権力と呪い
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壮前は狂人を見るような視線を、沙羅へと向けた。
しかし沙羅は、その胡乱げな視線を平然と受け止めている。
「私がおかしなことを言っている、と思いますか?
ですがね……できますよ、団体の1つや2つを潰すことくらい。
大きいところは、族議員や役人が沢山絡んでいるので、ちょっと面倒臭いですがね」
「ふざけるなっ!!
お前のような小娘に、そんな権限がある訳無いだろうっ!」
壮前は激昂したのか、それとも脅し目的なのか、拳を強くテーブルに叩きつけた。
ガシャンと、気の弱い者ならそれだけで身を竦ませるほどの大きな音が室内に鳴り響き、テーブル上に置かれていた湯呑みの中身がこぼれる。
しかしそんなことをいちいち気にしていられるような余裕のある人間は、この場にはいなかった。
ただ、沙羅一人を除いては。
「ふざけちゃいませんよ」
と、沙羅は微笑する。
「さっき言ったでしょう、除霊は結構儲かるって。
何故だか分かりますか?
うちの顧客には、政府高官や議員のお偉いさんが多いからですよ。
中には総理大臣経験者だっているんですから。
だから小さなところになら、圧力をかけることができるツテはあるんですよ」
「はあ? 何を言っているのだ?
何故、除霊師ごときに、お偉方が頼る?」
壮前は沙羅の突拍子もないような話に失笑しかけたが、どうやら「除霊師ごとき」という言葉が気に障ったらしい沙羅に射抜くような視線で睨まれて、笑いを引っ込めた。
反社会勢力の人間として裏の世界で長年生きてきた彼でさえ、抵抗を許さぬような凄まじい気迫だ。
「……お偉いさんだからこそ、うちに頼ってくるんですよ。
彼らはより高い権力の座を手に入れる為には──あるいは、今の地位を守る為ならば、やれることは何でもやりますからね。
正確には除霊ではありませんが、政敵を呪って欲しいとか、逆にかけられた呪いを解いてほしいとかいう依頼も珍しいことじゃありません。
ちなみに、呪う方はうちの方針で滅多に受けませんけどね」
「ハッ、呪い?
呪いとな?」
壮前は今度こそ失笑してしまったが、すぐに沙羅に睨まれてその笑みをまた引っ込めた。
しかし彼が笑うのも、無理はない。
今の世の中で呪いなんてものを、本気で信じている者は殆どいないだろう。
いや、中にはワラ人形に五寸釘を打ち込むことを実行している人間も未だにいるらしいが、それが実際に効力を発揮するのかどうかは疑わしい。
仮に呪いをかけた相手が本当に死んだとしても、それが呪いによるものか単なる偶然なのかを判別する手段など存在しない。
だから呪いをかけている者でさえ、半信半疑である場合が多い。
そもそも誰かを害したいのであれば、呪いなどという遠回しな手段に頼らずに、直接自らの手を下した方が早くて確実だ。
だが、それを実行してしまうと、罪に問われてしまう。
家族などの隣人にも迷惑をかけてしまう。
だから法には触れない呪いという手段に頼る者もいるのだろうが、そんな自らの安全を確保して何の犠牲も払わずに人を害そうなどと言う、中途半端な心持ちでかけた呪いが効力を発揮する訳がない。
「人を呪わば穴二つ」という言葉があるように、本来は呪いをかける方も命懸けで行って始めて成就するのが呪術なのである。
実際沙羅も、素人が行った呪術が、確実に効力を発揮した例を殆ど知らない。
ただしちゃんとした知識を太古から脈々と受け継ぎ、呪いを確実な効力をもって発揮できる技術として扱える家系の者もいる。
そしてそういう人間による攻撃に、対処する者も然り。
「呪いなんて無いと思いますか?
確かに呪いなんて物が本当に存在したら、たぶん世界中で多くの人間に憎まれているであろう各国の首脳なんか、とっくにあの世逝きになっていても良さそうなものですけどね。
でも、彼らが死なないのは、呪いが存在しないからではないですよ。
私達のような職業の人間が、守っているからです。
権力者は私達が守ってるからこそ、権力の座についていられる……。
いや、私達が守った者しか、権力の座につけないと言った方が正しいかな。
他にも私の母の占いはよく当たると評判でして、母の言葉に従っていれば間違いないと、殆ど信者と化している議員の先生もいますし……。
だから私共の政府への発言力は、相当大きいものとご理解下さい。
あ、当然警察にも顔が利きますから、直接ここを叩くことも可能ですよ?」
と、沙羅はニッコリと笑って、壮前に告げる。
その笑顔に反して、その言葉の内容は、死刑執行の最終通告も同然である。
だが、それは一般人が俄に信じられるような話ではなかった。
当然壮前は、
「馬鹿を言うなっ!!
そんな作り話を、誰が信じるっ!!」
と、再びテーブルを強く叩く。
かなり強く硝子張りのテーブルを叩いているのに割れないところを見ると、いざという時の為に楯代わりとして使えるよう、防弾硝子で作られているのではなかろうか──と、沙羅は壮前の怒りを全く意に介さず、呑気に考えていた。
今夜はもう一回更新します。




