勝敗の行方
(面白い)
と、大江は笑う。
「いくよ」
「来な」
沙羅と大江の間合いが、ジリジリとつまっていく。
一見動いていないように見えて、沙羅はすり足で徐々に間合いをつめていき、攻撃のタイミングを計っていた。
それが30~40秒ほど続いた後、極端に動きの少ない状況は一変する。
最初に動いたのは沙羅だった。
力強い踏み込みとともに、一気に刀を振り下ろす。
それに反応するように、一瞬遅れて大江が動いた。
が、致命的な遅れではない。
むしろ絶妙のタイミングだった。
大江は振り下ろされた刀が自らの身体を斬り裂く前に、その刀身を真横から殴りつけて弾いた。
くるくると刀が円を描くように、回転しながら飛んでいく。
「!!」
確かに沙羅の斬撃は何の捻りもない、ただひたすらに真っ直ぐなだけの斬撃であった。
だが、それだけにその打ちこみの速度は、これまでに彼女が見せた斬撃の比ではない。
上段から振り下ろすだけの剣筋は、読みやすかったのかもしれないが、大江でなければ反応も許さない速度であった。
しかし、これでも手加減されていることが、大江には分かった。
この期に及んで、その刃には殺気が込められていなかったからだ。
おそらくギリギリのところで、致命傷にはならないような力加減で振られた斬撃なのだ。
もしも沙羅が本気で大江を殺すつもりで斬撃を放っていたとしたら、彼はそれを止めることができたかどうか分からない。
いや、おそらくは反応することすらできなかっただろう。
いましがたの斬撃でさえ、止めるのがやっとだったのだ。
沙羅は大江が見切れるギリギリの速度を計算して、打ち込んできたようにさえ思えた。
結局、今の攻防は、大江に沙羅が勝ちを譲ったようなものである。
実力的には、沙羅の方が上だと証明された。
いや、まだだ。
まだ大江の攻撃が残っている。
これを完全に凌いで初めて、沙羅の実力が彼よりも上だと証明される。
沙羅の体勢が崩れる。
刀を弾かれた時の衝撃で、手首を痛めたのだ。
その隙をついて大江は、渾身の力を込めた正拳突きを打ち放った。
これはなんの手加減も無い、殺すつもりで放った拳だ。
普通はかわせるタイミングではない。
それでも沙羅ならば、どうにかして回避するのではないかという確信が、大江にはあった。
事実、沙羅はゆらりとした動きで身体を捻る。
まるで振られた大江の腕から巻き起こった空気の流れに、流されたかのような動きだった。
そして、二人の動きが止まった。
「……よくかわしたな」
大江は笑ってそう言った。
彼の渾身の攻撃をかわした沙羅の反応速度は、称賛するに値する。
ただ、言葉では称賛するが、彼が笑ったのは別の理由からだ。
彼のその笑みは、「してやったり」と、勝ち誇ったような笑いだった。
「……やられた」
笑う大江に対して、沙羅は渋面とした表情になっていた。
大江の拳は、沙羅の右頬をかすめて通り過ぎた。
ダメージは全く無い。
だが、彼の右手は、沙羅の上着の襟首の辺りを掴んでいる。
大江の攻撃は、沙羅を殴る為ではなく、最初から彼女を掴む為だったのだ。




