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弾丸の代償

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 沙羅は居合術のような構えを取った。

 「のような」と言うのも、居合は鞘から刀を抜き放つのと同時に敵を切り付ける技術だが、沙羅は既に鞘を捨てているので、本来の意味での居合はできないからだ。


 しかし彼女は、刀の嶺に左手をそえていた。

 これは手で刀を押し出すことによって、斬撃の加速力を得ようとしてのことだ。

 まさに居合の如き早業となり、素人にはまず回避困難な必殺の一撃となるだろう。

 

 それが理解できたという訳ではないが、沙羅に拳銃を突きつけて相対しているチンピラEは、言いしれぬプレッシャーを感じていた。

 常識で考えれば沙羅の言うように、銃弾を(かわ)して反撃に転ずることが可能だとは思えなかった。

 

 が、チンピラEには、沙羅がハッタリを言っているようにも思えなかった。

 彼は社の応接室で、仲間が沙羅の蹴りによって一瞬で病院送りにされたのを目撃している。

 ハッキリ言って、あの時の沙羅の動きは速すぎて、彼には何が起こったのか全く分からなかったが、だからこそ沙羅が銃弾を躱すという話も、あながちハッタリではないような気がしたのだ。

 

「ハーッ、ハーッ、」


 と、彼は喘ぐように呼吸する。

 それに連動するかのように、沙羅へと向けられた銃の狙いがぶれる。

 緊張と恐怖のあまり、彼の全身は震えていた。


 しかしそれは、人を殺してしまうかもしれないという恐怖ではない。

 自分が死ぬかもしれないという恐怖だ。

 それがなんとなく読みとれた沙羅は、チンピラEへと注ぐ視線を更に鋭く研ぎ澄ます。

 

(反撃を受ける覚悟も無しに、他人に武器なんか向けるんじゃない!)

 

 沙羅から発せられたあまりの気迫に、チンピラEは「ヒッ」と小さく悲鳴をあげ、そして思わず銃の引き金にかかる指に力を込めた。

 その指の動きを、沙羅は見過ごさなかった。

 

 パァンと、思いのほか軽い音が上がるのと同時に、チンピラEのはるか前方の地面がはじける。

 そして何故か彼の正面にいたはずの沙羅の姿が、彼の右側面にあった。


 沙羅は本当に銃弾を躱してしまった。

 それどころか銃弾が発射されて、地面に炸裂するまでの1秒にも満たない時間で、3メートルはあったチンピラEとの間合いを数十cmにまでつめていた。

 しかも、沙羅が手にした刀はすでに振り上げられている。

 

「……え?」

 

 チンピラEがそのことに気づいた瞬間、彼の足元に何かがドサッという重い音を立てて落ちた。

 続いてピチャピチャという水音──。

 銃を握ったままの右腕と、そこから吹き出た血液だ。

 

「ひぃやあああああーっ!?」

 

 チンピラEは、血液の噴き出す右腕の切り口を抱え込むようにして(うずくま)りそのまま、動かなく──いや動けなくなった。

 人間、本気で痛い時は、そのショックで全身が金縛りに遭う。

 ただ、彼の口からは、下手なコーラスのような悲鳴がもれ続けてはいたが。

 

「まあ……あんたは、腕一本で勘弁してやる。

 でも、全力で止血しないと、出血多量で死ぬよ?」

 

 そう呟いた沙羅は、他の男達に視線を向ける。

 

「さて、次は?

 今度は腕一本じゃ済まないかもしれないよ?」

 

「こ……この」

 

 チンピラ達の多くは(ひる)んだ様子だった。

 自分が刀で斬られることを考えたら、当然の反応だろう。

 だが、中には明らかに激昂し、今にも沙羅に襲いかかろうとしている者もいる。

 リーダー格のチンピラAだった。

 

 人間の中には、少し考えればその行為の結果分かり切っているはずなのに、頭に血が上るとそれが見えなくなってしまう者が何故か存在する。

 それはもう、親の躾が云々とか言うレベル以前に、脳に欠陥があるのではないかと疑いたくなるほど些細なことでキレる者もいるのだ。


 そういう人間が、単独で行動している内はまだいい。

 怖いのはそういう人間が、集団で行動するようになってからだ。

 今晩はもう一回更新します。

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