63.そういう気分
「離せ、絵音!」
「由依、可愛いね!」
「どうしたんだよ?いきなり。おい」
「えー、由依ー。引き剥がさないでよー」
今度は由依さんに甘えだして上手く抱きついた絵音さんは、下駄の音を響かせて少し恥ずかしそうに離れようとする由依さんに体を密着させると、
「私に抱きつかれるの嫌?」
少し真面目なトーンで顔を近付けて問う。すると由依さんは動きを止めて、
「暑いんだよ。だから離れろ、絵音」
優しく言い聞かせるように答える。でも、その答えが気に食わなかったのか、絵音さんは更にぎゅっと由依さんを抱いて、肩に顔を乗せて問いただす。
「嫌なの?嫌じゃないの?」
「い、嫌って訳じゃねーよ。暑いし、苦しいんだよ」
由依さんの答えに今度こそ満足した絵音さんは、嬉しそうに笑って離れ可愛く言う。
「由依。可愛いね」
その仕草と声に由依さんは一瞬目を見開いた後、納得したように笑い、
「絵音も可愛いな。綾が照れて忘れてた。ごめんな」
申し訳無さそうに謝ると、絵音さんは嬉しそうに由依さんの手を握って言う。
「じゃ、みんなで遊びに行こ!」
「良いよ。夢依ちゃん、来て」
「あ、ありがとうございます」
雨宮さんに手を差し伸べられて、お礼を言いながらぎゅっと握って立ち上がると同時に、絵音さんと由依さんが歩き出したのでそれについて行く。
「夢依ちゃん。お腹、苦しくない?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「ふふっ。夢依ちゃん、後で一緒にリンゴ飴買って食べよっか」
「も、もちろんです!」
夏祭りで私が一番食べたい物を、雨宮さんは覚えてくれていたらしく、優しく笑って言ってくれる。
私はその事が嬉しくて大きな返事をして、少し歩くと食べ物の屋台が密集した場所とは違い、金魚すくいや射的なんかの屋台が、間隔を空けてやっている場所へと入った。
「綾と夢依ちゃんは何したい?」
「私は夢依ちゃんがしたいもの」
「えっ?えーっと……取り敢えず、射的が良いです」
「いいね!やろっか!」
私の言葉に絵音さんは頷いてくれ、射的の屋台を見つけるとすぐにそこに向かう。
「五発で百円だよ……はい、二十発ね。銃はそこにある好きなの使っていいから。景品は落ちたらね」
「ありがとうございまーす」
小さめのお菓子やぬいぐるみが沢山並べられた場所の前で、みんなで銃を構え、どれを狙おうか悩んでいると、最初に由依さんが迷う事なく五発連続で銃を撃つ。
「マジか。やるな、嬢ちゃん」
全弾当たって景品が五個落ち、射的屋のおじさんが驚く。
「こういうの、本当に由依得意だよね」
「たまたまだよ」
「由依って、前世殺し屋とか?いてっ!」
由依さんにいつものように叩かれた絵音さんを横目に、私も黒猫の小さなぬいぐるみに狙いを決めて、一発ずつ打っていく。
でもこれが中々難しくって、掠りはするけど良い所に当たらない。
すると、雨宮さんも私の狙っているぬいぐるみを狙って銃を撃ち、落ちる一歩手前まで動く。
「夢依ちゃん、いける!」
「は、はい!」
そして最後の一発で、なんとかぬいぐるみが落ちた。
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