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その復讐に花束を  作者: 砂糖
アルストロメリア
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第1話






────初めてだった。

こんなにも胸が熱くなって、目が離せなくなって、なにも考えられなくなるくらい頭の中を占領してしまう、そんな人に出会うのは。

たしかにこれは、一種の呪いだ。













「マリー!そこが終わったら次はこっちを手伝って!」

「わかったー!」


同僚であるソフィアに声をかけられて私は箒を持つ手に一層力を入れて仕事をこなす。

この一ヶ月、王城ではどこもかしこもいつも以上に使用人たちが(せわ)しなく動きまわっていた。


ここはネイサール王国王都バリアント、私は王城に勤めるしがない侍女の一人。

私も一応、ウィークリー子爵を父に持つ貴族令嬢なんだけど、貴族とはいえ貧乏が上につく田舎者で、尚且つ今は人手が足りないということで、ハウスメイドの如く城の掃除に明け暮れている。


(まあ、腐っても貴族令嬢、他の同僚が嫌がるなか特別手当が出るって言うから名乗りを上げたのは私自身なんですが)


なぜこんなにも城中が忙しないのかというと、本日隣国ヨハネス帝国から我が国に末の皇女殿下が嫁いでこられるから。

それも帝国に留学で赴いた王子殿下を一目で〈番〉認定した皇女殿下の押せ押せ押しまくった上での恋愛結婚で。それには末の皇女殿下に甘い皇帝陛下の口利きもあったとかなかったとか。



ヨハネス帝国は、主に人間しか住んでいない王国とは違い、獅子獣人である皇帝陛下が治め、国民の七割を獣人が占める所謂亜人の国。

その中でも獣人は、祖先の動物に起因する耳を持つこと以外見た目は普通の人間とあまり変わりない。


ただその耳と同様に、人間とは大きく異なることがもう一つ、────それが〈番〉の存在。


それは獣人にとっての運命。生涯にただ一人の相手。

そのため〈番〉に出会うと、例え相手にすでに他の相手がいようとも、何としてでも手に入れる、それが獣人の本能。


しかし、その〈番〉にも必ず出会えるわけではない。

だからほとんどの獣人は〈番〉以外の相手と普通に恋に落ち結婚し子をつくる。ましてや後継が必要な皇族にとってはなおさら相手が〈番〉である必要はない。


そんな中で、隣国からの留学生で身分の釣り合う王子が末の皇女殿下の〈番〉と判明したのなら…、それはもう国を挙げて応援しまくったらしい。たまたま王子殿下にもまだ正式な婚約者はいなかったので、今回の婚姻が成立した。



それに伴う、嫁いでくる皇女殿下一向をお迎えするための大掃除なのだ。


帝国とは普通に仲の良いお隣さんという立ち位置なので、この国にも少なからず獣人や他の種族が住んでいる。でもやっぱり圧倒的に人間が多いこの国では滅多にお目にかかれない訳で。

ましてや王族の人間と獣人のカップルなんて。


(獣人の皇女様か〜)


私はニヤけそうになる口元を必死に抑えて、手を動かす。

何を隠そう私は昔から大の動物好きで、また現皇帝陛下と皇后陛下の馴れ初めが基となった帝国愛寵物語シリーズを愛してやまない一読者でもある!


現皇帝陛下も皇族としては珍しく〈番〉が判明した方で、それが人間である現皇后陛下であり、一悶着も二悶着もあっての成就だったことで、世紀の大恋愛として小説が全世界に発売された。


その小説の大ファンである私も今回の輿入れを楽しみにしていた一人である。


(皇女様、どんな方なんだろう…。世紀の大恋愛の末生まれたお子の中で唯一の皇女様、出来れば近くでお目にかかりたいし、あわよくばお仕えしたい!)







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