2話 出会い
今回は視孤視点スタートです。
途中で時樹視点に変わります。
私は今、主様がいると思われる地域へやってきています!
周りには背の高い建物 (びるというらしい)がたくさん建っています。
私が住んでいたあたりにはなかったのでビックリです。流石は主様!
わあ! この建物なんか、透明な板がいっぱいありますよ!! 中の様子が丸見えです!
ほら、黒ずくめの男の人がレジの人に向かって袋とナイフを突き出して怒鳴っているところも――って、泥棒!?
レジの人が怯えながら袋にお金を詰めてる。やっぱり泥棒だ。助けなきゃ!!
私は走って建物の中に入る。って、勝手にドアが開いた!? いやいや、泥棒に集中!
私に驚いたのか、泥棒さんが一瞬ナイフを握る手を緩めた!
それを見逃さず、私は《神通力》でナイフを弾き飛ばす。
バチン!!!
「――なんだ!? ナイフが勝手に……!?」
あたふたしている泥棒さんに一瞬で近づいて手をガッチリと掴む。
レジの人にも手伝ってもらってしっかり固定! これでもうナイフは持てない!
近くにいたお客さんに通報してもらって一件落着。
いい事をした後は気分がいいね! のんびりしよっと。
じゃなくて、主様!! 私は主様を探しに来たの!!
主様を探しつつ観光……だね。主様もこの景色も諦めたくないもん!
***
うーん……かれこれ数時間歩いてるけど中々主様と出会えない……
もしかして、もう通り過ぎちゃったとか!? ひーっ!!
Uターンしなくちゃ――
ヒュ───────ッ……
……え? 空からなにか降ってきて……
見上げた途端、私は体の芯から凍てつくような感覚に陥った。
だって、落ちてきたものの正体は――人間だったから。
「きゃあああああああ!!!!!!!」
周りが悲鳴を上げる。遠巻きにこちらを伺い、騒いでいる。
私にそんな余裕はない。このままじゃ、この人は――
そう思った途端、時が止まった。
***
――時は少し遡り。時樹は買い物のために街へ繰り出していた。
「お菓子とおにぎりと……あとは飲み物でいいか」
小腹がすいたので、コンビニに寄って軽食を買うつもりだ。
軽食と言っても、俺は食べざかり真っ最中なのでそこらの大人よりは食べている。
まぁそんなことはどうでもいい。
俺はそれとなく周りを見渡す。
前のような事故が起きそうならすぐ助けるためだ。
まぁそんなポンポン『日常』を壊されても困るのだが……
退屈になるくらいなら壊されてもいいか、なんてな。
「きゃあああああああ!!!!!!!」
!? 叫び声が……あれか!
目を向けると、ビルから飛び降りたと思わしき男性が地面に向けて真っ逆さまに落ちる光景が広がっていた。
自殺か? どこから落ちたのかは知らないが、このままでは死ぬだろう。
……いや、そんなことはさせない! ――時を止めるッ!!!
***
ふう。時を止めるのも慣れたものだ。前よりスムーズにできた気がする。成長だな。
それよりも、だ。この人をなんとかしなくちゃだな。
下にクッションになるものを敷き詰めれば大丈夫か?
まぁ死ななければいいだろう。ケガをされても俺に非はない。飛び降りたこの人が悪いんだからな。
まずはクッション探しだ。いいのものはないか――
「――ま、待ってください!!」
――!?
声……が聞こえた!? 俺は時を止めたはず……だから俺以外には動けるものはいないんじゃ……
もしかしたら、俺以外にも動ける人がいたのか!?
俺はその考えに至り、すぐに声のする方向へ振り向いた。
そこには小学生くらいの女の子がいた。
信じられないほど目を見開いており、なんだか涙ぐんでいるようだった。
「君、時が止まった状態でも動けるのか?」
「あっ……は、はい、動けます」
声をかけると、怯えたのかカチコチになってしまった。
……いきなりこんなことを言われたら怯えるだろうな……
声をかけたのは失敗だったか。
「あの……すみません。お名前を聞いてもよろしいでしょうか……?」
「構わない」
呼び止められたかと思えば、名前を聞かれた。
なにかあるのだろうか?
「俺は清野時樹という。君は?」
「――ッ!!!!」
俺の名前を聞いた途端、更に目を見開いて俺を凝視したかと思えば、すぐに跪いた。
……俺に対して。いやいやいや、は?
頭の中が疑問で溢れていると、少女の方から話しかけてきた。
「清野時樹様……長年探し続けておりました。相まみえることができ、光栄に思います」
何をトチ狂ったのか知らないが、急にすらすらと語りかけてくる。
少女の頭を疑った俺だったが、次に放たれた言葉で頭が真っ白になった。
「私は結乃視孤と申します。我が一族は貴方様の御家に再び仕えることを心待ちにしておりました」
「は?」
思わず言ってしまったが仕方ないだろう。
今度は少女の頭ではなくドッキリを疑ってしまった。
本当に状況が飲み込めていない。俺は成績優秀ではないのでそのせいかと現実逃避しつつ固まっている。
「……何か、お困りですか?」
「あ、あぁ……まず、俺の家に仕えるってなんだ? なんでこの世界でも動けるんだ?」
幸いにも、あちらさんが助け舟を出してくれたので素直に応じる。
断る理由がないのもあるが、まずは何が起こっているのか情報が欲しかったのだ。
「先程も申しました通り、私は結乃視孤といいます。我が一族は、数百年ほど前、貴方様の御家――神野家に仕えておりました。ですが、何らかの原因により数世紀もの間隔たれていたのです。わかっていたのは神野の御方が時を止められること、そして清野と名を改めたこと。これを手がかりにずっと探していましたがなかなか見つけられず……申し訳ございませんでした」
なるほど。俺の家系はすごかったのか。まさか従者がいたなんてな。
俺の先祖は一体どんなやつだったんだ。俺とは似ていないんだろうが気になるな。
「そして、私が動ける理由ですが……わかっていません。我が一族の中でも限られた者しかおりません。母は認識はできたようですが動けはしなかったらしく、父に至っては認識すらできないようです。お力になれず、申し訳ありません」
ふむ……
気になる点がたくさんあるが一先ず置いておいて……
「取り敢えず、アイツを助けるか」
「わかりました、主様!」
わからないことが増えたが、まぁよしとしよう。
そんなものはこの事件が終わってからじっくり考えればいい。
……帰る気はなさそうだし。
こうして、悶々としつつひたすらクッションを集めるのだった。