105.隠し上手
「はぁ……はぁ……」
人混みを避けて校舎を飛び出し、旧校舎の裏へとそのまま走って向かう。
一歩また一歩と走る度、校舎の中の騒がしさが、グラウンドの人達の賑やかさが、少しずつ聞こえなくなり、
「綾!」
旧校舎の裏へ着くと、文化祭の音は静まり返り、膝を抱えて顔を埋めスカートの中が見えそうな綾さん以外、人の気配もなくなる。
「あの……綾……」
息を切らしながら私は何て言葉をかけて良いのか分からずに、また名前を呼ぶ。
どうしてこんな時でも、私は言葉に詰まってしまうんだろう。
どうすれば良いのか分からない。なんて言葉をかけたら良いのか分からない。綾さんが、綾が、震えてるのに……
「……夢依」
「はい!」
短い時間の中、人生で一番自分の事が嫌いになりかけた時、綾さんに名前を呼ばれて私は返事をする。すると長い間を開けた後、涙を堪えて苦しそうに綾さんは聞いてきた。
「私……どうすれば良いのかな?」
その言葉を声を聞いて、正解かは分からないけど迷う事なく綾さんを思いっ切り抱きしめて、私も泣きそうになりながら、
「綾、もう強がらないで下さい。苦しい時は苦しいって、嫌な時は嫌って……大丈夫じゃない時は大丈夫じゃないって言って下さい。私は綾がどんな事を言っても、死んでも綾が好きです。大好きですから……」
ずっと言いたかった言葉をやっと口から出すと、綾さんは私の胸に顔を埋めて抱きしめ返してくれ、泣きながらずっと我慢してたであろう心の底の言葉を吐き出してくれる。
「私ね……ずっと、ずっと考えてたの。ここで夢依と付き合った時、夢依は台本をただ読んだだけで私に告白なんかしてなくって……けど私、夢依に告白するためにここに来て、そんなこと言われたから半分脅しみたいに付き合って、それで良かったのかなって……そんなずるして付き合って夢依は良かったのかなって……」
胸の中にいる綾さんに、私は絵音さんの綾は中途半端な事が嫌いだからという言葉を思い出して、どうして気付いてあげれなかったんだろうかと、そう思う。でもそれ以上に、思うことがあって、
「確かに、最初はちょっと綾怖かったです。でも、でも綾……私、今幸せですよ?ふとした時に綾が隣にいると、安心しますし、嬉しいです。だから私、綾にはずっとそばにいて欲しいです」
私は今すっごく幸せで楽しくて、ボッチのままなら絶対にやれなかった事とか見れなかった事がいっぱいあって、それを思い出して私は笑う。
でも綾さんはそうじゃなくって、我慢する事をやめたからか、隠していた本心が止まることなく口から私へ溢れる。
「だけど私……夢依が絵音とか由依とかと仲良く話して、手を繋いだり頭撫でられたりしてたら勝手に嫉妬して、私だけを見て欲しいってそんなずるい事いつも思うんだよ?夢依がお母さんと話す時みたいにタメ口で話して欲しいって思うし、いつも我儘ばっかり言ってるし、夢依が私の物になったらなって思うし……私、面倒でだるい女だよ?」
私の胸の中にいる綾さんが、こんなにずるくて綺麗じゃないのに私はずっと傍にいても良いのかと言うように上目遣いで泣きながらそんな可愛い事を言って、痛いぐらいに私を抱きしめてきたので、私は頭を撫でてあげながら笑って、
「綾が、女の子はちょっと我儘な位が丁度良いって言ったんだよ?」
綾さんに言われて安心した言葉をかけると、綾さんはそうだけど、とそんな顔をする。そんな反応に私は更に笑って、ずるいのは綾さんだけじゃないと、綾さんより酷い本心を、ずるくて汚い欲を引かれるのを覚悟で口にする。
「綾。私ね、本当は綾には私以外の人間と関わらないで欲しい。そうならば、絶対に私だけを見てくれて、ずっと綾の傍にいれるから。それに綾には、私はあなたの物だよって言って欲しいし、私の言ったことなんでもやって欲しい。私、綾の全部が欲しい。綾がどっかに行っちゃうのが怖いから。捨てられるのが怖いから。もう、一人は寂しいから。永遠に私の物になって欲しい……私もそんな事、結構思ってる」
私のずるい欲に綾さんは一瞬驚いた顔をした後、どこか安心したように呟く。
「夢依も……夢依も一緒で……私だけじゃ……なかったんだ」
そんな言葉に私は安心し、このタイミングしかないと二回目の今度は本気の告白をする。
「綾。私、綾が構ってくれなかったら拗ねるし、別れようって言われたら駄々こねて、それで駄目ならたぶん死ぬ様な、いくら嫌いって言われても壊れても、死んでも綾を世界で一番愛す様な、面倒で傲慢で重い女だけど、こんな私でも良かったら付き合って下さい。もしそれでも足りないなら、私と結婚して下さい」
私の告白に綾は私の胸の中で深呼吸をした後、顔を離して可愛い顔で、
「……いいよ」
笑いながら返事をして、続きを笑って言ってくれる。
「結婚しよ、夢依」
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