不協和音【休憩タイム】
パス受け取り回数
勇士8回
隼平6回
須藤先輩 6回
俺 陽斗 5回
昊 4回
卓也 5回
晃平 2回
2周✕3点=6点
前半戦の合計得点 6点
吹山高校
カット✕3回=3点
前半戦と後半戦の間の休憩時間は5分間だ。
俺はベンチに戻るなり、昊につっかかった。
このイライラや、もやもやを誰かに八つ当たりしたかったのかもしれない。
「昊、何回か敵チームにわざとパスしたよな?お前、敵チームの間者かなんかか?それとも、俺達が奔走されてるのをみてほくそ笑んでたのか?」
思っていないことなのに、口走っていた。
本当はそうじゃないと分かっている。分かっていたけど、気付いた時には手遅れだった。
「なに言ってんだ?分かってないのは陽斗だろ?」
勇士が昊を庇う。
その行為にも俺はイラッとする。
「なっ!?」
俺が言い返そうとした時、隼平までもが庇う発言をする。
「陽斗はさぁ、片方の側面しか見えてないんじゃないかなぁ?」
『なんだとォ』
俺は目を血走らせて、勇士と隼平を睨んだ。
その時、俺は気付いた。
勇士と隼平だけではなく、その場のメンバー全員が俺の意見に同意していないことに……
やっと、俺は何か重大なことを見落としているのかという可能性に気づく。
「ゔっっ」
俺は急いで頭を巡らせる。
敵チームにパスをする理由ってなんだ?
いくら考えても分からない。
敵チームにパスしたらカットとなり、敵チームに1点が加算される。
どう楽観的に捉えても、デメリットしか思い付かない。
そんな俺に須藤先輩が助け舟を出した。
「昊が敵チームにパスした時、こっちは相手チームのディフェンスに苦しんでたろ?」
思い出してみると、あぁ、確かにそうだった。
でも、それとどういう関連があるのか?
「ほらっ、敵チームもパスを出されたけど、わざと避けたでしょ?カットできるのにしたくなかったってこと。」
隼平がさらに補足する。
それが、なんだ?
でも、そういえばそうだ。
なんでカットできるのにしなかった?
ノッポがヒョイとパスを避けた行為が脳裏に浮かぶ。
「つまりだ、敵チームはディフェンスを崩したくなかったんだ。カットしてしまったら、ボールから2メートル離れないと駄目だろ?パスは1メートルしか離れなくていいんだから、数センチしか離れてないガッチガチのディフェンスが成り立たない。また、ディフェンスが2メートル離れてくれたら、こちらも動きやすいだろ」
勇士が答えを言った。
あっ、そういうことか!!
やっと意味が分かった!!!
俺がなるほどという顔をして頷いていると、
「今更かよっっ」
と勇士が悪態をつく。
普段ならこんなことで怒ったりしない。なんせ、子どもの頃からの付き合いだ。
ただ今は虫の居所が悪かった。
「あー、どうせ俺は分かっちゃいないよ。全部何でもかんでも俺のせいなんだろっ。俺が部長に向いてないってことなんだろっ。じゃあ、勇士が部長になれば良いじゃん。お前こそ、自分の方が部長に向いてるって思ってるだろ?」
俺は手当たり次第に悪態をつく。
気付いた時にはもう遅かった。
勇士のまとう空気が低くなる。
俺の目をして真っ直ぐみて、一段と低い声で一言。
「……お前って昔からそうだよ。自分から言い出して人を巻き込むくせに、都合が悪くなったら俺達に責任をなすりつけるんだ………ふざけんなっっ!!」
勇士はタオルを床に投げつけ、体育館から出ていく。
「勇士、待てって」
隼平が慌てて追いかける。
俺は怒りで勇士の背中に向かって叫ぶ。
「勝手にしろっ」
俺も、カッとなってたんだ。
俺が部長に向いてないって感じていたのも事実だった。
俺達の間に沈黙が続く。
聞こえるのは、ギャラリーの騒音と、ミーンミーンという蝉の鳴き声だけだった。
そんな沈黙を破ったのは聡士だった。
「陽兄、兄貴の肩を持つわけじゃないけど、全く作戦というか戦略を練ってなかったよね?俺はベンチだったから、客観的に見てたんだけど、作戦なしの行き当たりばったりにしか見えなかったけど?」
「ゔゔっっ」
正論を言われ言葉に詰まる。
俺の作戦は、『背の高いメンバーにパスを回して貰い、点を稼ぐ』だった。
お世辞にも作戦とは言い難い。
それは俺にだって分かる。
故に、何も言えなかった。
「逆に相手チームは戦略を充分に練ってきたようにみえる」
聡士は淡々と事実だけを述べる。
声質は勇士ととても似ている。でも、声のトーンや話し方は全然違う。
聡士は勇士と違い、感情的にはならない。
分析をとことんして、事実だけを的確に告げる。
将棋のプロが熟考して次の一手を繰り出すように、聡士も正しく事実だけを捉え、脚色なしに伝えるタイプだ。
声質は同じなのに、話し方は全然違う二人のギャップに俺は少しだけ冷静になる。
俺が冷静になってきたのを気配で感じた昊が申し訳なさげに話に入ってきた。
「陽斗先輩、さっきはすみません。説明せずとも分かってると思ってました」
昊が背筋を伸ばして頭を下げた。
「いや、俺こそごめん」
慌てて俺も謝る。
実は内心、じんわりと今の一言が胸に刺さり、グサッときた。
『説明せずとも分かる』
そうなのかぁ……
皆、試合をしながら気づいたんだな……
その言葉は時間が経つごとに、じんわりじんわりと俺の心を侵食するのだった。
「けど、おかしくないっすか?相手チームは最初から俺達の誰をブロックするか決めて戦略を立ててましたよね?」
昊が首を傾げる。
その言葉に俺は我に返る。
「そういえばそうだ」
卓也も昊の言葉を聞いて、ウンウンと頷く。
首を動かす度に、身体の脂肪も一緒に動く。
「ホントにそうだ。おかしいな」
須藤先輩もたった今気づいたようだ。
目を細くして相手チームはをみた。
晃平も言葉はないが、驚きの表情をしている。
聡士だけが平静と同意した。
恐らく聡士と昊だけがその事に気付いていたんだ。
聡士が何か言いかけようとしたとき、ホイッスルか鳴り響いた。
休憩時間が終わったらしい。
結局、勇士と隼平は戻って来なかった。
俺は後半戦のメンバーチェンジをお願いし、晃平以外の5人で参戦することなった。
そこから先はあまり良く覚えていない。
試合には参加してはずなのに、知らないうちに終わっていた。




