鉱山の入り口。
領都アルルからほど遠くない距離にあるルルブ鉱山は、ちょうど聖都からきた時に通った紅い街道から少し外れた側道沿いにあった。
草原の中に小高い丘があるなぁって思ったそんな小さな山で。
道の入り口は確かに立ち入り禁止の札が立ててあって周囲もぐるっと柵で囲まれてはいるものの。
(ああこれは子供でも入れてしまうかなぁ)
という感想。
まあそれでも、どんなに厳重に封鎖したとしても所詮は自然の山というか丘だ。
正規の道以外の場所には樹々が密集しているものの、悪意を持って入ろうと思えば踏み込めてしまうだろう。だからこそのこの程度の封鎖なのかもしれなかったけれど。
「これでは、他にもここに入ってしまう方もみえるのですか?」
入り口の封鎖を解き中に足を踏み入れたタイミングで周囲にそう聞いてみる。
「元からの住人は法でダメとなっていればわざわざそれを犯す真似はしないさ。それにこの広さだ。元々野獣がたくさん住み着いているわけでもなし、普通の冒険者にとってもメリットはないからね。ロンジェット鋼にしてもちゃんと採掘する為にはそれ相応の装備が必要なのは重々承知してるしな。一応警備として巡回しているものもいる。そういう警備員に知られたら罪に問われることにもなる。そんなデメリットの方が大きいんだ」と、ジャフさん。
ですよねー。納得です。
それでも、他の山に行くよりも魅力的に見えたのかなぁ。
近場だし、他の冒険者は来ないし、なら、確かに薬草採取くらいならメリットに見えるのかもで。
ロンジェット鋼がもしかしたら落ちているかもしれないくらいな勢いで踏み込んじゃったのかもしれないな、とも思うけど。
ロンジェット鋼、というのは、言うなれば魔石のようなもの。
マナの塊。魔獣や大型の魔物が体内に宿すそれと基本的には同じ。
大地の龍脈の先端に溜まる真那が、長い年月の間に魔鉱石となる。
そんな自然由来の魔石の中でも、純度の高い魔鉱石の種類の一つ。
それがロンジェット鋼という鉱石。
精製をしなくても金色に輝くそれは、拳大のものであっても庶民が一年は普通に暮らせるだけの金額で取引されている。
もちろんそんなにホイホイと採れるものではなくて、こうした鉱山にしてみても一度枯渇したらその後百年は待たないと次に採掘ができるまでの鉱石が出来上がらないと言われている。
採掘には特殊な装備が必要で、というかむやみやたらに掘ってもしその鉱石を傷つけでもしたら、一瞬で大気に溶け出して消えてしまう。
それくらい細心の注意が必要なものだった。
鉱石鉱石といっても本当の石ではないから。
真那の結晶だから。
自然界ではかなり不安定な物質でもあるの。
そうした知識がちゃんとあれば、無理してこんな場所に盗掘に来たりしないんだとは思うのだけれど。
ああ、組織で悪いことしている人は別ね。
元々そういう人を防ぐための警邏なんだろうけど。
そんなことをたらたらと考えていたら、目の前に鉱山の入り口、洞窟の入り口扉が見えてきました。
「やはりここから侵入したようですね」
入り口扉はいくつもの板を打ち付けて閉じてあったのだけれど、それが破られて穴が開いていました。
「あ、でも、これ、人の手で開けたようにも見えないです」
うん。子供の、というかナクルくんはまだ十五になったばっかりだとか。
あ、わたくしと同い年かしら?
どちらにしてもまだ少年といった年齢のようですけど。
そんな子供の力で開けたようにも見えない穴で。
「ええ、開けたのは野獣のようです。爪の跡がそこここに見えますし。で、ここ」
にいさまがその穴の部分を指差して。
「どうやらここに服を引っ掛けたようです」
ギザギザになった木の端に、服の切れ端のような布きれがこびりついていました。ちょこっと血の跡も。もしかしてここを潜った時に怪我をしたのでしょうか?
「俺らが通るにはちょっとばかし狭いから、扉、壊してしまいますよ? いいですか旦那?」
「ああ、ジャフさん、頼みます。お嬢様にこんな穴潜らせるわけにはいきません。役所の方には私が弁明しますから」
「はは。領主さまの執事さんが言うなら安心だ。じゃぁ思いっきり壊してしまいますぜ!」
そういうと、手にした斧をその扉に叩きつけるジャフさんとお仲間たち。
扉はあっという間に排除され、大きな入り口の穴がポッカリとわたくしたちの目の前に開いたのでした。




