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わたくし、フランソワ・コレットと申します。
アルメルセデス王国、王国聖女庁にて聖女の職を賜っておりました。
聖女は公職、本来なら未婚の王族が結婚までの期間任命される名誉職でもあるのです。
しかし今代、めぼしい王族や血縁の公爵家には該当者が居なかったため、やむをえず白羽の矢が立ったのがコレット伯爵家のわたくしでした。
まあ、確かにお飾りではあったのですけれどとりあえずは食べるのに困らないし落ち目で貧乏な実家の助けになるかと引き受けたのですが……。
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
と、まさかこんなふうにいきなり怒鳴られ解任されるとは思ってもおりませんでした。
怒りを抑えきれないご様子のまま背を向け、部屋を出ていくシャルル王太子殿下。ひよこのような金色の髪はポワポワで、お顔もいかにも王族といった感じであまり世俗慣れしていないような雰囲気の方でしたのに、こんなにも語気を荒げご立腹になるなんて。
わたくしが、いけなかったのでしょうか?
わたくしはただただ王族方のご希望に沿うよう、聖女の職を受けただけでしたのに。
お飾りであることはわたくしも重々承知をしておりました。
何せ、わたくしは聖魔法が使えませんから。
儀式のおりも、その他民衆への施しの際も、聖魔法が必要な場面ではわたくしは御簾の後ろに座っているだけ。
実際にそういった魔法の行使は代理の魔法士様にお願いをしていましたし。
この聖女庁には通常の聖魔法を行使することのできる魔法士は大勢在籍しております。
これまでも聖女不在の折にあってもつつがなく儀式等は行われておりました。
もはや聖女はお飾りで十分、そう思われていたのでしょう。
わたくしの実家コレット伯爵家は一応伯爵という爵位は頂いているものの、百年ほど前に断絶した当時の王家の傍系で、現在の王室とは元々何の繋がりも無い家柄。
貧乏すぎてこのままお家が断絶しても困りますし、それに、聖女の職には憧れもありました。
でも、しかし、です。
こうなってしまってはもう仕方がありません。
荷物をまとめてお家に帰りましょう。
働く気になればお仕事はいくらでもあるはずです。
こうして都会で過ごすことができたのも、いい経験でした。
これを生かして田舎で余生を過ごしましょう。
(あ、余生というにはまだ早かったですかね?)
♢
わたくしの部屋にいきなり王太子殿下が現れた時は驚きましたが、そう気持ちを入れ替えたら心が軽くなりました。
それに。
真の聖女が現れた?
そう殿下はおっしゃっておりましたし、きっとわたくしなどよりも優秀な本当の聖女がお決まりになったのでしょう。
であれば。
お父様やお母様には期待に応えられず申し訳ないですが、おうちに帰ればわたくしの最愛の猫のファフナがまったり出迎えてくれるはず。
彼女の真っ白なもふもふの毛並みを堪能して、にくきゅうをもみもみして。
ああもう考えるだけで幸せな気持ちに浸れます。
さあさ帰りましょうと荷物を纏めていたわわたくしでしたがなんだか外の様子がおかしいことに気がつきました。