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ゲームをしよう

奈緒深(なおみ)さん。

 出かける時間までゲームをして、時間を潰そうか。

 あ、今度は普通のゲームね」

 

「あ、はい。

 でも、テレビゲームってやったことが無いんですよねぇ……私」

 

「ああ、大丈夫、大丈夫。

 操作とか教えてあげるから。

 どんなのがしたい?

 手軽なのは格闘ゲームかシューティング辺りだと思うけど、大体全部のジャンルのソフトがそこの棚にあるから好きなのを選びなよ。

 古典から最新作まで色々とあるから」

 

「なんだか……よく分からないんですけど……」

 

 奈緒深は自分の身長よりも高い本棚に、ギッシリとおさめられたゲームソフトの数に圧倒された。

 ハッキリ言って、この中の何が面白いのかなんて全く見当がつかない。

 適当に興味を引かれたタイトルを、選べば良いのだろうか──と、彼女は視線を動かす。

 

 最初に気になったのは、他のソフトと比べると大きめのパッケージで、異様にタイトル名の長いソフトであった。

 そのタイトルの長さが、どうしても目立つ。

 一番初めに「恋」という文字が入っているところを見ると、恋愛物だということが推測できるが、その他に「妹」とか「お兄ちゃん」とか「H」などという言葉が入っていて、何やら尋常ならざるものを感じる。

 奈緒深が怪訝(けげん)な表情でそれを眺めていると、案の定、

 

「あ~、一番上の段は18禁だから、見る必要ないよ」

 

 と、沙羅に止められた。

 なんとなく名残惜しいが、取りあえず視線を下に向ける。

 そして次に奈緒深の目にとまったのは、

 

(……『愛兄●』?)


 隣に並んでいる『超●貴』と揃って、その怪しげな響きは気にはなるけど、なんだか怖いのでパス。

 その他のソフトを見てみても、奈緒深にはなかなかこれぞというものを、見つけることができなかった。

 そもそも『スペ●ンカー』とか『ボボボ(以下略)』とか、タイトルの意味が分からず、どんな内容のゲームなのかすら判断が付かない物が多すぎる。

 

(無難なのっていったら、やっぱりスポーツかな?

 でも運動苦手だし、野球とかよく知らないし……あ!)

 

「これ、これがいいです!」

 

「ん~、どれどれ?」

 

「『T●E 囲碁』ってゲームです」

 

「渋っ!?」

 

「え~、その渋いゲームを持っている人に、そんなこと言われたくないですよ~」

 

 奈緒深は不満げに唇をとがらせた。

 

「いや……私の場合、囲碁を題材にしたマンガに影響されて買った訳で……安かったし。

 でも、奈緒深さんの場合、そういう動機がある訳でもないんでしょ?

 それにも関わらず、いきなり囲碁を選ぶ子って珍しいと思うよ」

 

 たとえ囲碁が題材のゲームを選ぶにしても、普通なら十中八九、「T●E 囲碁」よりもその隣にあったソフト──アニメ化もされた漫画作品が原作の「ヒ●ルの碁」を選ぶ。

 やはり彼女のセンスは、渋いとしか言いようがない。

 しかし、それは少々思い違いだったと、奈緒深の次の言葉で沙羅は反省する。

 

「お父さんが囲碁好きだったんですよ」

 

「あ……そっか、そっか。

 じゃあ……それにしようか。

 まあ私も あまり上手くないけどね。

 CPU対戦の勝率は0・5%だし」

 

 それは一般的に全くの初心者と言っても過言ではないレベルなのだが、奈緒深も基本的なゲームのルールしか知らないらしく、腕前としては両者ともさほど変わらないようだ。


 つまり、奈緒深も囲碁に対してはさほど興味を持っていた訳でもなく、父親と対局したこともあまり無いのだろう。

 それが(ゆえ)に父が亡くなった今、彼女はそれを悔いているのだ。

 だから遅まきながらも、これから囲碁を始めてみたいと彼女は思ったのだろう。

 そんな彼女の想いに付き合ってあげるのも悪くない、と沙羅は思う。


 ただ、ふと──、

 

(そういえば……奈緒深さんのお父さんって、なんで亡くなったんだっけ……?)

 

 そんな疑問が湧いて出たが、デリケートな話題なだけに、なかなか本人には直接聞きにくい。

 それに──、

 

「どう?

 面白い?」

 

「えっと、よく分からないのですが、面白いような気がします」

 

「そっか。

 私も結構楽しいよ」

 

 囲碁という地味なゲームだったけれど、久々に他人とプレイするゲームは、やはり1人でするのとは一味違って楽しかった。

 だから沙羅は、奈緒深の父親のことについては、をすぐに忘れてしまった。

 

「気に入ったら、またいつでもプレイしにくるといいよ」

 

「そうですね。

 迷惑じゃなければまた……」

 

「うん、私も大抵暇しているから大歓迎だよ。

 他にも沢山お勧めのゲームもあるしね。


 特にさっき奈緒深さんが見ていたのは、18歳になったら是非ともチャレンジしてもらいたい。

 アレはかなりおすすめだよ~。

 妹物に見せかけた弟物で、『キング オブ ショタゲー』と言っても過言じゃない内容だから。

 とにかく出てくる男の子が、可愛いんだよ~!」

 

「し……ショタゲー?」

 

 それから奈緒深は囲碁をプレイしつつも、如何(いか)にエロゲーが良い物なのかと沙羅に小一時間ほど力説された。

 意味がよく分からない専門用語もあるが、その話にはなんだかトキメくものを感じる。

 たぶんこれは綾香が言う「無視すべきバカなこと」に該当するような気がするのだが、どうにも抗しきれない魅力があった。


 お嬢様育ちでまだまだ無垢な彼女には、エロゲーは全く未知の世界だと言っても過言ではなかったが、だからこそ好奇心は募るのだ。

 そして遂に──、

 

「……ハイ。

 18歳になったら是非プレイしてみたいと思います……」

 

 沙羅の誘いに、ちょっと恥ずかしそうにしながらも奈緒深は首を縦に振った。

 

(うしっ!

 洗脳成功っ!!)

 

 奈緒深の返事に沙羅は、小さくガッツポーズを取る。

 彼女の仲間は決して多いとは言えないので、それを増やすことができたのは快挙である。

 これで奈緒深が18歳になれば、これまで他人とはしたくてもできなかった(たぐ)いの話題を遠慮無く話すことができる。


 それを思うと、沙羅の内心では笑いが止まらなかった。

 たとえ結果として一般社会で言うところの「駄目人間」が1人増えようとも、彼女にとってこれは快挙だ。


 沙羅がそんな調子で浮かれていた所為で、奈緒深の父親のことについては、ことが起こるまでついぞ思い出すことはなかった。

 弟がメインヒロインの妹物のエロゲーはかつて実在した……。


 今週は『おかあさんがいつも一緒』の更新はできそうにないので、代わりにこっちの方を更新するかも。

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