93.我慢する君と
教室の扉を開き綾さんと一緒に中に入ると、
「可愛いですね、吉川さん、綾さん」
たまたま近くで友達と話していた体育委員さんと目が合い、微笑んで褒めてくれる。
それが私は嬉しくて自然と笑う。すると何故か、
「本当だ、すっごく可愛い!」
「吉川さん、メイド服めちゃくちゃ似合うね!」
話したこともない人達からもいきなり口々に褒められ、人生においてこんなに褒められたことがないので上手く反応出来ず頬赤くしながら固まると、
「なんで夢依ちゃんだけ皆に褒められてるの?私の時は皆スルーだったのに!」
絵音さんが声を大にして言い、私と綾さんを助けるように皆の視線と声を集めてくれる。
「可愛いなって思ったけど、言うの忘れてただけだよ、絵音」
「そーそー。絵音、可愛いー」
「軽いよ!絶対に思ってないじゃん!」
絵音さんのツッコミに皆が笑い、一安心すると同時にその隙をつくように音々さんが私達の方にやって来てくれ、
「綾も〜、夢依ちゃんも〜、すっごく可愛いね〜。サイズは大丈夫〜?」
優しく笑ってくれながら手短に聞かれたので、私も綾さんも無言で頷く。
それを見て、音々さんはどこか納得したように笑い、
「じゃ〜、着替えて来て良いよ〜」
素早く私達を解放して教室の扉を開けてくれたので、絵音さんと音々さんには後でお礼を言わないと思って教室を一歩出た時、先程までのゆるい口調とは違い、真剣で真面目な声でこっそりと音々さんに耳打ちされる。
「綾を、慰めてあげてね」
「えっ?」
私はその言葉の意味が理解出来ずに、首を傾げて音々さんを見るけど、笑っただけでそれ以上は何も言う事なく、手を振られ教室の扉を閉められる。
「あ、綾、行きましょうか」
「そうだね」
私は戸惑つつも綾さんに一言声をかけ、先程の言葉の意味を必死に考えながら一緒に理科室へ。
「夢依」
再び中へと入り扉を閉めると同時、綾さんは私を呼んで迷いなくメイド服に手をかけて脱ぎ、ワンピースと同じ構造のメイド服がすとっと床に落ちる。
そうなればもちろん綾さんは下着姿になる訳で……私は一瞬目を逸らすけど、綾さんの言葉を思い出して思い切って向き直る。
水色と銀色が混ざった長い髪が垂れ、綺麗でスタイルの良い白い肌と、それに似合った白い下着。
見れば見るほど、どうしてこんなに綺麗で可愛い人が私を好きになってくれたんだろうと思ってしまう。でも、そんな人の顔は酷く儚くて今にも消えてしまいそうで、
「あ……綾?」
私が名前を呼ぶとゆっくりと一歩ずつ私に歩み寄り、無言でメイド服を脱がされ綾さんと同じ姿になる。
恥ずかしい。体を隠して服を着たい。でも、今やる事はそうじゃないと心が言って……ぎゅっと悲しそうな彼女の手を握り、ぎゅっと肌をくっ付けて抱きしめ、
「綾、愛してます……んっ♡」
大好きな彼女に今までの人生の中で一番長くキスをする。
音々さんが言っていた、慰めてあげてねと言う言葉がキスをすればするほど少しずつ理解出来て……綾さんが満足するまでずっとキスをしていた。
◆
「綾、また明日」
「うん。また明日ね、夢依」
いつもの場所でもキスをして、私は綾さんを見送る。
理科室でキスをした後、綾さんはいつも通り私と話してくれる。けど、笑顔がずっと寂しそうで、私も心がずっとざわつく。
キスをして少しだけ綾さんの気持ちは分かった気がする。でも、綾さんも何も言ってくれないから、どうすれば良いのか分からない。
「綾……」
私はすでに見えなくなった綾さんの名前を呼んで、
「ずっと傍に……いてくれますよね?」
答えなんか返ってくるはずのない言葉を、地面に溢した。
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