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第1章 ダーク・ディモンは暗黒の悪魔なんかじゃない

"「ようこそ、セントマリアン学院へ!」


壮麗な大広間に神聖な讃美歌が響き渡る。ビロードのように滑らかな漆黒の緞帳どんちょうがゆっくりと開かれ、舞台に登壇したのは、聖マリアン学院で最も美しく、最も高貴な女性――シンシア・サン・アルテ校長その人だ!


聖魔導師せいまどうしたる彼女の周りを舞う九体の精霊たちが、鮮やかな花々と蛍のような光を生み出し、舞台を幻想的かつ耽美たんびに彩っていた。


大広間には、華美な装飾が施された四つの長いテーブルが並び、その上空には数えきれないほどの蝋燭が浮かび、ホール全体を煌々と照らし出している。


蝋燭の炎は、金色の皿や銀色のゴブレットに反射し、七色の光を投げかけ、まるで夢かうつつかのような光景だ。


ダーク・ディモンが我に返った時、彼はすでに舞台の上に立っており、すぐ隣には芳しい香りを漂わせるアルテ校長がいた。


記憶が、まるでせきを切ったように脳内へと逆流してくる。


ダークは前世の記憶を思い出したのだ。


「聖マリアン学院……これって、発表前は散々叩かれたくせに、発売後はみんな手のひらを返したように『神ゲー!』とか叫んでた、あの究極キメラギャルゲーに出てくる学院じゃねぇか!?」


『デュエル! 聖マリアン超XX学院』!


美麗な立ち絵に予算を全振りして、シナリオは手抜きだらけっていうのが当たり前のギャルゲー業界において、『デュエル! 聖マリアン超XX学院』はある意味、稀有な清流と言えた。


そのシナリオ骨子はほとんどある『西洋魔法使い』だし、能力体系はあるカードゲームからの借用、デュエルカードの絵柄に至っては、人気アニメのキャラを片っ端から持ってきただけ。それでも、ごった煮にされた要素が、意外にも面白いゲームを構成していたのだ。


ゲーム内のヒロインを攻略しなくても、このゲームだけで十二分に楽しめる。


『デュエル! 聖マリアン超XX学院』は、一時期「実質カードゲームシミュレーター」と化し、様々な(意味深な)修正パッチが国内のアンダーグラウンドで大流行したほどだ。


だがしかし、ダークは燃えるような正義感から、道徳心を固く守り、このパクリ+海賊版+エロの三重苦なクソゲーには断固として手を出さなかった。だから、設定やシナリオについては、聞きかじった程度の知識しかない。


うろ覚えだが、このゲームのラスボスは、たしかダーク・デーモン(Dark・Demon)っていう名前の貴族のボンボンだったはずだ。


女公爵の一人息子であるダーク・デーモンは、ゲーム内ではドラコ・マルフォイ的な立ち位置で、学院では主人公に敵対する序盤の悪役。終盤になって、実は魔神の末裔であることが突然明かされ、復活した魔王がぶっ飛ばされた後に血脈が覚醒。最後の大魔神へと変貌し、主人公に自分を倒させ、その上ご丁寧に婚約者まで奪われる機会を提供してしまう!


思えば、ダーク・デーモンってやつは、生まれついての悲劇キャラだよな。名前からして「暗黒・悪魔」って……最初から悲劇が運命づけられたピエロみたいなもんじゃんか、えーっと……。


……待てよ。その名前、なんでそんなに聞き覚えがあるんだ……?


ダーク・ディモンの顔色が、みるみるうちに白くなっていく。


……


「ダーク・ディモン君、ダーク・ディモン君……」


耳元で、春風のように心地よい呼び声が響き、ダークは衝撃から我に返った。


必死に顔の筋肉の震えを抑えつけ、アルテ校長の方を向く。


アルテ校長は、月光のように清らかでけがれを知らない銀色の髪を持ち、長い睫毛の下には、人の魂を吸い込んでしまいそうな深い青色の瞳があった。


ゲーム内攻略対象の一人である彼女は、聖マリアンの月、美しさの象徴そのもの。実際のサイズより二回りは小さく仕立てられた豪奢ごうしゃなドレスが、彼女の胸元に垂れる銀の月の首飾りを、ことさらに白く際立たせていた。


ダークは、自分が聖マリアン学院の入学祝賀会で、最初の新入生として学院の組分け検査を受けている最中だと気づいた。


彼は、転生してからの出来事を懸命に思い出そうとする。


前世の記憶が戻ってきてから、今世の記憶の方が逆に曖昧になってしまっているのだ。


だが、『西洋魔法使い』の元ネタ設定と照らし合わせ、なんとか思い出した。


聖マリアン学院は、王国で唯一、聖教秘儀学院せいきょうひぎがくいんと拮抗しうる学院であり、学院内はさらに四つの寮に分かれている。


その四つの寮とは、すなわち――貴族院きぞくいん騎士院きしいん魔導院まどういん、そして愚者院ぐしゃいんだ。


貴族院の生徒は皆、身分高き純血の貴族。

騎士院の生徒は、騎士のごとく勇敢で正義感に溢れている。

魔導院の生徒は、知識の継承者であり、博学で叡智に富む。

愚者院の生徒は、今のところ騎士の勇気も魔導師の叡智も持たないが、天真爛漫で純粋、そして最大の可能性を秘めている!


ダークは、そのことで過度に緊張することはなかった。


魔神の血脈が覚醒する前ならば、いくら学院の組分けカードでも、それを検知できるはずがない。


自分は公爵の子息、王室を除けば最も尊い貴族の血筋なのだ!


必然的に貴族院に振り分けられるはずだ。


でなければ、このクソゲー、開始早々詰んでるだろ……。


落ち着きを取り戻すと、ダークは一年生たちがいる場所をちらりと盗み見たが、びっしりと並んだ頭の中から、元の主人公らしき人物を見つけ出すのは困難だった。


そこでダークは気づく――俺、元の主人公の名前すら知らねぇじゃん!


まあ、問題ないか。魔王を封印した勇者の息子なら、すぐに夜空の蛍みたいに頭角を現すだろう。


ダークは深呼吸して言った。「校長、準備できました」

「さすがはディモン家のご子息ね」アルテ校長が微かに微笑む。


彼女の周りを飛ぶ九体の精霊のうち、グリフォンのような姿をした小さな精霊が一匹、ダークに向かって飛んできた。


それがダークの目の前に来た時、元々は何もなかったはずの嘴の間には、裏面に王冠、騎槍、魔導書、タロットカードの【愚者】が描かれ、表面は真っ白な魔導カードが一枚、挟まれていた。


「組分けカードを手に取りなさい、ディモン君」


アルテ校長の言葉に従い、ダークは小精霊の嘴からその魔導カードを引き抜いた。


「そして、その組分けカードを右手で左手の上に重ねて、自分が何を好み、何を望むか考えなさい。そうすれば、カードが導きを与えてくれるでしょう」

「はい、校長」


ダークは目を閉じ、想像を始めた。


あのゲームについての知識は本当に限られている。知っているのは、ゲームを通してずっと立ちはだかる悪役ボスとして、自分が魔神の血脈を覚醒させた後で自滅する運命にある、ということだけだ。


そして、魔神の血脈の覚醒は、たしか成人式の日に起こるはずだった。


魔神の血脈が覚醒する前は、原作主人公とは対立していたものの、それはまだ些細な衝突の範囲で、生死を賭けるような段階には至っていなかった。


彼の婚約者――ゲーム内で最も人気のあるヒロインも、彼が魔神に変貌した後に絶望し、それによって原作主人公につけ入る隙を与えてしまったのだ。


ということは、成人式までに魔神の血脈の力を抑え込む方法を見つけさえすれば、俺はまだ公爵の子息のままでいられる。地位も権力も高く、おまけにあんなに酷い仕打ちをしてもなお、見捨てずにそばにいてくれる婚約者までいるんだ!


……


思ったより、まだマシ……なのか?


……


眩い白い光が掌から溢れ出す。ダークは、組分けカードが熱を発し、まるでカードが生成されているかのような感覚を覚えた。


アルテ校長の柔らかな声が再び響く。「ディモン君、組分けカードを高く掲げ、今年の新入生たちに、正しい組分けの儀式のやり方を示してあげなさい」

「はい、校長」


ダークは右手をどけると、組分けカードに現れたのは、やはり貴族を象徴する王冠だった。


彼はそのままカードを高く掲げ、魔力を注ぎ込み、起動させる。


「ドンッ!」


花火のような光の点が突如として放たれ、空中に金色の巨大な王冠を形作った。


組分けカードが叫ぶ。「ダーク・ディモン、貴族院!」


「おおおぉぉ!」


大広間の中、貴族院の他の学年の生徒たちが座るテーブルから、徐々に歓声が上がり始めた!


「ダーク・ディモン! あの女武神ヴァルキリーと称される公爵の一人息子、やはり我々の寮に来たか!」

「オーマイガー!」


どうやら、この坊ちゃん、貴族院では結構人気があるらしい?


ダークの口角が微かに上がる。そのまま、彼は手を下ろした。


【ピピッ! 魔神の血脈が覚醒段階に移行したことを検知。トリガー……】


「ちくしょう!」


……

……"


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2025/05/12 12:16 退会済み
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