聖女。
「にいちゃんは、ルルブ鉱山に行くって言って出てったんだ。あそこは廃坑で、危険だからって入山禁止になってるから俺たちみたいな新参者には逆に狙い目なんだって、そう言って」
「アルルカンドでは全ての鉱山は役所で管理していますからね。私有地でもありませんし、誰もが入れる山では無いのです。あなたのお兄さんがしたことは、いけないことだという事はわかりますか?」
「でも、だって。おいらたちみたい新参者が暮らしていこうと思ったらそういう危険な場所に行くしか無いんだってにいちゃん言ってたもの」
「そうねえ。ナクルくんはまだEランクでしたし、普通の森じゃ薬草採取も競争率が高くなってますからね」
「一攫千金求めて他領から移住してくる者が増えていますから。そういった方々が仕事にあぶれ冒険者登録をされるのでしょう。大奥様も苦慮されておりました」
「魔獣の少ないアルルカンドでは、元々冒険者だけで食べていけるのは上位の方だけですから。下位のランクの方はたいてい実家通いの初心者か、副業程度に考えてらっしゃる方も多いですし。まあ他国の冒険者はその分命の危険も多いわけですが」
「移住者に十分な仕事が無い現状が問題なのでしょうね。かと言って移住の自由は国に認められています。犯罪者でも無い限り締め出すわけにはいかないのです」
「魔力災害の影響が残っているのでしょうか、他領の経済はまだ回復の途中だといいます。ですからよけいにアルルカンドが良く見えるのでしょうね」
ギルドに入るなりルミーナさんに捕まって、応接室に通されたわたくしたち。
ソファーに腰掛けさっきの男の子、ミラくんの話を聞いてたら、にいさまとルミーナさまがそんな移住者の話をしはじめた。
ナクルくんとミラくん兄弟も移住者で、お母さんと三人で他領からやってきたとのこと。
でも、お母さんが病気になって、今はお兄さんのナクルくんが冒険者として働いて家計を支えているらしい。
お母さんは公営の医院に入院中で、今は兄弟二人で暮らしているとか。
なんとかそこまで聞き出して。
「そんなに危険なのですか? そのルルブ鉱山は」
「ええ、お嬢様。元々魔力鋼であるロンジェット鋼が採れる鉱山だったのですが、ここ数年はもうそれも枯渇して。廃坑とした後はメンテナンスもしていませんから、落盤や思わぬガス溜まりなどがあっても危険ですからね」
「だから入山禁止に?」
「ええ。それに、枯渇したとされるロンジェット鋼は高価ですから。もしかしたらまだ採れるのではと盗掘に走る者も出るやもしれません。そういった者がろくに装備もせず奥まで潜ると命の危険もあり得ますし」
「ああ、にいちゃん……」
そう、ね。
——一攫千金狙いで奥まで入った可能性があるね、これは。
ええ。ファフナ。
——薬草だけだったら稼げる金額も知れてるし。この子の為に美味しいものを買えるだけのお金、欲しかったのかもね。
ええ、ええ。
——だとすると、落盤にあったかガスにやられたか。どっちにしても無事じゃなさそうだ。
はう、そうですよね……。
——これは捜索隊やら助けを募ってる暇は無いかもね。うん。あたしたちで助けに行こう!
そう、ですね。
——ん? テンション低いなぁ。もしかして、自分で動くとみんなに迷惑かけるかもとか思ってる?
そう、ね。わたくし、おにいさまに無理言って付き合ってもらってるのに、わがまま言っちゃダメかもとか、そう、思ってしまって……。
——ばかね。アーシャ、貴女聖女でしょう? 聖女が困っている子供を見捨てるの? 助けられるかもしれない命から目を背けるの?
ああ。ごめんファフナ。ありがとう。
わたくしは第百八十代聖女。公職としての聖女の職は解任されていましたけど、わたくしが聖女であることは変わらないのでしたよね。
忘れる所でした。
思い出させてくれてありがとうファフナ!




