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第12章 ダーク・ディモンはしぶとく生き残った

"火曜日の授業は決闘術、算術、そして魔法史だ。


一年生の決闘術を担当するのは、パワ・ジョーンズ教授。16分の1巨人の血を引くデュエルマスターときた!

それだけじゃない、彼女は貴族院の院長でもあるのだから、大したものだ。


ちなみに。

騎士院の院長は召喚術のサラ・シルフ教授。

魔導院の院長は算術のリリィ・ラプラス教授。

愚者院の院長は魔法史のディディ・マクスウェル教授。

……そう、ギャルゲーのお約束だよな、まったく。この四人の院長、全員女性なのだ!

聖マリアン学院というのは、名前からして校長、教授陣に至るまで、どうにも女尊男卑……いや、女性優位な雰囲気が漂っている。


16分の1の巨人の血を引くというジョーンズ教授は、体のどのパーツも普通の人間のそれより一回りデカい。爽やかなショートヘア、引き締まった筋肉、小麦色の肌、そして……過剰に発達したと言わざるを得ない第二性徴。全身から健康的なオーラがむんむんと立ち上っている。

身長2メートル超えで、自前でバスケットボール二つを装備しているような彼女に、ダーク・ディモンは正直まったく興味が湧かなかったが……学院内では結構人気があるらしい。

聞くところによると、ジョーンズ教授の巨人の血は巨人皇室の血筋だそうで、父親は正真正銘の人間の貴族。種族的には純粋じゃないかもしれないが、「貴族」としてはこれ以上ないほどピュアというわけだ!

聖マリアンの上級生には、男女問わずジョーンズ教授のファンが多いらしい。まあ、強者への憧れというやつなのだろう。


貴族院の新入生も、騎士院の新入生も、ジョーンズ教授の決闘術の授業には期待で胸を膨らませていた。

……だがしかし! その期待は、初回の授業であっけなく打ち砕かれた。教授がやったことといえば、ひたすら基礎的な理論知識の説明だけだったからだ。

決闘試合のルールだの、戦術だの、各種魔導カードの組み合わせだの、種族属性間の相性だの……。

まあ、朗報としては、決闘クラブの新入生募集が今週金曜日の午後に行われるということか。

だが、悲報もある。クラブに入るには、最低でも20枚一組の魔導カードデッキが必要だということだ!

この条件に、決闘を心待ちにしていた新入生たちはものの見事に打ちのめされた!

そうだろう? 入学してたったの二日目だ。誰がそんな20枚もの魔導カードを持っているというのか?

……いや、でも待てよ。そもそもデッキ一組すら揃えられない奴が決闘クラブに参加するなんて、それこそちゃんちゃらおかしい話ではないか?


***


次の算術の授業は、決闘術以上に退屈で、おまけに難解だった。

新入生たちは悲鳴を上げていた。「絶対これ、一年で一番難しい授業だよ!」と。

ディアナに至っては、授業中ずっと夢うつつだったらしい。

ローズも真面目に聞いてはいたが、やはりどこか上の空といった様子で、半分も理解できていないようだった。

で、ダークはというと……。

はっきり言って、まったく聞いていなかった。

(こんな小学校レベルの算数なんて、俺様の知能を侮辱するにもほどがあるぜ!)


【傲慢+1】


算術のリリィ・ラプラス教授は、小妖精と呼ばれる、エルフ族と遠い親戚にあたる異種族だそうだ。

彼女たちもエルフ同様、長い寿命と、それに伴う膨大な知識と知恵を持っているらしい。

リリィ・ラプラス教授は、学生たちから「リリィ先生」と呼ばれるのを好む。

彼女はほとんどの小妖精と同じく、体の成長が人間でいう11、12歳あたりで止まっている。ここにいる新入生たちよりも、見た目は幼いくらいだ。

身長は……ディアナとどっこいどっこいか。

それから、トンボみたいな翅が生えていて、いつも裸足。しかも、その足が地面に着くことはない。ふわふわ浮いているのだ。


三限目の魔法史を担当するディディ・マクスウェル教授も、同じく小妖精ピクシー。ただし、彼女の翅は蝶々みたいで、見た目もかなり年配だ。額には深い皺が刻まれている。

ディディ先生の授業スタイルは、リリィ先生と瓜二つ。教科書をただただ棒読みするだけ。

二人とも、もしかしたらとんでもなく博識で、深い知恵を持っているのかもしれない。だが、正直言って、教壇に立つのは向いていないのではないか……?

魔法史は、間違いなく最も退屈な授業の一つだ。まあ、救いなのはディディ先生が非常に穏やかで親切なことか。授業中にうっかり居眠りしても、軽くコンッと叩かれて、5点か10点減点されるくらいで済む。


***


ちなみに、水曜の夜にある天文学の授業もディディ先生の担当だ。

ただ、天文学は「選択科目」扱いで、ディディ先生から通知があった時だけ開講されるらしい。

つまり、入学して最初の一ヶ月は、まず間違いなく天文学の授業はないということだ。

似たような感じで、金曜日の魔獣学も!

こっちは、どうやら来学期から開始予定らしい。

しかも、さらに延期される可能性も濃厚だとか。

一年生は城外のダンジョンへの立ち入りが許可されていないから、魔獣学を 제대로 배우는 것도 어렵다 は難しいだろうしな。

そうなると、一週間の授業は召喚術、魔導論、魔薬学、決闘術、算術、魔法史の六科目だけ。それぞれ週に二コマずつ。

……はっきり言って、めちゃくちゃ楽勝だろう、これ!


***


図書館にて。

ダークはパンドラ先輩が来る前に、さっさと利用登録を済ませ、昨日と同じ閲覧室の席を確保した。

それから算術の課題集を取り出し、問題に取り掛かる。

(……ったく、簡単すぎるんだよな、この問題!)

九九の知識があれば余裕で無双できるレベルだ。

彼が集中していると、エマが彼の斜め後ろの席に静かに座った。

午後5時になる頃には、課題集はまるまる一冊終わっていた!

つまり、これで今学期の算術の宿題は、ほぼ片付いたも同然だ。

ダークはパタリと課題集を閉じ、満足げに机の左上に置いた。

問題を解いている間は心が平穏だったからか、【貪欲】のパラメータは作動しなかった。

……だが、その達成感に浸っていたまさにその時、視界の隅に【傲慢+1】の文字がふわりと浮かんだ!


「マジかよ……!? 小学生レベルの算数問題解いてドヤ顔してたってことか、俺は!?」

ダークは愕然とした。

そして、エマも愕然としていた!

エマは、ダークがどうやってこんな短時間で課題集を一冊まるごと終わらせたのか、まったく理解できないといった表情だ。

(同じ一年生なのに、なんでアンタだけそんなに……!?)

衝撃を受けたエマは、倍の気合を入れて算術の自習に取り掛かり始めた。健気なことだ。


***


一方、宿題を終えたダークは、なぜか一向に下がらない【傲慢】の数値を見つめ、内心の焦りを抑えきれずにいた。表情には出さないように努めてはいるが……もう限界に近い。


「俺って……そんなに傲慢な人間だったのか?」

ダークは自問自答を始めた。


***


……その問いは、一月続いた。

正直、ダーク自身、どうやってこの一ヶ月を乗り切ったのか、よく分からなかった!

だが、まあ、よく言うだろう? (生活ってのは、まるでヤンデレにロックオンされたようなもんだ。抵抗できないなら、楽しむ術を身につけるしかないってな。)

結果として、ダーク・ディモンは、一年生の中で最も注目されるスターになってしまっていた!


毎朝6時に起床し、6時15分きっかりに談話室に現れる。

彼の使い魔である小悪魔獣は、城の外をぐるりと回り込み、食堂の厨房の通気口から忍び込む。

ハーフリングの料理番たちは、いつもささやかなプレゼントを持ってきてくれるこの小悪魔獣をたいそう気に入っていた。

プレゼントといっても、川辺で拾った丸い小石とか、道端で摘んだ小さな花、夕暮れ時の幸運のクローバー、綺麗な色の羽根……そんなものばかりだが。

それでも、小さな使い魔が見つけられる最高の贈り物なのだろう。

ハーフリングたちは、花を髪飾りにし、クローバーを押し花にしてカードに挟み、小石やガラスの破片を瓶に詰めて大切にしていた。

毎朝、小悪魔獣は時間通りにやってくる。

すると彼女たちは、用意しておいたお菓子とミルク入りのバスケットを小悪魔獣に手渡す。

小悪魔獣は、その二本の太い爪でバスケットをしっかりと掴み、安定した飛行で貴族院の塔にある寮へと戻っていく。

ダークはもう、談話室で朝食をとるのが習慣になっていた。

(何かを食べながら本を読む。こうすることで、【暴食】と【貪欲】がトリガーされる確率を効果的に下げられるんだ。これは、間違いなく俺の経験則だ! 断言できる!)

食べ終わると、小悪魔獣はバスケットを厨房へ返しに行く。

ダークはそのまま談話室で読書を続ける。

人が増え始める頃合いを見計らって、一限目の教室へ向かう。

最初の頃はいつも一番乗りだったが、どうやら騎士院と合同の授業に限っては、自分より早く来ている生徒がいることに気づいた。エマだ。

(幸いなことに、このゲームのメインヒロイン殿はまだ「成長途中」って感じで、俺のストライクゾーンからは外れている。)

(どちらかというと、もっと厄介なディアナに比べれば、エマなんて道端の子猫みたいなもんで、人畜無害と言っていい。)


そのディアナだが、最近ますますダークに懐いてきている。

きっかけは、あの算術の宿題だ。

ディアナはどうにも算術が苦手らしい。ローズも似たようなものだ。

そこで、この仲良し二人組は、ひらめいた。「そうだ、ダークに聞こう!」と。すでに「秀才」キャラが定着しつつあったダークに白羽の矢が立ったわけだ。

ダークは仕方なく、彼女たちに一つの秘技を伝授してやった――【縦式計算法】!

縦式計算とは、計算過程で「縦の式」を書いて計算する方法で、これを使うと計算が格段に楽になる。

……この秘技、なんとリリィ先生に速攻で習得され、聖マリアン中に広まってしまった。

知識豊富な小妖精にとっては、本来まったく必要のない計算方法なのだろうが、初心者にとってはまさに天の恵みだったらしい。

リリィ先生は、これを【ダーク式縦算術】と命名し、ご丁寧にダークに50点もの加点をしてくれた!

これがまた、ダークを大いに悩ませることになった――【傲慢】の指数が、また上がってしまったのだ!

ダークはもう、必死で自分の感情をコントロールしようとしている。だが、大罪のパラメータというやつは、いつも彼が油断した隙を突いて、不意打ちを食らわせてくる!


***


彼は、できるだけ人付き合いを避け、無欲恬淡、不昜不喜、雲外蒼天……みたいな、悟りを開いたような穏やかな生活を求めているのだ。

だが、そうすればするほど、幼稚でやんちゃな新入生たちの中で、ダークの存在はかえって際立ってしまう。皮肉なものだ。

入学前の「悪い噂」なんて、もう誰も気にしちゃいない。誰もが「百聞は一見に如かず」とばかりに、このダーク・ディモンという人間を、自分たちの目で見た情報で再定義し始めていた。

勤勉で、賢く、容姿端麗。ちょっと冷たいところはあるけれど、それこそが高位の者たる所以じゃないか?……などと。

それに比べて、もう一人の【王国の双剣】の息子、ヴィット・ゴードの方は、どうにも見劣りがする、というのがもっぱらの評判だ。

ヴィットは、入学前にエリート教育なんて受けていない。教会で文字を習い、足し算引き算の九九を暗唱した程度だ。

彼も頭は悪くないのだろうが、いかんせん少年っぽさが抜けきらない。いつもロバートに引っ張り回されて遊び呆けている。

類は友を呼ぶ、というやつか。あるいは、朱に交われば赤くなる、か。エマという「物知りちゃん」の監視がないヴィットの周りには、真っ黒……いや、日焼けしたロバートしかいない。当然、ヴィットもその影響を受けて黒く……いや、不真面目になっていく。

おまけに授業中は、なんだかぼーっとした感じで上の空。成績はどんどん下がっていく一方だ。

このままでは、原作の主人公と悪役の立ち位置が完全に逆転してしまうのではないか……? そんな矢先、一年生の間で突如、【恋愛占い】なるカードを使ったミニゲームが流行りだした。


***


……だが、そんな流行り廃りも、交友関係を極力シャットアウトしているダークには、まったく関係のない話だ。

彼は相変わらず、自分の日常のリズムを維持している。毎朝、二限目が終わるとまず食堂へ向かい、やや控えめな量の昼食をとる。だいたい12時5分過ぎには談話室に戻っている。

そこからは、コーヒーを淹れて、ひたすら読書だ。

すぐに終わらせられる宿題があれば、それを先に片付ける。

宿題が終われば、また読書。

小悪魔獣が、時々クッキーか何かを持ってきてくれる。どれも駄菓子みたいな素朴なやつで、【暴食】を誘発する心配はない。

そして彼が読んでいる本も、もう教科書じゃない。図書館から借りてきた、【魔導】と【魔薬】に関する専門書だ。

時々、没頭しすぎてしまうせいか、【貪欲】の数値はじわじわと上昇を続けている。


午後の三限目が終わると。

彼はいつものように図書館へ向かう。

パンドラ先輩……。最初の一目惚れショックを乗り越えてからは、視線が合うだけなら【色欲+1】は発動しなくなった。

……だがしかし! パンドラ先輩の体は、なんというか、その……あまりにも……エッッッ……! そのせいで、ダークはいつも慌てふためいて逃げ出す羽目になる。

時折、背後からクスクスと含み笑いが聞こえてくることがある。

……意味不明だ。


***


全部で七つあるパラメータの中で。

【怠惰】は、一番コントロールしやすい。

ダーク自身も自分がこれほど意志が強いとは思わなかったが、【怠惰】の数値はこの一ヶ月の努力の結果、なんと増加するどころか減少した!

次にコントロールしやすいのは【嫉妬】だ。

一年生の教科書なんて、正直簡単すぎる。魔神の血脈が覚醒段階に入ってから日々増強される魔力と関連する素質のおかげで、彼は算術だけでなく、召喚術、魔導論、魔薬学でもトップクラスの成績を収めている!

資質だけで彼に匹敵しうるのは、勇者の血脈を受け継ぐヴィットくらいだが……そのヴィットが、この体たらくだ。

だから、嫉妬する相手が見当たらない。

たまに、新入生たちが心ゆくまで遊んでいたり、青春っぽい話題で盛り上がっていたりするのを見ると、むかっ腹が立つことはあるが……【嫉妬】はほとんど増えていない。とはいえ、【減少】もしていない。

だが、時間が経つにつれて、最近その「むかっ腹が立つ」回数が、徐々に増えてきているような気がする……。


同じように心の中に鬱積しているもう一つの感情、それが【憤怒】だ!

そう、彼はいつも【憤怒】を寸でのところで抑え込んでいる。だが、この魔神の血脈に対する怒り、この魔神補助システムに対する怒りは、ずっと彼の心の奥底に根を張り、ますます深く、深く、食い込んできている。

もし、いつかこれが爆発したら……。

その一点が、ダークはひどく心配だった。


【貪欲】は、まだ制御範囲内にはある。だが、これも突然爆発する危険性を孕んでいる。


それに比べると、【色欲】は、そこまで深刻な心配はない……と思いたい。だが、問題はディアナがますます彼にべったりになってきていることだ――入学当初は一人でくっついてきたのが、今や親友まで引き連れて二人でくっついてきやがる!

ダーク・ディモン、完全に自業自得!

毎回ディアナがぴったりくっついてきて宿題の質問をするたびに、彼は彼女のぷにぷにした頬っぺたをむぎゅーっと抓りたくなる衝動に駆られてしまう。

そのせいで、【色欲】はかなり上昇してしまった。

しかも問題なのは、このパラメータ、増える一方で減ることがないのだ!

ダークはかつて、【賢者モード】を利用してこれを打ち破れないかと考えたことがある!

……だが、怖くて試せなかった。下手に刺激して、一瞬でリミッターが外れたら目も当てられないからだ!


そして、意外なことに、最もコントロールが難しいのが……【傲慢】だった!

ダークは元々、これが一番制御しやすい大罪だと思っていた。なにしろ彼には前世の記憶がある。一時的に今世の性格に影響されたとしても、少しずつその傲慢な性根を削ぎ落としていけるはずだと。

……だがしかし! 彼はとんでもない見込み違いをしていた。(前世の記憶こそが、本当の毒の根源だったんだ!)

月末には、あっさりと100の大台を突破し、熟れた赤色からどす黒い紫色へと変色した【傲慢】のパラメータを見て、彼は完全に……いや、本気で、顔面蒼白になった。


***


入学して四週目の金曜日の午後。新入生たちは初めて、城の敷地を出て、聖マリアン唯一の交易区兼娯楽区――旅人街――へ足を踏み入れることを許可された。


ダークは、他の新入生たちより一際多い自分の学分を黙って数えながら、悟っていた。

(……残された時間は、もう少ない。)"


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