屈辱のぼろ負け【先攻戦】①
7月29日
VS 私立吹山高校
曇時々雨
「よーし、本番のつもりで勝っちまおうぜ。ノッポくんにだけ気を付けてたら勝てるから」
俺は7人を見渡して激を飛ばす。
「ノッポくんって誰だよ」
笑いながら、隼平がすかさず突っ込んでくる。
「どうせ陽斗のことだから、あの背の高い1番のことだろ?」
キャプテンの勇士が顎を向けた。
須藤先輩は3年で本来ならばとっくに引退なので、俺達で話し合って勇士がキャプテンになった。
『まあ、俺が部長だからな。部長権限でキャプテンの座は勇士に譲ってやるんだ』
ととりあえず、言ってみたんだけど、勇士にはバレバレだったみたいで、
『いや、お前がやりたくないだけだろ』
と逆ツッコミされてしまった。
『いや、陽斗はメンバー内では、お前が1番上手いって分かってんじゃない?』
と隼平にまでフォローと突っ込みをされる始末である。
俺は、そんなノリが1番好きだ。
ノッポくんというアダ名をつけても、瞬時に理解してくれる。そんな親友がいてくれて本当に心強いと思った。
先攻、後攻かは原始的なジャンケンで決める。ジャンケンするのは、部長の俺だ。相手はノッポくんこと、1番のゼッケンの選手だ。
「最初はグー、ジャンケンホイ」
俺はパー、相手の選手はグーだ。
結果は見て分かるように俺の勝ちだ。
俺は前もって皆で考えた作戦どおり、先攻を選ぶ。
最初に点数をがっぽがっぽ稼いで、相手のやる気を削ぎ落とす作戦だ。
先攻の序盤メンバーは、聡士意外の7人だ。聡士はスタミナに不安がある為、後攻戦のディフェンスに回ってもらう。背が高い分、圧迫的なディフェンスで相手の動きを封じてもらいたい。
後半のメンバーは、昊、卓也、晃平を除く5人をベストメンバーに選んだ。背が高い4人をベースに俺を加えたメンバーだ。俺の中ではこれぞ、ディフェンスの黄金比率だと思っている。
ついに初めての練習試合が始まろうとしていた。
練習試合の場所は、飛賀高校の体育館。この日はバスケットボール部の練習が休みだったので、新体育館を使わせてもらっている。
俺達にとっては、いつも授業で使っている体育館なだけあって、地の利はある。
幾分かの興奮はあるが、疎外感や緊張はない。
ピーー
保井先生のホイッスルと同時に試合がスタートした。
審判は相手校の顧問と、我が校のバスケットボール部の顧問が快く快諾してくれた。
ボールはコートの真ん中、勇士がもった状態でスタートする。最初は、ブロッカーはボールから2m離れなくてはならない。
勇士のブロッカーはメガネをかけたの中くらいの背の坊主の2年生で5番ゼッケンだ。
勇士は、急遽体育の授業用のゼッケンを借りれたので、1番をつけている。1番の選手に5番をつけるとは、勇士を舐めてもらっては困る。
俺は、誰にも見られないようにほくそ笑んだ。
俺には1番のノッポくんがブロッカーについた。
相手校のブロッカーは5人。
こちらの選手は7人だ。従って、必然的に自チームの2人はノーマークとなる。そこにパスを回せばいい。
バスケみたく、コートと必死に走り回らなくても、軽くフットワークするノリで動けば、2人はフリーなんだから、ボールは回るだろう。
勇士は須藤先輩に先輩にパスをした。
驚くことに長身の須藤先輩には、だれもブロッカーがついていない。信じられない。
普通は戦力になりそうなやつにマークがいくんじゃないのか?
逆に、俺や、昊、晃平、卓也には、一人に一人ずつ相手のチームの選手が張り付いている。
須藤先輩軽々とパスと受け取り、止まることなく即、隼平へとボールを投げる。
あっ、ちょっと軌道がそれた。
しかし俊足の隼平は、なんてことないようにボールをキャッチする。まるで、陸上のスタートダッシュのような足使いだ。
隼平はボールを持ったまま、一瞬、逡巡したようにみえた。秒にして1秒くらいか、少し考えて、勇士に戻す。勇士は、直に隼平に返す。隼平から、須藤先輩へ。
しばらくは完全にノーマークの3人でパスを稼ぐつもりのようだ。勇士と隼平の目がそう言っている。
しばらく、3人でパスをしばらく回した後、ふいに俺と隼平の目があったように思った。
と同時にヒョイと俺にパスされた。本当に何気なしに、突然だ。
隼平は体は動かさず、斜め後ろの俺へと、バックパスを出したのだ。
相手の1番は、不意をつかれたようだった。すぐに、パスカットに動けない。一瞬の目配せは、幼馴染の俺達にしか通じない。
俺は即座に右に走り、パスを受け取る。
とうとう、俺等に流れがきた!
ここから、攻めに転じてやる。
俺から、まだ一度もパスを受け取ってないメンバーにパスをすれば完璧だ。
俺は左右に首を振る。誰にならパスを渡せるか判断する為だ。
1秒、2秒、3秒………
ちょ、ちょっと待てーい。
俺は焦った。なぜなら、ノッポくんこと1番のガードが巧すぎる上、まだパスを貰っていない、昊、晃平、卓也にはガッチリとガードがされて動けない状態だ。
バスケの経験者の昊は、どうにかして相手のガードから抜けようと試みているようだが、相手もバスケの経験者なのか、直に追いつかれている。
ただただ、昊の体力と、敵の4番の体力だけが消耗していく。
くそ、経験者の昊の体力を減らしてパスをさせない気だな。
俺はやむを得ず、勇士にパスを戻す。
しまった!
パスカットされるかもしれない。ノッポのディフェンスがひどく上手くボールをコントロール出来なかった。すぐ、手を伸ばせは、カットできる位置にボールを投げてしまった。
「あっっ」
俺は小さな声で、叫んてしまう。
ところが、驚くことに、ノッポは長い脚も、腕も動かさない。
簡単に勇士にパスが戻る。
はぁ?
なんでた?
そうか、勇士、隼平、須藤先輩にパスを回ってしまうのは仕方ないと、その3人へのパスカットは諦めているのか。
その分、動かなくてよくなり、体力は消耗しない。
動くのは、昊、晃平、卓也にパスをしようとするときだけ、全力で体力を使えばいい。
なるほど、そういう戦略で攻めてきたのか。
俺は悔し紛れに拳を握る。
相手は、出来たばかりの練習もろくにしてないチームだったんじゃないのか。
何故に、こんな戦略を立てられる。
いや、戦略な訳があるまい。
きっと偶然だ。それかノッポが意外に賢く、勝手に思い付きてやっているかもしれない。
勇士はというと俺に目で怒りを伝えている。
わりーよ。
何を言いたいのか言葉にしなくてもわかる。
『なんで、俺に戻すんだ。あとの3人にさっさと回せ』
目はそう訴えている。分かってるんだ……俺だって分かってるんだ。
先輩、勇士、隼平の3人はもう既に各々が5回以上パスを受け取っていた。勇士に至っては7回も受け取っている。
隼平はと言うと、残念そうな目で俺を見ていた。
『あーあ、せっかく流れを作ったのに。こっちじゃなく、あっちにパスしてくれなきゃ』と言っているようだ。
2人共、怒りの目と残念な目で目は違えど、同じことを訴えている。
俺は、余裕だと思っていた試合で狼狽えはじめた。




