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土地の売買

 1時間ほど前に前話を投稿しています。


 あと、タイトルにちょっと追加しました。

 一体どのようにすればこれまでの話の流れから、沙羅がこの土地を買い取るという結論に達するのだろうか。

 確かに先ほどもそんなことを言っていたような気もするが、やはり奈緒深(なおみ)は冗談だと思っていた。

 

 大体、危険な何かが埋まっているこの土地を買い取ることに、なんのメリットがあるのか。

 ……いや、メリットならある。

 沙羅が言うには、この土地はいわゆる(いわ)く付きらしい。

 ならば、それを理由にこの土地を安く買い叩いて、高額で転売して利益を得るということもできる。


 実際、今この土地の売却を迫ってきている地上げ屋も、「土地造成の際に、樹木の伐採や、丘を平らにならすのにかなりの費用がかかる」との理由──いや立て前で、この近辺の土地の相場価格よりも、かなり低い買い取り価格を提示していた。

 

(やっぱりこの人って、悪徳な業者さんなんだろうか……)

 

 と、奈緒深は沙羅に疑いの目を向けかけたが、次の沙羅の言葉に彼女は驚愕する。

 

「土地を買うのは初めてだから相場はよく分かんないけど、2~3億円くらい出してもいいと思ってるよ」

 

「2~3億ぅ!?」

 

 奈緒深は悲鳴じみた声を上げた。

 沙羅が提示した金額は、今現在交渉している地上げ屋が提示している金額の約十倍にはなる。

 その価格でこの土地が売れるのならば、奈緒深にとってありがたい。

 いや、このあまりにも高額な提示額は、逆に嬉しさよりも怖さの方が先立ってしまう。

 バブルがはじける前の時代ならまだしも、土地相場が暴落している昨今では考えられない額だ。

 

「そそそそ、そんなにいりません。精々6000万ほどあれば適正なはずです。

 十分すぎます!」

 

奈緒深は遠慮しつつも、貰える物ならばと、若干……1000万ほど多めに見積もった額を言ったつもりだったのだが、

 

「そう?

  じゃあ1億くらいってことでいいかな」

 

「いち……!?」

 

 その額の更に倍近い額を提示されて、あまりのことに奈緒深は混乱状態に陥る。

 

(何!?  何故!? 

  一体どうしてうちの土地に、そんな高値が付くの!?)

 

 おそらく、今の奈緒深にならば、宝くじで一等を当てた人間の気持ちが分かるかもしれない。

 だけど沙羅の意図がさっぱり読めないので、やはり怖い。

 彼女は泣き笑いに近い、複雑な表情を浮かべていた。

 

「ああ、ちょっと落ち着きなってば。

 今説明して上げるから。

 1億はね……ここに生えている木の価値を考えたら、妥当だと思ったんだよ」

 

「木……?」

 

 奈緒深はきょとんとした表情を浮かべた。

 確かにこの土地には樹齢百年を超えるような樹木が、何本も生えている。

 そしてある種の樹木は、材木として数百万円以上の価値が付く場合がある。

 

 しかしだからといって、樹木込みでもこの土地が1億もの価値があるとは、奈緒深にはとても思えなかった。

 そんな彼女の心を見透かしたように、沙羅は答える。

 

「木の金銭的な価値のことを、言っているんじゃないんだよ。

 いや、ある意味お金にはなるんだけど、実用的な価値が大きいんだ。

 古い木って、よく御神体として扱われるじゃない?」

 

「ああ、はい。

 神社でしめ縄を巻かれている木なら、見たことがあります。

 そういう木のことですね?

 え……ということはうちに生えてる木も?」

 

「うん、古い木ってのは神籬(ひもろぎ)って言って、神様を宿すことができる()り代として使えるんだ。

 で、神籬は占いとか色々な術に使えるから、結構重宝するんだよね。

 だけど、今の都会じゃ神籬になるような木は少ないし、あっても神社とか人目につくような場所にあるから、術に使う訳にもいかないでしょ。

 

 だからこれまでは、神籬が必要な時は車で何時間もかかるような、遠くの山奥まで出かけていたんだけどね。

 その神籬になりえる木が、こんな近くに、しかも何本も生えているなら、見過ごす手はないでしょ。

 それにここを所有していれば、封印されているもののこともじっくりと時間をかけて調べられるしね」

 

「はあ……そういうことですか。

 私としては土地が高く売れるにこしたことはないですし、埋まっているものの面倒まで見てもらえるのなら、ありがたいことですが……」

 

 と、奈緒深は沙羅の説明にどうにか納得いった様子だったが、しかしすぐに難題を思い出したという感じで表情を曇らせ、黙りこくってしまった。

 

「どしたの?」

 

「……私一人で、地上げ屋さんにお断りする自信がありません~!」

 

「ああ、そうか……」

 

 奈緒深は泣きそうな顔で沙羅に訴えかけた。

 彼女と地上げ業者との間には、既に土地の売買の契約を結ぶ直前の段階まで話が進んでいるらしい。

 その契約の条件は、必ずしも奈緒深にとって良いものではない。

 むしろ、不利な面がかなり多い。


 あまり気の強くない奈緒深に対して、業者が強引に話を進めて言いくるめた結果である。

 

「弁護士とかを代理に立てれば良かったのに……」

 

「色々バタバタしていたので、そういうところまでは頭がまわらなくって……」

 

 まあ、一介の学生が弁護士を使うような発想は、なかなか出てこないだろう。

 それに奈緒深の家何故かは、親戚付き合いをしている者が異様に少ないらしく、アドバイスをしてくれるような頼れる人もいなかったらしい。

 まあだからこそ、遺産が全て奈緒深の元に転がり込んだ訳でもあるが。

 

 ともかく、業者側にとってかなり有利な条件で成立しそうな契約を、奈緒深の側から一方的に白紙撤回して、別の人間と契約を結んでしまえば、おそらく業者側は黙ってはいまい。

 真っ当な業者であれば、多少文句を言われるだけで済むかもしれないが、奈緒深の話から察するに、どうやらその業者にはあまり穏やかな対応は期待できないようだ。


 おそらく何らかの報復があると、予測してしかるべきだろう。

 もしかしたら土地を買った沙羅の方にまで、類焼が及ぶかもしれない。

 そんな危険な状況を招くかもしれない交渉に、奈緒深一人で(いど)めと言うのは、あまりにも酷な話であった。

 

「それじゃあ、その辺の交渉も私がしてやろうか?

 1000万円で」

 

「1000万円!?

 ……いえ、元々1億円なんて大金でこの土地を買ってもらえるだけでも十分ですから、それでも構いませんけど……。

 でも、久遠さんの身にも危険があるのでは……?」

 

 奈緒深そう危惧するが、沙羅はことも無げに笑う。

 

「だいじょ~ぶ!

 実は私、霊なんかより、こういう素手で殴ったりできる相手の方が得意なのよ!」


 と、なにやら不穏なことを、自信満々の表情で口走っている。

 彼女の言葉は交渉ではなく、抗争をしようとしているようにしか聞こえなかった。

 

「は……はは。

 で、では、どうか穏便にお願いします」

 

 奈緒深は引きつった笑いを浮かべつつ、沙羅の提案を受け入れることにした。

 しかしこの時点では、沙羅が本当に地上げ業者を殴ってしまう──いや、それ以上の暴挙に及んでしまう可能性には、さすがに考慮していなかった。


 まあ、だからこそ沙羅に交渉を依頼したのだが……その判断が非常に甘かったという事実は、この時の奈緒深には知る(よし)もな無いし、結果的に彼女には何ら影響は無かったので、どうでもいい話だった。

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