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お飾り聖女、だなんて呼ばれようは許容できません! それだけは、許せません!

 ボスん。

 実家から持ち込んだふかふかのお気に入りのベッドに倒れ込んだら、にゃぁ? って猫のファフナがそばに近寄ってきてくれた。


 真っ白でもふもふなファフナは、そのクリクリっとした目をまん丸にしてわたくしを覗き込んで。

 そうしてにゃぁとわたくしの顔に頭を擦り付けてくれて。


「ありがとねファフナ」


 そのもふもふの毛並みを撫でていたら、なんだか少し落ち着いたみたい。

 呆然として何も考えられなくなっていたけど、少しづつ頭がすっきりとしてきて。


 ああ。

 解任だ、立ち去れって言われたのだっけ。


 仰向けに寝転んで天井を見つめる。


 この三年、わたくし、頑張ってきましたのに。

 確かにお母様のような卓越した癒しの力を持っているわけではありませんけれど、それでも聖女として精一杯頑張ってきたのに。


 思い出したらだんだんと腹が立ってきて。


 そうです、お飾り聖女だなんて言われたんでした!


 いいです、婚約破棄されたことは百歩譲って許しましょう。どうせ恋とか愛とかそんなものはカケラも無かった婚約です。

 元々四人の王子のうちで一番平凡でひ弱だったレムレス殿下。

 そんなレムレス殿下を贔屓したウイリアムス国王陛下と王妃マルガレッタ殿下にぜひにと頼まれさえしなかったら、きっとお受けすることのなかった婚約話でした。


 あのご様子ではきっと気がついていないようですけれど、多分わたくしと婚約したことで手に入れたはずの王太子の座。


 王太子には、元々武技に秀でた長子ロムス様の方を押す重臣の方が多く、側妃の子ではあるけれど優秀な次男のナリス様、そして魔力が一番高い末子のマギウス様に挟まれ、三男のレムレス様が王太子に選ばれるとは誰も思っていなかったのだという話でしたし。


 うちの実家は侯爵家ではあるけれど、王国騎士団を代々統率するスタンフォード家。

 経済的にも国内随一の規模を誇る領地を保有している名家です。

 そしてわたくしのお母様は、救国の聖女と称えられた大聖女で。


 そんな両親の元に生まれたわたくしは、十二の歳からその力を見込まれこうして聖女として勤めてきたのです。

 青春も、恋愛も、そんなものもみんな諦めて。

 ただひたすら国のためにと尽くしてきたのにこの仕打ちですか!


 まあ、いいです。レムレス様とは遅かれ早かれこうなる運命だったのでしょう。

 だから、婚約が解消されることについては全く文句はありません。

 でも。


 お飾り聖女だなんて呼ばれようは許容できません。

 それだけは、ちょっと許せません!


 聖女は公職。

 貴族の子女が婚姻までを務める役職であり、その聖なる力だけで選ばれるものでもありません。でも。


 わたくしのお母様は国家の危機を救った救国の聖女。大聖女です。


 そんなお母様の娘のわたくしが、お飾りの聖女?

 そんな不名誉な呼び名、許しておける訳ないじゃ無いですか!!


「撤回、してもらわないと」


 このまま黙って引き下がるわけにはまいりません。

 せめてお飾り聖女だなんて不名誉な呼び名だけでもレムレス様に撤回してもらわないと!


 窓の外を見ると、いつの間にかもう夕方。

 陽が沈むところでした。


 西の空はもう真っ赤な茜色に染まっています。

「随分と、時間が経ってしまったのね……」

 そう呟いて、ベッドから飛び降りて。



 そういえば荷物をまとめて出て行けって言われたんでしたか……。


 長年親しんだこのお部屋を離れるのは少し寂しいですが、それはそれ、しょうがないです。


 わたくしは、心のゲートを少し開くと。

 (レイス)から真那(マナ)の手を伸ばし、お気に入りのベッドとタンスを心の収納にしまいました。


「ごめんね、ファフナもちょっとここに入っていてくれる?」


 にゃぁと返事をするファフナを抱きしめ頬擦りすると、彼女は自分から(レイス)収納に飛び込んでくれます。

 もう何度も入ってるから慣れたものですわね。


 人の心、(レイス)は、大霊(グレートレイス)から産まれる。

 そんな(レイス)は神の氣である真那(マナ)をたっぷり詰め込んだ風船みたいなもの。

 要は人の心は(レイス)にあるし、それこそ(レイス)こそその人そのものであると言えるのかもで。


 わたくしの(レイス)は人より少しだけ許容量が大きいみたいなのです。

 お母様は、もしかしたら自分よりもわたくしの方が大きいかも、なんて言ってくれました。

 よくわかりませんけど。



 部屋の中の自分の荷物をあらかた片付けて。

 名残惜しいけれどしょうがないです。


 このままレムレス様のところに言って一言文句を言って……。

 そう思ったところで、ハタ、ッと気がつきました。


 いつの間にか陽が暮れてしまったこんな時間、果たして殿下はどちらにいらっしゃるのでしょう……。



 

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