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パッスパ  作者: MIKU
10/13

後攻戦を終えて

結果は惨敗だ。


飛賀高校

前半6点

後半カット5回

トータル11点


吹山高校

前半カット3回

後半15周✕3点=45点

トータル48点


試合終了のお辞儀をし、吹山高校のメンバーは帰路に着いた。

「練習試合ありがとう」

最後にノッポから握手を求められた時には驚いた。

ノッポは勝ったことを誇示する様子もなく、ただ純粋に練習試合に応じてくれたことに感謝をしているようにみえた。

ノッポはこの練習試合の先を明らかに見据えていた。

それはきっと全国大会だろう。

全国大会に向けてチームを強くしてくれたことに対する感謝なのだ。


俺は何故か分からないけど、急に恥ずかしくなった。

恥ずかしさを悟られまいと、そっけなく握手を交わす。

少し握手をしたところで、素早く手を離す。

そして後ろを振り向き、仲間の元へ駆けていった。


天気予報の通り、いつの間にか外には雨が降り始めていた。


チームの元へ戻ると沈痛な空気が漂っていた。

各々に難しい顔をしている。

晃平はずっと俯いていて、表情が見えなかった。


「全員揃ってないし、反省会は明日でいいかな?」

須藤先輩が代表して言ってくれた。

須藤先輩が仕切ってくれたことは正直有り難かったけど、今は反省会をする元気もなかった。


昊に先程言われた事が引っかかる。

『分かってると思ってた』

その言葉がじんわりと、心を蝕んでいた。


試合の疲れと心の痛み、それに加えて親友と喧嘩してしまったことで、気力を失ってしまった。

もう、パッスパのことなんかどうでもいい。

簡単に優勝できると安易に考えていた俺が馬鹿だったんだ。

俺は完全に自信を喪失していた。

だからこそ、反省会をする気にもならなかった。


「いや、反省会は今度にしよう。疲れただろうから明日の練習も中止だ。保井先生には俺から言っておく。次の練習日はまた連絡するから」

業務連絡のように表情一つ変えずに、言うことだけ言って俺は逃げるように体育館から出ていった。

背中に刺さる皆の視線が痛かった。


「くそぅ……」

俺は何度目か分からない独り言を呟く。

あれから何時間経っただろうか。

俺はまだ学校に残っていた。傘を忘れてきたのを自分への言い訳にして、理科室や美術室、家庭科室などがある棟の屋上手前の階段に座っている。

本当は屋上に行きたかったのだが、生憎屋上への鍵は持っていない。

屋上へ繋がる扉の目の前の階段に座っているので、場所は三階と屋上の間になる。

更に、こっちの校舎は専門教室の棟なので、夏休みにはほとんど人気ひとけはない。


ふと、明日の部活動のことが脳裏に浮かぶ。

『そういえば、明日の部活動は中止にしたんだっけ……』

なんとなくそんなことを考えながら……

「あっ」

俺は重い腰を上げた。

『保井先生に伝えてなかったか』

保井先生は指導はしないが、れっきとした顧問なのだ。

顧問に明日の部活動はしないと伝えるのを忘れていた。

部活動がない日でも美術室で絵を書いている。明日の部活動はしないとしても学校には来るだろうが、前もって伝えるのが筋ってもんだろう。

俺は美術室に向かって歩き出す。


美術室に入ると案の定、保井先生は絵を書いていた。ぷーんと油の匂いが鼻をさする。

いつも通りの教室の匂いだった。

本当は明日の部活動の中止を伝えてすぐに美術室から出るつもりだった。

けれど、保井先生がそうさせてはくれなかった。

先生は筆を置くと、俺に空いてる椅子に座るように言う。

俺は手近な椅子を引いて腰を下ろした。

先生は俺よりも背の高い椅子に座っているので、先生と目線が同じになる。眼鏡の奥の先生の目と、目が合う。

先生もまた真っ直ぐに俺を見ていた。しばらく、無言で見つめあった。

話を先に切り出したのは先生の方だ。


「どうして吹山高校が練習試合の対策を練れたと思う?」

まるで授業をしているような話し方で謎掛けをする。


「それは……」

俺は答えに詰まる。

実際、試合中にも同じ疑問にぶち当たったからだ。

どうして試合前から、誰が誰のマークをするか作戦を決めれたのだろう。

俺が首を傾げていると、先生が机の引き出しから紙切れを取り出しながら、はっきりと俺に告げた。


「私が部員の情報を伝えたからだよ」

「……はあ?」


一瞬何を言われたのか分からなかった。辛うじて出たのは『はあ?』という一言だけだ。

俺の言葉は意に介さず、先生は話を続ける。


「練習試合の話が来た時、私が紙切れを持っていたよね。それがこの紙。読んでみたいと思わなかった?」

そっと俺の眼の前の机に、紙切れを差し出す。それを横目でみて、目が飛び出しそうになる。

その紙には相手チームの選手名に始まり、学年、身長の高さ、ゼッケン番号、中学や高校での所属していた、あるいは現在所属している部活などが事細かに記載されていた。吹山高校のメンバーは皆、他の部活との兼部だったらしい。


「なんでこの紙……」

『なんでこの紙見せてくれなかったんだ?』と聞こうとして途中で遮られる。


「前もって見たかった?」

先生の話し方は穏やかだが、表情は真面目で俺から視線を全くずらさない。

だからか……俺は何も言えなくなってしまう。


「もちろん、相手チームの事を聞きにくると思っていた。仮にも練習試合をするんだから。先生は運動部の経験はないよ。でも、何も知らない相手と戦うには情報がいるよね?だから、聞きに来たら見せようと思っていたよ」


俺はもう、言い訳すら思い付かない。

そうだよ、なんで聞きに来なかったんだろう。

練習試合の仲介に入ってくれたのは、保井先生なんだから、先生は相手チームのことを知っている可能性が一番あったのに……


「逆に、吹山高校は自分たちの経歴を事細かに送ってくれてね。少しでもいいから、こちらの選手の情報を教えてほしいと……」


「それは……卑怯だよ……」

俺はポツンと呟いた。


先生は話し続ける。

「私はむしろ、潔いと思ったよ。情報を貰えるか分からないのに、先に自分たちのことを教えるなんて……。しかも、自分たちの渡した情報と同等じゃなくても良いときた。リーダーが誰かと、バスケの経験者かどうかだけでもいいからって……。それに、君たちは本番のつもりで練習試合に挑んだ?」


先生の目が光ったように感じた。実際、先生は少し目を細めていた。

俺は少し圧倒された。先生は形だけの顧問で、部活動には我関さずだったじゃないか。


いや、俺が勝手にそう思っていた?


僅かな動揺を隠しながら慌てて言う。

「当たり前だろっ」


ひゅぅ~

真夏にも関わらず、冷たい冷気が走った。

先生の表情が強ばったようにみえる。

ついさっき、勇士との間に走った冷気と同じだった。

まるでデジャヴだった。

先生の視線が痛くて、俺は下を向いて視線を反らす。俺は自分の膝を見ているのに、ビシバシと先生の視線を感じる。

きっと、先生は視線をずらしてはいない。

今も尚、俺を見ているはずだ。


「絵だけ書いてて、気付いてないと思ってた?」

先生の言葉は俺の胸にじかに刺さる。

心当たりはあるが認めることができない。

無意識に手が震えた。

その後に言われた事は全て事実だった。

手が震え始めた頃から薄々気づいていた。

先生の言わんとしていることに。

事実過ぎて、ぐうの音も出ない。

それだけの正論だった。


人間性というのはこういう時に出るのではないだろうか。

自分の過ちを正論で正されたとき。

素直に受け止めて、次に活かすことができるか、受け止められずやさぐれてしまうか。


『部活はしばらくしません』というだけ言って、帰ってきた俺はきっと後者なのかもしれない。


俺はどっちの人間なんだろう?


俺には分からない。













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