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癒 着

 数十分前に前話を更新しています。

 壮前(さかざき)麻生(あそう)家の土地に執着しているようだ。

 しかしそれは何故(なぜ)なのだろうか?

 それについては、沙羅もある程度推測することができた。


「さて、それでは壮前さんがあの土地を諦められない理由は、一体何なのですかね? 

 建設会社が自ら土地の買収を行うというのも、ちょっと変な気がしますが……。


 もしかして、あの土地に何かを建設しようとしている企業か団体から、土地の買収を委託されたっていうところでしょうか? 

 ならばそちらと直接、交渉をした方がいいですかね? 

 それは何処なんです?」

 

「そ、それは……」

 

 壮前が言葉を濁すのを見て、沙羅は自身の考えが正しかったことを悟る。

 

「ああ……やっぱり国絡みですね。

 税金でロクでもない施設を作っているような、公共事業関連とか?」

 

「!!」

 

 壮前の驚愕の表情が、面白いほど真実を雄弁に語っていた。

 沙羅の指摘は(ことごと)く図星であったようだ。

 

「そ……そうだ。

 いや、ロクでもないというのは違うが……。

 とある団体から我が社は、土地購入の依頼を受けている。

 我々の信用問題にも関わるのでな、引く訳にはいかん」

 

「ふ~ん」

 

 沙羅はニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 大体の絡繰りは読めた。

 この国には国民の血税から捻出された補助金を運営資金に充てて、活動している団体の(たぐ)いは無数に存在する。


 勿論、それらの全てが無駄という訳ではない。

 一件無駄な公共事業だって、建設業界を維持する為には必要だったという側面もある。

 そして建設業界は、災害の時には被害を復興させる為には絶対に必要なものである為、良いか悪いかでは単純に割り切れないのだ。


 だが、確実に無駄な団体も存在する。 


 壮前に土地の買収を依頼した団体の表向きの存在理由は分からないが、実際には官僚の天下り先に近い用途を目的として作られた、名ばかりで実体の無い団体であることが察せられた。

 昨今では天下りの規制は厳しくなっているが、抜け道などいくらでもあるだろうし、その為に必要な団体は消滅することはないだろう。

 

 そもそも、本来は自らが行わなければならない業務であるはずの土地の買収を、壮前建設に丸投げしている時点で、実態が無い証拠である。

 彼らは適当な土地を見つけ、そこに必要もない施設の建設をいかに重要なことであるのかとでっち上げて、その建設計画を行政に働きかける。


 それで仕事をしているというアリバイが成立してしまい、後は何もしないでいても給料がもらえるし、退職する時には何千万円という退職金まで付いてくる。

 実に美味しいご身分であった。

 

 そして、そんな彼らから甘い汁を分けてもらおうと、集まってくる者達がいる。

 その一つがこの壮前建設なのだろう。


 おそらく壮前建設は土地買収の報酬に、買収した土地で行われる建設事業を一手に引き受ける手はずになっているのだと思われる。

 それは談合入札で違法もいいところなのだが、それが表沙汰にならないようにする為の工作くらいは当然しているはずだ。


 いずれにせよそれくらいの旨味がなければ、土地買収の段階から建設業者が関わるなんてことは考えられない。

 しかも壮前建設は表向きは建設会社でも、実体は全く異なるので、建設業務を実際に行うのは下請けの中小企業だろう。

 当然、予算も中抜きするという、壮前にとっては美味しい仕組みである。

 

 更にその儲けの一部が「仕事を回してくれた礼」という形で、関わった者達の懐へと還元され、その繰り返しでお互いに肥えていく。

 このようなことは表向きは認められてはいないが、実際にはかなり根深く国の末端にまで浸透している。

 

 いや、むしろこれで国の大半が動いているとさえ言っても、過言ではないかもしれない。

 これに近いことは大なり小なりどこでも行われており、過疎地域の小さな役所ですら、地元企業となにかしらの馴れ合いや、本来は無いはずの上下関係はあるものだ。

 

 まさに権力との癒着の構造である。

 だがそれならば、こちらもそれを有効利用してやればいい、と沙羅は思う。

 

「そういうことなら話は早い。

 じゃあ、その団体に、麻生家の土地には手出ししないように、圧力をかけましょう。

 いや、反社会勢力と癒着しているような団体なら、この際取り潰しましょうか?」

  

「は……?」


 壮前は、「この女正気か?」というような表情を、沙羅へと向けた。

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