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パッスパ  作者: MIKU
6/13

屈辱のぼろ負け【先攻戦】③

パス受け取り回数

勇士7回

隼平6回

須藤先輩 5回

俺 陽斗 2回

昊 2回

卓也 1回

晃平 0回


吹山高校

カット✕1回=1点


ポーン、ポーン、コロコロコロ

先ほどネズミにカットされ、床に落ちたボールの音が耳の中でこだまのように響いていている。

違いといえば、こだまは外からだが、これは頭の中心から耳へと向かって、止まることことなく響いている。

こだまより、よっぽど(たち)が悪い。

俺でさえそうなんだから、卓也のショックは相当のものだろう。


タイムは一時停止し、卓也にボールが戻っている。

卓也は青ざめながら、ふぅ~と息を吐くと晃平を手招きする。

カット後は、敵チームはボールから2m離れなくてはいけないというルールがある。

ネズミは卓也からギリギリ2m離れた。

味方へのパスは1m離れなくてはいけないので、卓也と晃平の距離は1mだ。

すなわち、卓也↔晃平↔ネズミとなり、↔の距離はそれぞれ1m空いていることになる。

卓也は安堵した表情になる。


きっと、俺も同じ表情だったろう。

これで、確実に晃平にパスが回る。

そうすれば、全員1回ずつパスを貰ったことになり、3点が加算され、逆転できる。

きっと、俺同様、卓也も心持ち油断していたんだ。


卓也は確実に晃平にパスが渡るように、晃平と真正面で向き合う。たった1mしか離れていないので、確実に相手がキャッチ出来るようにするためだ。

卓也は、晃平が確実に受け取れるよう鋭いパスじゃなく、少し鋭さを削ぎ落とした緩めのパスを出す。

ボールは、緩やかな半円を描いて飛んでいく。


俺はそのボールを見て、3点を確信した。


ところがボールは軌道をそれる。

!!!!!!!


俺は目を疑った。

ボールは晃平の元へは届かず、90度横にそれ、コートの外へと飛んでいった。

そう、卓也から2m離れていたはずの3番ゼッケンのネズミが、恐るべく跳躍力でボールに向って、前に手を伸ばした状態で飛び跳ねたのだ。

走り幅跳びのジャンプを想像して欲しい。


ぴょーんと飛び跳ねたネズミの右手中指の腹がどうやらボールに触れて、ボールの軌道がそれたのだろう。


折角の得点チャンスのはずが、敵チームのカットとなってしまった。

結果、吹山高校にカット分として、更に1点追加となった。

タイムはまた停止し、ボールはまたもや卓也の元へ返り咲いた。


そんなバカな!

予定調和がガラガラと音を立てて崩壊していく。

『なぜ、あんな緩いボールをなげたんだ!』

と叫びそうになった。

でも、声は掠れ、息だけがでる。

そんなこと、言える訳ないじゃないか。

もし、俺が卓也の立場だったら同じことになっていた。

【明日は我が身】という言葉はこういうことか……

俺は生まれて初めて、その言葉の意味を噛み締めた。


卓也はというと、下を向いてブルブル震えている。

けれど俺は何も言えなかった。

厳密には、フォローする言葉が思いつかなかった。


「タイムだ!」

「……タイム」

「タイムお願いします」

3人の声が被る。


タイムは各々のチームで試合中に前半と後半合わせて3回までなら取ることが可能だ。

タイム時間は3分間。

水分も取れる貴重な時間だ。


誰がタイムを言ったのかは声で分かる。

一人目はいかってる勇士だ。

小学校からの長い付き合いだが、勇士がいかってるのは久々にみた。

もう一人は、須藤先輩だ。

右手を上げて堂々と審判をみている。

最後は何処からの声かと、一瞬悩んだが、控えの聡士だった。聡士は何やら思い詰めた顔をしている。


俺達は足取り重く、聡士の元へ向かった。

卓也は最後までコートから動こうとしなかった。


「うるさいっっ」


突如背後から、卓也の怒鳴り声が響く。

驚いて振り返ると、卓也が真っ赤な目をして、ネズミを怒鳴りつけていた。

どうやらネズミが何か卓也の耳元で囁いたらしい。

卓也は拳を握りしめて、ブルブル震えながら、顔を真っ赤にしながら歯ぎしりをしていた。


晃平が慌ててUターンし、卓也の側にいく。

「……行こう」

「…………」

晃平は卓也の肩に右手を置いた。

卓也はやっと我に返ったのか、晃平とこちらにやってきた。


「早く来い」

相手チームの顧問に手招きで呼ばれ、ネズミはにたぁと気持ち悪い笑みを浮かべて、鼻歌交じりで自チームの元へ戻っていった。


俺達は聡士の元に集まったが、皆表情は暗い。

俺達は各々水筒を手に取る。

普段ならこのくらいでバテたりはしない。なのに、今日は口の中がカラカラになるまで乾燥していた。唾液さえもでない。

聡士が晃平と卓也を俺達の輪から離し、小声で何かを言っている。


一体何をいっているんだろう。

しばらくして聡士たちは戻ってきた。


折角のタイムだというのに、聡士が戻ってくるまで、俺達は何も喋らず、ただ無言だった。


聡士は戻ってくるなり、開口一番、

「陽兄、何か打開策は見つかった?」

と確認してくる。

俺は無言で聡士の目から視線をそらす。

「はぁ~、陽兄も兄貴も部長とキャプテンなんだから、指示出して引っ張っていってよ。とりあえず、次の先輩たちのパスは成功する秘訣を思い付いたから、僕の作戦でさせてもらえる?」

と確認してくる。


あー、さっきコソコソと話してのはそれか!


「作戦って何だよ」

勇士がムスっとしながら、弟に吠える。

聡士はそんな兄を、平静な表情のままみている。


そうだった。

聡士はこんなやつだった。

計算高くて、ほとんど表情を変えたり動揺しない。

戦略家ってやつだ。

何回か遊んだけど、俺も聡士が感情的になった姿を見たことないもんなぁ〜。


「陽兄ってすぐ表情に出るでしょ?

他の皆も顔に出さない自信あります?

作戦がバレたら3番に対策を練られるやん!

1回目なら隙をついて成功すると思うけど、2回目は自信ないから」

とぶっきらぼうに横目で俺を見つめた。


くそぅーー

俺ってそんなに分かりやすいのかよ!


「とりあえず、陽兄は何かこの流れを断ち切ってよ。部を作ろうと言い出したのは陽兄なんだし、何か1つくらいは作戦あるでしょ?」

と聡士はのたまう。


「部長じゃない俺が言うのもあれだけどさぁ、とりあえず練習試合なんだから、ほら気楽に行こうぜっ。むしろ、本番の試合までに練習試合ができてラッキーだったと思わないか?

練習試合がなけりゃ、このスポーツがどんなものか分からなかっただろ?

ほら、12人いるわけだしさ……

まともな試合形式ができるのも、これが最後かもしんねーぞ?」

須藤先輩が笑顔で白い歯をみせる。

先輩はもともと地黒な皮膚なので、白い歯がよく目立つ。

必死にフォローし、この状況を打壊しようと皆を鼓舞する。


俺は純粋に先輩が激励を飛ばしてくれたことに感謝した。

俺はというと、自分のことでいっぱいいっぱいになっていた。


そんなこんなで、特に作戦を練る暇もなく、作戦タイムは終了した。


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