助っ人?
今晩2回目の更新です。
「ヤロぉーっ!!」
チンピラAが沙羅に向かって襲いかかる。
するとそれに触発されて、他のチンピラ達も一瞬は躊躇するもすぐに後に続いた。
彼らはたとえ個人個人が冷静に物事を考えられたとしても、それが集団となると別物だ。
集団とはそれ自体が一個の生き物のような物だが、それ自体の判断能力は極めて低い。
複数の思考が入り組んでいるのだから当然と言えるが、だからこそ単純な方向へ動きやすい。
例えば「怒り」等がそうだ。
そんな集団の中にキレやすい人間を入れておくのは、爆発時間をランダムに設定された時限爆弾みたいなものだと言えよう。
そして今、爆発の時を迎えてしまった。
こうなると、少なくとも彼ら自身の意志ではもう止まらない。
「ふん……つくづく馬鹿な連中だ」
沙羅は迫り来る男達へ向かって、自ら踏み出す。
そして手にした刀を、先頭のチンピラA目掛けて振──、
「!?」
沙羅が刀を振るおうとした瞬間、チンピラAがまるで砲弾のように吹っ飛んだ。
彼は5メートルほど飛んだ後、更に地面を10メートルほど転がり、芝生の縁石に当たってようやく止まった。
まるで自動車に衝突されたかのような有様だ。
当然、彼にはもう意識など残ってはいない。
他のチンピラ達も、そのあまりにも突然の出来事に動きを止めた。
「……なんだ、あんたか」
獲物を横取りされた沙羅は、不満げな表情でチンピラAを吹っ飛ばした原因の方へと視線を向ける。
そしてチンピラ達も驚愕した表情で、やはりそちらの方を見た。
そこには蹴りの姿勢から直立の姿勢へとゆっくりと直る、2メートルを超える男の姿が──。
「お……大江さんっ!?」
「何、熱くなって先走ってるんだ、お前ら?」
ドスの利いた低い声音で凄まれて、チンピラ達は怯む。
慌ててチンピラBが弁明する。
「だ、だけどよ、京野をあんな風にされて黙っていられるかよ」
どうやら沙羅に蹴倒された男は京野というらしい。
彼らはわざわざその京野とかいう男の、復讐に来たようだ。
「その結果、真東と樫元を潰されてりゃ、世話ねぇな」
「か、樫元をやったのは大江さんじゃ……」
チンピラDが異議を唱えようとしたが、大江に睨まれて押し黙った。
「俺が割って入らなきゃ、蹴られる程度じゃ済まなかったよ。
樫元だけじゃねぇ、お前ら全員な。
今回は相手が悪すぎる。
さっさと引きな」
「しかしそれじゃあ、俺達の気が済まねェよ!!」
チンピラCが声を荒らげて反論する。
しかしその瞬間、チンピラCの頬を大江が平手で張った。
「アガガガっ!」
チンピラCは口から血を溢れさせながら、地面に蹲る。
「気が済む、済まないの問題じゃねぇ……。
真東の腕はいますぐ接合しないと二度と使い物にならなくなるぞ。
それに樫元はアバラ……。
あと鷹田、お前も奥歯がいってるからな。
仲間と自分の身体が大事なら、さっさと医者に診せろ──って、言ってるんだよ」
「あ、ああ、……ハイ」
まだ無事なチンピラ達は、渋々ではあるが大江の指示に従った。
彼らとしてはたった1人の女を相手に逃げ出すような真似をするのは屈辱的だったが、それでも「仲間の為」という言い訳を与えてもらえば、まだ自分達の心を納得させることができる。
それに本気になった大江がどれほど怖いのかは、普段から付き合いがあるだけに彼らはよく分かっていた。
だから仲間の腕を斬り落とした沙羅と比べても、大江の方がまだ怖いとさえ思える。
だが、彼女に対してその程度の認識しか無いのであれば、やはり彼らには彼女とことを構えることができる資格は無い。
「あんた……結構無茶するのね」
仲間を抱えて退散していくチンピラ達を見送りながら、沙羅は呆れたように呟いた。
それに対して大江は、
「あんたほどじゃない」
と、不機嫌そうに返すのだった。




