0-7 世界の扉。
わたくしの金色の嵐が晴れた時。
広間中央の魔法陣はその機能が完全に停止して。
そして、そこには金色のポワポワだった髪が真っ白になった王太子が、顔面も蒼白な状態で膝をつき項垂れていました。
憑き物が落ちたように呆けて。
よかった。あのまま魔に取り込まれていたら、殿下はきっと人では無くなってしまっていたでしょう。
ほんとによかった……。
《ねえ? それじゃぁ約束通り、あたしをもとの世界に戻してね?》
ああ、そうですそうです。
ひいお祖父様が残された手記によると、神様の魔法は神様の世界への扉を開く、のだそうですけど……。
「デウスの鍵を使えば聖女様の世界への扉は開く、のですよね?」
多分、そうだと思うのですが……、少し自信がありません。
わたくしは具体的に聖女様の世界を知る訳ではないのですし。
《まあ、そうなのだけど》
はう? 歯切れが悪い言い方に感じるのは気のせいでしょうか?
なんだか聖女様の様子がおかしいです。
《うん、まいっか。じゃぁ貴女のレイスの中に扉を開くね。きっと外の次元で開くよりもその方が被害が少ないだろうから》
え?
被害?
《うーん、多分、大丈夫。なんてったって、貴女のマギアスキルの上限は取っ払ったままだし、じゃぁ開けるね?》
はい、と返事をする前に。
心の中に、ごおっと暴風が吹き荒れて。
そして。
わたくしの心の中で、聖女様が手を振る姿が見えました。
そして、いつの間にかそこにあった扉の中に、その姿が消えていき。
あれ?
おかしい。
暴風が止まらない。
カギ、しめなきゃ、
トビラ、しめなきゃ、
だめ。
意識が保てない……。
♢ ♢ ♢
金色の嵐が治った時。
皆がそこに見たのは、項垂れ膝をついたシャルル王太子と、その前に立つ白銀の髪の聖女の姿だった。
髪の色は白銀になっていたものの、その顔は聖女フランソワのそれであり。
また逆に、異世界から召喚した白銀の少女の姿はもうどこにも見当たらなくなっていた。
王太子の髪も色が落ち白髪になってしまっていたことから、聖女フランソワの髪色が変化したことも今の騒ぎによる変化なのだろうと納得し。
周囲の聖女庁の重鎮は皆、ほっとした様子で聖女にお辞儀をして。
王太子の暴走をとどめてくれた彼女に感謝した。
「さあ。それでは皆さま、ごきげんよう」
いきなりそう挨拶する聖女に皆が唖然とする中、彼女はスタスタと歩き聖女庁の建物を後にして。
そして、呆気に取られ止めるものも現れないうちに、その姿を消してしまったのだった。