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試合に勝って勝負に負ける

 唐突に巨大な風船が破裂するような音が周囲に響き渡り、沙羅と大江の身体が空高く舞上げられた。

 

 沙羅は空中で体勢を整えて奇麗に地に着地するが、大江は受け身を取ることもなく、背中からアスファルトの路面に叩きつけられた。 

 そのまま彼は、大の字の姿勢のまま動かない。

 いや、動けないと言った方が正しいか。

 

「痛ぇ……。

 トラックと正面衝突した時と同じような衝撃が、横から来た……。

 一体何やった?」

 

「……トラックと正面衝突したことあるの……?」

 

 沙羅は呆れたような表情で、大江の顔を覗き込んだ。

 

「まあ、大気の精霊にお願いして、圧縮した空気の塊をぶつけてもらったってところかな。

 ホラ、ドラ●もんの道具にあったでしょ? 

 空気砲とかなんとか……」

 

「よく分かんねーよ……」

 

「ま、早い話が魔法を使ったってこと」

 

「そんなの有りか……」

 

 大江は呻いた。

 信じがたい話ではあったが、実際にそれを食らっている身としては、認める他ない。

 言われてみれば、確かに見えない何かに体当たりされたような感触だった。

 

「でも、本当は使うつもりなんて無かったのよ。

 それを使わせたのは、大したものよ。

 今回は私の反則負けってところかな」

 

「勝ち負けで言えば、俺があんたよりも弱いことは、最初から分かっていただろーが……」

 

 そう、最初っから沙羅が全ての能力を使って戦っていたら、大江は数十秒ももたなかったはずだ。

 彼女が禁じ手を決めていたからこそ、どうにか大江の方が優勢に戦えたのである。

 

「うん。それでも、対人戦闘にクイン・●ンサを投入するようなものよ。

 さすがにそれは大人げないでしょ。

 だから私の負け」

 

「……だからたとえの意味が分からん」

 

「ん?  あんたの世代なら、ファーストガン●ムからダブ●ゼーター辺りまでは、好きこのんで観ていたでしょ?

 ちなみに私はアニメチャンネルとかで観たよ」

 

「つーか、趣味が偏りすぎてるんだよ。

 ガン●ムくらいなら分からんでもないが……。

 大体、誤解があるようだが……俺はまだ19だ」

 

 大江の答えに、沙羅はあらゆる活動を停止した。

 彼の言葉の意味を理解するまで、タップリ1分以上かけてからの第一声は、

 

「嘘っ、年下!? 

 もう40歳は過ぎてるのかと、思ってた……」

 

 かなり失礼な物言いだった。

 もっとも、仮に大江が40歳を過ぎていた場合、これまでの沙羅の接し方が目上に対して礼節を尽くしていたかというと、やっぱり失礼だったのだけど。

 

「はぁ~、そうか、あんたもまだ未成年なんだ。

 それでその実力……。

 こんな人材がこんな所に転がっているなんて、世の中広いわ……」

 

 沙羅は感心したように、独りでウンウンと頷いている。

 そして──、

 

「ん~と、大江君っていったっけ? 

 君、うちで働いてみるつもりは無い? 

 君くらいの実力があれば、結構いい働きが期待できそうだし、今日みたいなレベルの勝負をする機会は割とあるから、楽しめると思うよ。

 それにうちで修行すれば、波●拳っぽいのも撃てるようになれるかもしれないしさ。

 格闘バカにはこれ以上ないくらい、美味しい話でしょ?」


 意外な提案をした。

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