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愛情。

「お母様……」


 微笑んでわたくしを見つめていてくれるお母様。

 その笑みに、わたくしのことを本当に慈しんでくれていることがよくわかる。

 その時、ふっとお母様の笑みに影が差して。


「アナスターシア。ごめんなさいね。お母さま、あなたの幸せを考えているつもりであなたの気持ちをしっかり考えてあげることができていなかったわ。辛い想いをさせたわね。本当にごめんなさい」


 そう言って。

 お母様、ふんわりとわたくしの背に両手を回して。

 ぎゅっとハグしてくれた。


 石鹸の香りがふんわりと広がって。

 うん、これがお母様の匂い。

 そう懐かしくなったわたくし。


「お母様。わたくし、ナリス様のことが好きです」


 そう初めてお母様の前で言葉にして。


 そう。ナリス様のことが好き。

 レムレス様には悪いけど、今となっては婚約を解消してくれてよかったとさえ思えて。


「だったら、もう大丈夫ですね。朝食のあとレムレス様とちゃんとお話をしましょう。ああ、二人っきりと言うのはダメですよ。それはお父様が反対なさっていましたから」


 ふふ。そっか。

 お父様、そこにはちゃんと反対をしてくださったのね。

 なんだか少し嬉しくて、そしてくすぐったくて。

 わたくしはこうしてちゃんとお父様にもお母様にも愛されている。

 そう思うことが、とても幸せに感じられた。


 うん。もう、迷わない。

 レムレス様にもちゃんと向き合って、わたくしの想いを伝えよう。

 そう、思えたから。


 ♢ ♢ ♢


 食堂は、今朝は王子も二人一緒のテーブルで。

 お婆様、お父様、お母様、そしてわたくし。

 総勢6人が一緒に食卓についた。

 ふわふわのお野菜のサラダに目玉焼きにソーセージ。

 お魚の塩焼きに、そしてコンソメスープ。

 栄養は満点だけれど決して豪華なお食事ではなくって、スタンフォード家では普通だけれど王子たちにはどうなのかなと少し心配でしたが、お二人とも笑顔で召し上がってくださいました。


「うん、これ、美味しいね」

 と、マギウス様。


「ああ、このソーセージ、うまいな」

 と、レムレス様。


 こうしているとどこにでもいる普通の少年のようにも見える。


 そういえばわたくし、レムレス様とこうしてお食事をご一緒するのは初めてかしら?

 あれだけ長い期間婚約者としての立場でいたのに、レムレス殿下が何をお好きなのかさえ、知らなかった自分に気がついて。


 結局わたくしはレムレス様にもナリス様にも、お二人ともに不義理をしてしまっていたのだなぁと、少し反省して。


 それでも。


 改めてこうしてレムレス様を見ると、決して自分は彼のことを嫌っていたわけではないのだな、と。

 家族にならなれるかも、と、そう思っていた気持ちは確かにあったのだ、と。

 そんなふうには感じていました。

 それは恋では確かに無かったけれど。

 好意を持っていなかったわけではないのだと。


「ねえ、アナスターシア。このあと少し時間をもらえないかな」


 お食事が終わったところで、レムレス様が、そうやんわりとおっしゃいました。


「ええ」


 わたくしもそう、お答えして。

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