銃刀法って何だっけ?
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「何が可笑しいっ!?」
人を舐めた態度の沙羅に対してチンピラ達は激高するが、彼女は気にもとめない。
「馬鹿はどっちだ。
人気のない場所に私が入ったんじゃなくて、私が人気のない場所を作ってやったんだよ。
人払いの結界をこの公園に施してあるから、かなり明確な目的意識を持っていないと、ここには入り込めないよ」
「ああん?」
チンピラ達は沙羅の言葉の意味が分からず、訝しげに表情を歪ませる。
「つまりあんた達の方が、罠に誘い込まれたのさ。
馬鹿だねぇ……。
人数を集めれば私に勝てると思ったの?
5人ぽっちじゃ物の数じゃないよ。
あんたたちこそ、どんなに叫んだって誰も助けには来ないから、覚悟しなさいね」
不敵に笑う沙羅の表情にチンピラ達は一瞬たじろいだが、その内の1人が懐から何かを取り出して沙羅へと向ける。
「これを見てそ、んなことをほざいてられるのかよ!」
勝ち誇ったような表情で笑うチンピラAの手に握られていたのは、ナイフであった。
しかもナイフとは言っても、その辺の少年が護身用に持ち歩いていいような物ではない。
それは刃渡りが大きくて厚つみもあり、どこぞの国の軍隊が正式採用していそうな代物である。
完全に銃刀法違反の代物であった。
いや、刃の長さが一定数以上の刃物自体が、全てアウトではあるが。
いずれにせよ無骨なデザインではあるが、この手のナイフは指程度なら簡単に切り落とすことができるほどの切れ味を誇っている。
まあ、元々が護身用でもサバイバル用でもなく、人間を効率よく殺傷するのが目的で造られているのだから当然ではあるが。
そして他の者も倣うように、同様のタイプのナイフを抜く。
だが、沙羅は顔色一つ変えない。
「本当に馬鹿だねぇ。
そんなものを抜いたら私だって抜くよ?」
と、沙羅は立ち上がり、手にしていた包みからそれを取り出した。
それを見たチンピラ達は驚いて、1~2歩後退る。
「な、日本刀だとぉ!?」
沙羅の手にしていた包みの中身は、やはり日本刀であった。
「ちなみに、模造刀じゃないからね」
と、沙羅は鞘から白刃を抜きはなった。
曇りのない刃は太陽の光を反射して、自らが光り輝いているかのようだ。
刀のことなんか何一つ分からないチンピラ達から見ても、名刀と呼ぶに相応しい物であるように見えた。
「どう、私とチャンバラしたい?
タ●ンティーノの映画に出てくる、ヤクザみたいな目に遭いたいのならそれでもいいよ。
『キル・●ル』って、楽しい映画だよね」
そんな軽口を叩きつつ、沙羅は刀の切っ先をチンピラ達のそれぞれの顔に向けた。
「しょ……正気かよ」
チンピラ達の間から、動揺の声があがった。
無理も無い。
これほど堂々とした銃刀法違反なんて、彼らは初めて見たのだ。
もしもこれが拳銃ならば、それはそれで怖くはあるが、さほど驚きはしなかっただろう。
拳銃はその殺傷力以上に、その携帯性に優れていることから、今現在、裏社会の人間が用いる武器の主流となり、それどころか一般人にさえも流出し始めている。
だから仮に沙羅が拳銃を持ち出してきたとしても、意外性は少ない。
ましてやチンピラ達は見慣れている。
しかし日本刀は、全く事情が違う。
サイズ・形状共にあまりにも目立ちすぎるのだ。
こんな物を持って街に出れば、かなり高い確率で銃刀法違反によって検挙されてしまうだろう。
それでは武器としての性能がどうこうという以前の問題で、役に立たない。
銃刀法違反を犯しているのは男達も同じではあるが、彼らからしても堂々と白昼の街中で日本刀を持ち歩いていた沙羅の行為は、狂気の沙汰にしか思えなかった。
白昼の公園で、白刃を振りかざすなんて真似をする人間が現れる──。
そんなことは今の世の中では、滅多に起こり得る物ではない。
殆どフィクションの世界の出来事である。
それをいざ目の前に持ち出されてみると、彼らが生きてきた現実の世界が、急に確固たる物が何一つ無い、頼りない物であるかのように感じられてくる。
そして目の前にいる女がまるで人間ではなく、別世界の生き物であるかのように思えてきた。
相手が人間ではないのなら、人間のルール等は通用しない。
それが怖い。
チンピラ達はナイフを手にしていたが、結果的に相手が死んでしまっても構わないという気持ちはあっても、最初っから相手を殺すつもりでナイフを手にした訳ではない。
あくまでナイフは脅し目的であり、内心では殺人をすることには躊躇がある。
だが、白昼に日本刀を堂々と持ち歩くようなトチ狂った女が、果たして殺人を躊躇するのだろうか。
そう思うと、自らの命が次の瞬間に断ち切られてしまうかもしれないという、そんな恐怖が急に湧き上がってきた。
今晩はもう1回更新します。




