屈辱のぼろ負け【先攻戦】③
パス受け取り回数
勇士7回
隼平6回
須藤先輩 5回
俺 陽斗 2回
昊 2回
卓也 1回
晃平 0回
吹山高校
カット✕1回=1点
ポーン、ポーン、コロコロコロ
先ほどネズミにカットされ、床に落ちたボールの音が耳の中でこだまのように響いていている。
違いといえば、こだまは外からだが、これは頭の中心から耳へと向かって、止まることことなく響いている。
こだまより、よっぽど質が悪い。
俺でさえそうなんだから、卓也のショックは相当のものだろう。
タイムは一時停止し、卓也にボールが戻っている。
卓也は青ざめながら、ふぅ~と息を吐くと晃平を手招きする。
カット後は、敵チームはボールから2m離れなくてはいけないというルールがある。
ネズミは卓也からギリギリ2m離れた。
味方へのパスは1m離れなくてはいけないので、卓也と晃平の距離は1mだ。
すなわち、卓也↔晃平↔ネズミとなり、↔の距離はそれぞれ1m空いていることになる。
卓也は安堵した表情になる。
きっと、俺も同じ表情だったろう。
これで、確実に晃平にパスが回る。
そうすれば、全員1回ずつパスを貰ったことになり、3点が加算され、逆転できる。
きっと、俺同様、卓也も心持ち油断していたんだ。
卓也は確実に晃平にパスが渡るように、晃平と真正面で向き合う。たった1mしか離れていないので、確実に相手がキャッチ出来るようにするためだ。
卓也は、晃平が確実に受け取れるよう鋭いパスじゃなく、少し鋭さを削ぎ落とした緩めのパスを出す。
ボールは、緩やかな半円を描いて飛んでいく。
俺はそのボールを見て、3点を確信した。
ところがボールは軌道をそれる。
!!!!!!!
俺は目を疑った。
ボールは晃平の元へは届かず、90度横にそれ、コートの外へと飛んでいった。
そう、卓也から2m離れていたはずの3番ゼッケンのネズミが、恐るべく跳躍力でボールに向って、前に手を伸ばした状態で飛び跳ねたのだ。
走り幅跳びのジャンプを想像して欲しい。
ぴょーんと飛び跳ねたネズミの右手中指の腹がどうやらボールに触れて、ボールの軌道がそれたのだろう。
折角の得点チャンスのはずが、敵チームのカットとなってしまった。
結果、吹山高校にカット分として、更に1点追加となった。
タイムはまた停止し、ボールはまたもや卓也の元へ返り咲いた。
そんなバカな!
予定調和がガラガラと音を立てて崩壊していく。
『なぜ、あんな緩いボールをなげたんだ!』
と叫びそうになった。
でも、声は掠れ、息だけがでる。
そんなこと、言える訳ないじゃないか。
もし、俺が卓也の立場だったら同じことになっていた。
【明日は我が身】という言葉はこういうことか……
俺は生まれて初めて、その言葉の意味を噛み締めた。
卓也はというと、下を向いてブルブル震えている。
けれど俺は何も言えなかった。
厳密には、フォローする言葉が思いつかなかった。
「タイムだ!」
「……タイム」
「タイムお願いします」
3人の声が被る。
タイムは各々のチームで試合中に前半と後半合わせて3回までなら取ることが可能だ。
タイム時間は3分間。
水分も取れる貴重な時間だ。
誰がタイムを言ったのかは声で分かる。
一人目は怒ってる勇士だ。
小学校からの長い付き合いだが、勇士が怒ってるのは久々にみた。
もう一人は、須藤先輩だ。
右手を上げて堂々と審判をみている。
最後は何処からの声かと、一瞬悩んだが、控えの聡士だった。聡士は何やら思い詰めた顔をしている。
俺達は足取り重く、聡士の元へ向かった。
卓也は最後までコートから動こうとしなかった。
「うるさいっっ」
突如背後から、卓也の怒鳴り声が響く。
驚いて振り返ると、卓也が真っ赤な目をして、ネズミを怒鳴りつけていた。
どうやらネズミが何か卓也の耳元で囁いたらしい。
卓也は拳を握りしめて、ブルブル震えながら、顔を真っ赤にしながら歯ぎしりをしていた。
晃平が慌ててUターンし、卓也の側にいく。
「……行こう」
「…………」
晃平は卓也の肩に右手を置いた。
卓也はやっと我に返ったのか、晃平とこちらにやってきた。
「早く来い」
相手チームの顧問に手招きで呼ばれ、ネズミはにたぁと気持ち悪い笑みを浮かべて、鼻歌交じりで自チームの元へ戻っていった。
俺達は聡士の元に集まったが、皆表情は暗い。
俺達は各々水筒を手に取る。
普段ならこのくらいでバテたりはしない。なのに、今日は口の中がカラカラになるまで乾燥していた。唾液さえもでない。
聡士が晃平と卓也を俺達の輪から離し、小声で何かを言っている。
一体何をいっているんだろう。
しばらくして聡士たちは戻ってきた。
折角のタイムだというのに、聡士が戻ってくるまで、俺達は何も喋らず、ただ無言だった。
聡士は戻ってくるなり、開口一番、
「陽兄、何か打開策は見つかった?」
と確認してくる。
俺は無言で聡士の目から視線をそらす。
「はぁ~、陽兄も兄貴も部長とキャプテンなんだから、指示出して引っ張っていってよ。とりあえず、次の先輩たちのパスは成功する秘訣を思い付いたから、僕の作戦でさせてもらえる?」
と確認してくる。
あー、さっきコソコソと話してのはそれか!
「作戦って何だよ」
勇士がムスっとしながら、弟に吠える。
聡士はそんな兄を、平静な表情のままみている。
そうだった。
聡士はこんなやつだった。
計算高くて、ほとんど表情を変えたり動揺しない。
戦略家ってやつだ。
何回か遊んだけど、俺も聡士が感情的になった姿を見たことないもんなぁ〜。
「陽兄ってすぐ表情に出るでしょ?
他の皆も顔に出さない自信あります?
作戦がバレたら3番に対策を練られるやん!
1回目なら隙をついて成功すると思うけど、2回目は自信ないから」
とぶっきらぼうに横目で俺を見つめた。
くそぅーー
俺ってそんなに分かりやすいのかよ!
「とりあえず、陽兄は何かこの流れを断ち切ってよ。部を作ろうと言い出したのは陽兄なんだし、何か1つくらいは作戦あるでしょ?」
と聡士はのたまう。
「部長じゃない俺が言うのもあれだけどさぁ、とりあえず練習試合なんだから、ほら気楽に行こうぜっ。むしろ、本番の試合までに練習試合ができてラッキーだったと思わないか?
練習試合がなけりゃ、このスポーツがどんなものか分からなかっただろ?
ほら、12人いるわけだしさ……
まともな試合形式ができるのも、これが最後かもしんねーぞ?」
須藤先輩が笑顔で白い歯をみせる。
先輩はもともと地黒な皮膚なので、白い歯がよく目立つ。
必死にフォローし、この状況を打壊しようと皆を鼓舞する。
俺は純粋に先輩が激励を飛ばしてくれたことに感謝した。
俺はというと、自分のことでいっぱいいっぱいになっていた。
そんなこんなで、特に作戦を練る暇もなく、作戦タイムは終了した。




