帰省。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
そしてそんなこの国で神に一番近い場所といわれるのが聖女宮であり、そこで神に祈りを捧げるために尽くすのが当代の聖女という職業であった。
聖女は公職であり、聖なる真那力の強い貴族の中でも特に婚姻前の乙女が選ばれその職を勤めあげるもの。
何故婚姻前の乙女でないといけないのか。
それは、子を産むとその乙女の中にいる神の御力が、次代に移ってしまうからだと。
そう語り継がれていた。
実際には婚姻し子をなしたからといってそこまで当人のチカラが衰えるわけでもない。
しかし、確かに少女の多感な時期にその魔力がピークとなる女性は多い。
魔力は感情の多寡に左右されることも多いため、多感な時期に一番チカラが強くなるというのはわからない話でも無い。
それは、男性の場合円熟した三十代で能力のピークを迎える事が多いと言われているのとは対照的であった。
♢ ♢ ♢
「だって、思春期の少女の魔力は混沌すらも凌駕するのだから」
「え? ファフナ」
「はう。手が止まってるよアーシャ。ほらもっとここもふもふして」
そう言って体をくねらせてもふもふを要求する白猫のファフナ。
天使様、女神様、どんな表現がこの子にはふさわしいのかわからないけどとりあえず今はわたくしの膝の上でグルングルンと体をひねらせてもふもふをねだる、かわいい子猫だ。
昔からこの子にはいろんな事を教わった。わたくしの知識の大半は、このファフナの受け売りかもしれないくらい。
がたごとと揺れる馬車の中、ひたすら領地のアルルカンドへ向かう道中で。
護衛の騎士様に侍女のアンミラも一緒とはいえ、今回はお父様もお母様も一緒じゃない初めての一人旅。一人での帰省。
ここ数年は聖女のお仕事が忙しくてまともに領地に帰ることもままならなかったし、久々にお婆さまにお会いできると思うと本当に楽しみでもある。
途中宿場町でお泊りもしながらだからもうすっかり旅行気分で忘れていたけど、ああ、本当にわたくしは聖女を解任になったのだなぁ、と、少ししみじみ寂しさも思い出し。
自分で言うのもなんだけど、まだ少女の多感な時期に両親と離れて聖女宮で暮らすのはやっぱり少し淋しくもあったけど、それでもやりがいのあるお勤めだったから。
あの衆人環視の中。
ああもはっきりと解任を叫ばれ、身を引かざるをえなかった聖女のお仕事。
それがいくら王太子レムレス殿下の暴走の結果とはいえ、なかったことには出来なかった。
そう、半分はお父様がお怒りだったのが原因だけれど。
実は王宮サイドからわたくしの聖女留任の嘆願が何度も届いていたらしい。
流石に国王陛下の勅使ではなかったけれど、大臣クラスの方々から何度もそんなおはなしがあったと言う事だった。
まあそれは全てわたくしの元にまでは届かずお父様の判断でお断りをしたらしいけど。
本当、お父様は今回のことで相当王宮に対してお怒りで。
今回の領地行きも、その辺の兼ね合いも含めての判断らしい。
お父様やお母様はもう少し聖都でのお仕事が残っているからって、わたくしだけが先に領地に向かうこととなったのだった。
ナリス様とも会わせてもらえないままの帰省に、最初は憤慨してみせたものの。
わたくしの為だからって強行なお父様にそれ以上文句を言うことも出来ず、こうしてファフナとゴトゴト馬車に揺られているのだった。
「アルルに行くのね。ちょっと楽しみー」
「あは。ファフナもアルル、好き?」
「うん。あの白亜の街はちょっと好み。清浄な空気も好きよ」
わたくしはファフナを撫でながら。幼い頃に過ごしたそんなアルルカンドの領都アルルを思い出していた。




