1話 始まり
どうも、海月です。
記念すべき初投稿作品です。
至らぬところがあると思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
……あぁ、つまらない。
ガタンゴトンと揺れる電車、イヤホンから流れる音楽。
何もかもが『いつも』で『日常』だ。
『日常』は退屈だ。
特にこれといったものが起こらず、ただただ平和に時が流れる。
そんな日常を覆せるのは俺――清野時樹が持つ《時を止める能力》なんだろうが、これは何も楽しくない。
ただ時を止める、それだけだからだ。
友達と沢山遊びたくて時を止めたとしても、その友達が動かない。ただ、自分一人の時間が生まれるだけだ。
自分以外の全てが止まる――聞こえはいいが、こんなもの、あってもなくても同じだ。
なにか、『日常』とは別のことが起きないだろうか……
キキ────────────ッ!!!!!!!!!
――ッ!?
なんだこの耳をつんざくような高い音は……!?
もしかして、急ブレーキ?
ズズズ……グラッ……
「うわあああああ!!!!!」
「きゃあああああああああ!!!!!!」
電車が傾いた!?
本能だろうか。このままじゃ横転事故で――死ぬと悟った。
俺だけでなく、この電車に乗っている人すべてが……
――いや、そうはさせない!!!!!!――
俺はすぐに《時を止める能力》を発動させた。
***
さて。
時を止めたのはいいものの、俺にはどうすることもできない。
電車だけ止めたりできれば便利なんだけどな。
とはいえ、ここで解除してしまったら俺も含めみんなお陀仏だ。なんとかしなきゃな……
一応窓を覗いて外の様子を確かめる。
だが、窓から得られる情報など微々たるものだ。
……このドア、なんとか開かないか?
「うぎぎぎぎぎぎ……」
ありったけの力を込めてドアを開けようとするが、やはりだめだ。
どうしたものかと車内を歩いていると、手動でドアを開閉できるボタンを発見した。
早速押して扉を開ける。さっきの苦労は一体何だったんだ……
そんなことは置いといて、早速自分が外へ出る。
地面と割と近いか。ジャンプすれば地面からでもここへ登ってこられそうだし、無傷で下へ降りれそうだ。
……人1人抱えるくらいなら余裕そうだな。
取り敢えず近くにいる人を抱えて次々と外へ出す。
ただ外に出すだけなら楽だが、それでは倒れてきた電車の下敷きになってお陀仏だ。なので、少し離れたところに運ばなければならない。
時が止まっているとはいえ、人間は人間。普通に重いし丁重に扱わないといけない。
面倒くさいが、みんなと自分のためだからな……
住んでいるのが田舎で良かった。
乗客はあまりおらず、数少ない往復ですんだ。
両端の車両へ走り回って人を運んでいたせいか、足に力が入らなくなりそうだ。
車掌室に入るのは初めてだし、知識もないので何かやらかしてしまったかもしれないが、どうせこの車両は潰れる。問題ないと信じて救出した。
あそこで日和って車掌だけ死なれるのも困るからな。
なんだかんだ全員出し終わり、被害が届かないであろう場所まで遠ざけた。
これでとりあえず安心だ。
ここでも被害が及びそうならまた時を止めて更に遠ざけるだけだ。
俺の疲労が半端ないが、これはボランティアのようなものだ。文句は言うまい。
そして、もしもに備えて何度も頭の中でシュミレーションをする。
もし来そうになったらすぐに時を止める。
何があっても知らんぷり。俺は大根役者だがまぁ大丈夫だろう。
俺は何度も何度も重ねたシュミレーションを終了させ、時を再開させる準備をする――
***
ガッシャ──────ン!!!!!!!!!!
「――ッ!!!!」
時を再開させた瞬間に耳に届く大きな音。
それは電車が地面に激突し、車体が大きく壊れた事によって生じたものだった。
こちらに壊れた電車の破片が飛んでくることはなく、ひとまずけが人はでなさそうだ。
「……え?」
周りの反応を少し伺ってみたが、全員呆然としている。
どうやら気づいていなかったようだ。少し安心だ。
「……俺、さっき電車の中にいて……その電車が倒れて……死ぬかと思ったんだ……」
黒スーツを着こなした、サラリーマンらしき人が呆然と呟く。
その言葉にハッとしたのか、周りが一斉に喋り始める。
「そうよ! 電車が倒れて……死ぬかと思ったもの! でも……」
「何故か電車の外にいて……あれってぼくたちが乗ってた電車!? だとしたら……」
――瞬間移動――
今、全員の頭の中にこの言葉が浮かんだことだろう。
実際、そんなことはないのだがとりあえずみんなが助かった。
口々に己の感想を述べる周りを見て、助かったことを笑顔で喜ぶ者を見て――
俺は嬉しくなった。
俺は、この人たちの命を守れたんだ。
ずっと、つまらないものと認識していた能力が、人を助けることができるものだった。
俺は自分を――この能力を誇りに思う。
この能力を使ってなにかできるのなら、俺は全力で――
***
「!!!」
あるところに、一人の少女がいた。
彼女自身は時を操ることはできないが、止まった時を認識することができる。
(これはっ!! ……この感覚……やっぱり時が止まってる。もうすぐで見つけられそう……)
少女はそう考えるなり書斎へ走り、棚から本を引っ張り出した。
「えーっと……どこのページだっけ?」
少女は素早く本をめくり、目的のページを探し出す。
そして体感数分後、本をめくっていた手をピタリと止め、少女は呟いた。
「……あった」
そして、キラキラと輝く目でその文字を追ったのだ――
***
時が進んだことを認識した少女は廊下を駆けてある部屋へと入る。
「お父様! ……さっき、時が止まりました!」
「……そうか」
部屋に入るなり、大きな声で叫ぶ少女。その対象は、部屋中央にてどっしりと構えた大男である。
男は数秒目を伏せたが、すぐに顔を上げ、少女に告げる。
「位置の特定は?」
「なんとなくだけど……一応掴みました!」
「ならばよし。――旅へ行くがいい、視孤!」
「――はい!!」
少女――視孤は嬉しそうに声を上げた。
彼女の旅の目的は、遥か昔に仕えていた一族へまた仕えること――すなわち、その一族の末裔を探すこと。
「私は必ず、我が主様――神野家の御方を見つけます!!!」
「うむ。では、朗報を期待している。」
「わかりました! では……行ってきます」
「……いってらっしゃい」
微笑みあったあと、視孤は踵を返し走り去っていく。
――また、主に仕えるのだという希望を胸に――
こうして、一つの物語が始まる。