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ナリス・ド・アルメルセデス。

 王宮にある執務室で机に向かう青みがかった銀色の髪の青年、ナリス・ド・アルメルセデス。

 国の第二王子でありまだ十九歳という若さで国の影、魔道士協会を統率する彼は、その海のように碧い瞳をそっと閉じた。


「お疲れですか? ナリス様」


 影のように脇に控える従者、ヴァレリウスがそう声をかける。


「いや、大丈夫だ」


 そうはいうものの、目頭を右手で押さえるナリス。


「少しは睡眠をお取りにならないと」


「先ほど数分寝たよ。だからもう大丈夫だから」


「そんな。どうか横になって寝てください。もう何日もそうして机に座ったままで。お体を壊してしまいます」


「わたしはこうして座ったままでも寝られるから大丈夫なんだよ。心配性だなぁヴァレリウスは」


 薄く笑みを見せながらそうおどけた口調で話すナリスに、ヴァレリウスはかぶりを振った。


「そうした無理は寿命を縮めかねません。どうかお命を大事にしてくださいませ」


「大袈裟だなぁヴァレは。そういう君はずっとわたしの影に潜んでいて寝ていないじゃないか。人のことを言えるのかい?」


「魔道士の中には修行の末その肉体を捨て去る者もおります。そうした霊的な存在に移行した魔道士は眠りの枷からは解き離れますが、ナリス様はまだ人のお体です。私とは違うのですよ」


「君だって、まだ修行の途中だったろ? 完全に霊的な存在に移行できたわけではなかったはずだよ?」


「それでも。それでもまだ貴方様よりはマシなのですよ。とにかく今は少しでも横になってください。今安眠のためのお薬をお持ちいたしますから」


「でもね」


「お待ちになっていらっしゃる連絡なら、受け取り次第ご報告させていただきます。マギウス様からの定時連絡まではまだ数刻ありますから。お願いしますナリス様」


「もう、わかったよ、ヴァレリウス。君はお母様よりもわたしの母親のようだ。言うことを聞くとするよ」


 そう言うと深く腰掛けていた椅子からふわっと立ち上がり、肩にかけた銀のマントを翻す。

 そのまま部屋の奥にしつらえてある簡易ベッドに腰掛けるナリス。


 手早く盆にカリンの実を絞った果実酒と手製の安眠薬を用意したヴァレリウスが、そのグラスをベッドに腰掛けているナリスに差し出した。


「ありがとうヴァレリウス」


 グラスを受け取って、口をつける。

 ゴクンと一口飲み干し、続けて薬を口に運んだ。


「この薬を飲むと夢を見ないで済むから助かるな」


 そう言ってグラスをサイドテーブルに置くと、そのまま横になる。


「嫌な夢を見るからといって寝ないのはダメですよ」


 ヴァレリウスがまるで母親のような慈愛を込めた眼差しでナリスの額を撫でると、彼はゆっくりと目を閉じて。

 そのまま寝息を立て始めた。


「こんな歳からいろんなものを背負いすぎなんですよ。貴方は」

 ヴァレリウスが最後にそうつぶやいた声は、ナリスには聞こえたのか聞こえなかったのか。


 ♢ ♢ ♢

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