自身の希望を叶える為に。
入れ替わりが起きているわけではない。
あれが生物学的にレムレスであるかどうかというレベルでいえば、間違いなくレムレスなのだろう。
耳の後ろにある黒子とか、指の爪の形とか、そういったものはきっと近しい者でなければ気がつかないレベルで間違いなくレムレスであるのだから。
影による身代わりを何人も揃えることが通例である王族の側近には、そういった身体的な特徴を見抜くのに長けたものも大勢いる。
青年期までをウイリアムス王の影として過ごしていた王弟のジェラルドに至っては、元々一卵性の双子でありそのジェラルドの普段の姿の方が変装した姿であるので、それを見抜くのは容易ではなかったと言われている。
けれど。
レムレスについては、その魔力紋からも本人と断定されているのだ。
王宮最深部にあるこの祭壇には魔力紋ゲートが設置されているため、王族登録者でない限り足を踏み入れることもできないはずで。
側近や侍従さえもその祭壇の間の外で待機させるこの神事において、偽物や身代わりが出席できるわけもない。
そんなレムレスの異変。
はからずも、魂の色が違うとアグリッパに言わしめたそれは、彼が何者かによって操られているのか、または、何者かに取り憑かれているのか、そういった懸念がもたれる事案であった。
なぜアグリッパがそれを皆の前で言わずナリスにだけ告げたのか。
おそらくはそれを公にすることによりレムレスの王太子の座に影響を及ぼす事を懸念したのだろう。
父ウイリアムスもナリスと同じようにアグリッパからそう聞いたと言うことは、後で聞かされた。
ウイリアムスからは、極力水面化で詳細を調べるよう指示を受けたナリス。
それも皆、事を公にしたくないウイリアムスの意向なのだと思うと腹立たしく感じる。
それでも表面上はそのウイリアムスの指示に粛々と従うふりをしながらも、レムレスが決定的な過ちを起こす事を期待して。
彼に近づくカナリヤ男爵令嬢のことについては、そのロッテンマイヤー男爵家の内情までもを調べ上げた上で泳がせた。
彼女が男爵が愛人に産ませた子であったことも。
夫人と死別後孤児院にいたカナリヤを引き取ったことも。
そして、カナリヤには産まれる前の別世界の記憶があるのだと、そう男爵が吹聴していることも。
そして、その別世界の知識を利用して財を成そうとしていた事も。
実際に、ここ数年は彼女の知識よって生み出された商品などによって、かなり羽振が良くなっていたことも。
調べれば調べるほどそんな不可思議な事柄がわかり。
また、彼女カナリヤにはどこか、魅了の魔法でも持っているかのような人間関係ができているともわかってきた。
男爵に引き取られ学園に転入後、周囲の男性を次々と籠絡しているという情報もあり、そんな彼女がレムレスに接近している事実を勘案すれば、彼レムレスの異常はカナリヤによって引き起こされたのだと容易に想像がついた。
その時点でウイリアムスに包み隠さず報告して彼らを引き離す算段が取れなかったかと言えば嘘になる。
あえて、ナリスはその状態を見過ごした。
全てはアナスターシア為に。
いや、違う。
それは結局、ナリス自身の為。
ナリス自身の希望を叶える為に。




