器ネタ懐かしいですね。 Wi-Fiのケーブルや法螺貝のギャグが笑えました。 話がめちゃくちゃなのに遺書の意味や筋が通っているのが良かったです。
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