第8章 ダーク・ディモンはメリハリ上手
"「悪魔種か?」
いつの間にか、シルフ教授がダークの隣に立っていた。エルフ特有の清らかな香りが鼻腔をくすぐり、なんだかむず痒い気分になる。
ダークは軽く息を吸い込み、疑問を口にした。
「教授、魔族の時代ってもう終わったんですよね? なのに、どうして俺は悪魔種なんて召喚できたんですか?」
シルフ教授は極めて平淡な口調で説明を始めた。
「組分けカードの使い魔は、魔導精霊の一種に過ぎません。厳密には錬金術の産物です。ゴーレムと同じで、真の生命ではないのですよ。【悪魔種】というのは、あくまで魔導精霊の分類名であり、それが本物の悪魔だという意味ではありません。魔導師たるもの、真実を見極め、真理を探求することを学びなさい。外見に惑わされてはなりません。あなたが悪魔種を召喚した理由については、あなたの魔力、知識、性格などが関係しているのでしょう。それに、魔導精霊の技術はまだ未完成で、解明されていないことも多いのです」
周りの新入生たちは、分かったような分からないような顔で頷いている。なんだかよく分からないけど、とにかくすごい、といった感じだ。
そんな中、ダークだけが真剣な顔で尋ねる。
「では教授、俺の使い魔の名前は何でしょうか?」
シルフ教授は厳粛な表情で告げた。
「それは、あなたたちの宿題とします。次の召喚術の授業までに、各自で使い魔を召喚し、その種類、名前、特徴を調べ、300字程度のレポートにまとめて提出しなさい。よろしい。ディモン、プラス5点!」
そう言うと、シルフ教授はさっさと別の生徒の方へ歩いて行ってしまった。
ダークは彼女の後ろ姿を見送りながら、内心で毒づいた。
(もしかして教授、この悪魔種の名前を知らないだけなんじゃ……?)
だって、こいつはどう見ても小悪魔獣なんだから!
『デュエル! 聖マリアン超XX学院』、さすがは究極のキメラゲーだな。まさか『電子モンスター』まで借用しているとは!
このゲームがごった煮なのは知っていたけど、ここまであからさまなのはどうなんだ? ダークはなんだか頭が痛くなってきた。
小悪魔獣って、確か究極吸血魔獣に進化するんだっけ? 電子モンの進化ルートは多すぎて、複雑すぎて、はっきりとは思い出せない。
とはいえ、組分けカードの使い魔は比較的低級な魔導精霊のはずだ。主な役割は主人の伝言を届けたり、手紙をやり取りしたりすることで、「フクロウ」の代わりみたいなものだ。魔導師の解説によれば、使い魔の知能レベルは2.5。一般的な野獣よりやや劣り、無害だという。
ダークが小悪魔獣の頭をつんつんとつつくと、反応はまだ少し鈍い。生まれたばかりだからだろうか?
小悪魔獣はずんぐりとした体に、コウモリのような翼と三本指の爪、額には白いドクロマークが刻まれている。見慣れてくると、なんだかブサ可愛い。[^5] 何より翼があって飛べるのがいい。使い魔としてはかなり適したタイプと言えるだろう!
ダークは自分が小悪魔獣を召喚したという事実を、割とすんなり受け入れた。だって、魔神の使い魔と言ったら、そりゃ小悪魔だろう? まぁ、筋は通ってる、か?
……さて、と。
ダークはきょろきょろと辺りを見回し始めた。
聞こえよく言えばクラスメイトの進捗観察だが、実際はただの「サボり」である!
なんだかんだで、もう1時間以上も真面目に授業を受けてしまった。ちょっとくらいサボって息抜きしないと、やってられないだろ?
ダークの頭の中に、ある考えがふつふつと湧き上がってきた。
そして、閃いた!
勉強に熱中しすぎると【強欲】のパラメータが上昇してしまう。ならば、勉強の合間にサボりを挟んで「メリハリをつける」ようにすれば、完璧に攻略できるじゃないか?
ビンゴ!
ダークは危うく顔に出そうになった「得意」の感情を慌てて抑え込み、【傲慢】に発展するのを防いだ。
彼というお手本ができたからか、新入生たちは召喚術の習得により一層熱心に取り組むようになったようだ。
そしてついに、物知りちゃん[^7]が二番目に使い魔の召喚を成功させた!
エマは使い魔の召喚に成功した瞬間、自分の使い魔が何かを確認するよりも先に、無意識に教室の一番隅の席へと視線を送った。その眼差しには明らかに張り合うような色があり、「どう? 私だってできたんだから!」とでも言いたげだ。
しかし、ダークの視線は彼女と一瞬交わっただけで、すぐに逸らされてしまった。まるで彼女のことなど全く意に介していないかのように。
エマはむっとした表情で前を向いた。だが、机の上にちょこんと座る小さな使い魔が、すぐに彼女の笑顔を取り戻させた。
それは、小さな、真っ白な毛皮の——カワウソだった。
豆粒のような瞳、短い四肢、顔をくしくしと擦りながら「きゅーきゅー」[^8]と鳴く臆病そうな姿。そのどれもが、少女の可愛いもの好きのツボを深く、深く突きまくった!
「やっぱりカワウソか」
ダークにとっては予想通りだった。
カワウソは鋭敏で警戒心が強く、好奇心旺盛。それに、原作の物知りちゃんの守護霊でもある。最も可能性の高い選択肢だったわけだ。
「となると、ロバートの使い魔は猟犬で、ヴィットのは牡鹿かな?」
ダークがそちらに目をやると、ロバートとヴィットは二人して頭を抱えて唸っており、どうやら召喚は難航しているようだ。
実際のところ、貴族院の新入生の方が、騎士院の新入生よりも、総じて使い魔の召喚は早い。これは就学前教育のアドバンテージだろう。
「わぁお!」
ひときわ大きな歓声がダークの注意を引いた。
見れば、ディアナも授業が終わる前に使い魔の召喚に成功していた!
それは、まん丸頭の——食鉄獣!
ぬいぐるみサイズのパンダ——いや、食鉄獣が机の上にごろりと寝そべり、まだ眠たげな目をしょぼしょぼさせている。なんとも間の抜けた、愛嬌のある姿だ。
「実に彼女にお似合いの使い魔だな……」
ダークは思わず額に手を当てた。グレートバイル家といえば、堂々たる『王国の熊』。どうしてこんなおっとりした子が生まれたんだか。
まあいい。パンダも熊は熊だ!
ディアナ本人は自分の使い魔にご満悦な様子で、いきなりそれを頭上に掲げてぶんぶん振り回し始めたが、シルフ教授に鋭く睨まれて、慌てておとなしくなった。
そうなると、唯一まだ使い魔を召喚できていないローズは、焦りを隠せない様子だった。
……
午前中の2時間目は魔導論だ。
召喚術が魔導カードの使い方だとすれば、魔導論は魔導カード作成の基礎理論ということになる。
そして、対応するデュエルの授業が、実戦というわけだ!
生徒たちは学院の廊下で使い魔を召喚することを禁じられているが、それでも規則を守らず、使い魔を抱えて走り回っている者もいる。
ダークはそんな連中には構わず、一足先に魔導論の教室へ向かった。
休み時間はたっぷり30分ある。怠け者は時間を無駄に過ごし、勤勉な者はすでに予習を始めている。
【怠惰】と判定されるのを避けるため、ダークは魔導論の教科書——『魔導基礎理論1』を取り出し、さほど熱心でもなくページをめくり始めた。
だから、エマ・モーティスが大急ぎで教室に駆け込んできた時、彼女の目に映ったのは、最後列の窓際の席で、熱心に(?)本を読む誰かさんの姿だった。
(まったく、貴族院の生徒がするようなことじゃないわ。ああいうのは普通、魔導院に行くべきなんだから!)
エマはそんなことをぶつぶつ呟きながら、最前列に席を見つけて腰を下ろし、同じように教科書を取り出して予習を始めた。
ダークは前列右側のエマを一瞥しつつ、頭の中では今の自分の窮地をなんとかしてくれる魔導カードはないものか、と思いを巡らせていた。
魔神の血脈を消し去るとまではいかなくても、せめて負の感情を吸収してくれるとか、あるいは心を穏やかにしてくれるような、そんなカードが——。"