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EP6 . 剣と魔法

 ビアンカには剣の才能があった。


 あれから二年。俺とビアンカは八歳。父さんから剣を学んだビアンカはその頭角を現し、二年で俺と並ぶ程の剣術を身に着けた。まだ言葉も話せない様な赤子だった頃から剣を握っていた俺と違って、二年前のビアンカは完全な素人。木刀を三振りするだけで息が上がっていた幼気な少女が二年で俺と肩を並べる程の剣士になるだなんて、天才としか言いようがない。


 最近では打ち合い稽古で俺から一本を取る事も多くなってきた。正直俺は焦っていた。だが、彼女の努力する姿は俺に良い刺激を与えた。俺達はライバルとして互いを高め合っていた。



 コケコッコー!

 

 俺達の朝は鶏の鳴き声から始まる。


「おはようビアンカ、今日も俺の方が早く起き上がったな」


「いいえ、今日も私の方が早かったわ。エドワードはいつもちょっとだけ反応が遅いもの」


 俺達は素早く着替え、寝室を飛び出した。朝の見回りから帰った父さんが、いつも朝食を用意してくれている。


「二人ともおはよう、あんまり焦って喉に食べ物を詰まらせるなよ」


「「はーい!」」


 朝食を掻き込んだら、うがいをして木刀を持ち出発。小さな丘の上の木陰で朝一番に打ち合い稽古をする事が、最近の俺達の習慣だ。丘に行くのも競争で、どちらが早く到着したかを毎朝競っている。


 早朝の村を駆け抜ける俺達の姿はもはや名物だ。


「おはよう!」「今日も頑張れよ」「帰りにミルクをあげるわ」


 村の皆が俺達に声をかけてくれる。最近のビアンカは足も速いから困ったものだ。


「遅いわよエドワード」


「そっちこそ、息が上がってるんじゃないか」


「エドワードだって瘦せ我慢じゃない」


 丘への道中、俺には敵がいる。ミンテさんちの凶暴な犬だ。いつからか犬が苦手な俺は毎朝こいつに邪魔されて足止めを食らう。そのせいで丘への競争には負けてばかりだ。


 今日もそいつの邪魔が入る。”キャンキャンキャン”先頭を走る俺に奴は恐ろしい鳴き声をあげながら駆け寄ってきた。そして奴は腰を抜かす俺の顔をベロベロと舐め攻撃してくる。


「うわあっやめろ」


 悲鳴を上げる俺を抜かしながらビアンカが言う。


「その子、ほんとエドワードに懐いてるわね」


 (懐いているものか。俺を食おうとしているんだ)


 そう思いつつ、どうにか奴から逃げて丘の上にたどり着いた。丘に着いた頃にはお互いへとへとだ。だが、休憩の時間はあまりない。


「ハア、ハア、また負けた。くそー、あの恐ろし犬さえいなければ」


「ハア、ハア、可愛い犬じゃない、私はむしろあなたが羨ましいわ」


「可愛いものか、」俺の言葉を遮るようにビアンカが言う。


「ごちゃごちゃ言ってないで、今日の勝負を始めるわよ」


 木刀を構えるビアンカ。ここ最近のビアンカは本当に手ごわい。舐めてかかれば簡単にやられてしまう。俺も息を整え木刀を構えて言う。


「始めよう」


 最初に木刀を振るったのはビアンカ。素早く距離を詰め、俺の銅に斬りかかる。これは簡単に避けられる。


 だが、最近のビアンカは次の攻撃が驚くほど速い。振り下ろした木刀をすぐさま持ち替え、今度は下から振り上げてきた。俺はこれをギリギリで避けた。ビアンカの木刀が胸にかすった感覚。


「ビアンカ、また速くなったな」俺は一旦間合いを取りそう言った。


「おしゃべりをしてる余裕があるのかしら」


 彼女がまた俺に斬りかかる。しかし、俺もやられてばかりではいられない。切先を切先でいなし、彼女の空いた喉元に斬りかかる。これをかわすビアンカ。(後ろから来る)俺は素早く木刀を背に構えた。


 ビンゴ


 俺の勘は当たった。彼女はいなされた木刀を俺の背に向け振ったのだ。俺の木刀とビアンカの木刀が交差する。


「やるわね」「そっちこそ」その時だった。


 キャンキャンキャン


「うわぁ、またお前か!」


 俺達の後をつけてきたミンテさんちの犬が俺に飛びついた。怯む俺にビアンカは容赦なく木刀を振り下ろす。まさかの援軍のせいで、俺は一本取られてしまった。


「おいっ近寄るな!ビアンカ、今のは流石に無しだよなあ!?」


「隙を見せたエドワードが悪いわ。というかこの子、ついてきちゃったの。家へ帰してあげないと」


「ったく、迷惑な奴だ」

 


 きゃんきゃん吠えながら俺を追いかける犬と共に、ミンテさんちに寄りつつ俺達は家へ帰った。家へ着くと、庭で父さんが待っていた。


「遅かったなあ、さあ、稽古を始めるぞ」


 早速、父さんとの稽古が始まる。稽古の最中、父さんは手を止めて言った。


「二人とも、だいぶ剣の腕が上がって来たな。剣に気が宿り始めている」


「父さん、気って何?」


「気とは魔力だ。人の体には元来、血液に乗り魔力が流れている。剣士は身体や剣に魔力を纏わせる事で、能力を強化して戦うんだ。剣士はそれを”気を宿す”と言う」


「おじさんがフェンリルと戦っていた時に剣が白く輝いていたのも気を宿していたから?」


「その通り。気を極めれば、より強い相手と戦う事も出来る」


 確かに、剣を振るっていると体中から力が沸いて来る感覚がある。けれど俺には、それを制御して使いこなす事はまだ出来ない。


「魔力には気の他にも使い道があるが、それは何だと思う?」父さんは一息ついて言う。


「魔法だ。魔法を使うと、火、水、土、雷、その他にも沢山、この世界の様々なものを操れるようになるんだ。魔法を操れば更に強くなれる。残念ながら俺に魔法の才能は無かったが、二人なら使えるかもしれない。どうだ、魔法を習ってみないか?」


 俺とビアンカは互いに目を合わせた。言葉にしなくても、二人の考えが一致していることはすぐに分かる。俺達は息を揃えて言った。


「「習いたい!」」


 けれど、良く考えたらこの村に魔法を使える者などいない。いったい誰が魔法を教えてくれるというのだろう。


「父さん、誰が魔法を教えてくれるの」


「本物の魔女さ。西の方角に塔が見えるだろ、その塔の上には昔から魔女が住んでいるんだ。だから、彼女に頼んでみようと思う」


「西の塔って、みんなが薬を貰いに行ってる場所よね。魔女が住んでいただなんて知らなかったわ」


「あいつはちょっと恥ずかしがり屋でな、あまり人前に姿を現さないんだ。でも、根は優しい奴だから、必ず力になってくれると思う。あいつに手紙を送っておこう」


 昔から塔に住む魔女。どんな人なのだろうか。俺の中で期待が膨らんでいった。翌日の朝、早速返事が返って来た。彼女から送られてきた手紙には一言”了解した”とだけ書かれていた。



「ねえ、やっぱり歩いて行かない?」


 ビアンカは馬に跨る俺を父さんの陰から見て言う。というより、馬の方を見ているようだった。


「せっかく牧場のおじさんが許してくれたんだ、馬に乗っていこう。それに馬の方が早いだろ?」


 剣の才能に溢れるビアンカだが、乗馬は苦手だった。馬の背中は高いうえに揺れる。それが怖くて、いつまでたっても父さんの補助付き乗馬だ。


 それに、そもそもビアンカは馬という生き物が苦手だ。初めて牧場で馬に会い、盛大に顔に唾を食らって以来、馬が嫌いになってしまったようだ。あの時の事を思い出すと今でも笑いがこみ上げてくる。


 父さんはいつまでたっても動こうとしないビアンカを見かねて、彼女を持ち上げながら言った。


「ガハハハッそんなに怖がらなくても大丈夫だビアンカ。西の塔はここから近いし、エドは乗馬が上手い。エドの背中に掴まっていればすぐに着くさ」


 ビアンカが俺の後ろに跨ると少し驚いたのか、馬が二、三歩動いた。けして大きな動きではなかったが、ビアンカはひどく怯えて俺にしがみ付く。あまりに強く俺の腹を締めてくるので、俺の方が驚いてしまった。


 目をぎゅっと閉じて怯えるビアンカとは裏腹に高鳴る俺の心。馬に乗り牧場の柵の中を走った事は幾度となくあるが、柵の外、それも、村から出て馬を走らせるのはこれが初めてだ。俺は早く出発したくてたまらなかった。


「エド、あんまり調子に乗っちゃダメだぞ、安全第一だ」


「わかってるよ父さん、それじゃあ、行ってきます!」

 

 俺は勢いよく馬を走らせて出発した。

 



 全身に心地良い風を感じる。馬の背中から見る景色はいつもより広くて、いつもより綺麗だ。視界を遮る物は何も無く、遠くの山や森がありありと見えた。


「ビアンカ!怯えてないでお前も周りを見てみろよ」


「無理っ、絶対無理!ちょっとスピード落としなさいよ!」


「何言ってるんだよ、風が気持ち良いだろ」


「気持ち良くないってば........」


 ビアンカは顔を俺の背中に押し当てた。こんなに綺麗な景色を見ないだなんて勿体ない。目の前に広がる壮大な風景は、俺が独り占めするに大きすぎた。


「なあ、ビアンカ、騙されたと思って一回目を開けてみろよ。今見ないと絶対後で後悔するぞ」


 一拍置いて、彼女の顔が俺から離れるのを感じた。それからしばらく静かな時が流れた。風を切る音と馬の息遣いだけが聞こえてくる。しばらくしてビアンカが言う。


「エドワード、すっごく綺麗だね」その一言で俺の心は満たされた。


「な!すっげえよな!」


「もっと早く教えなさいよ」


「は?俺はずっと言ってただろうが!」


 そうこうしているうちに西の塔が近づいてくる。高鳴る気持ちを胸に俺達は平原を駆け抜けた。



 塔の下で馬を止める。予想していたより大きな塔だった。円柱形のその塔の壁には沢山の窓があって、屋根は明るいオレンジ色。乗って来た馬は近くの木に繋いだ。


「ここに魔女がいるのね」


「ああ、楽しみだな」


 俺達は小さな階段を登り扉のノッカーを鳴らした。 

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