始まってしまった。もう遅い。Ⅳ
「あの。」
「何?」
「・・・姫。折角のお言葉なんですけれど。ええと。」
歯切れが悪そうにツバサが言う。
「もういませんよ。」
・・・。
◆◆◆
帰り道の10分くらい、ツバサは私にかつての友人の話をしてくれた。その人は私と同じように死の際に立ち、剣を手にした。
そういう特殊な事情で生き残り力に目覚めた人達をセバイバー(Sarvivor)という。晴れて私もその一員になったということだろう。
「救世主(Savior)と生存者(Survivor)を足してセバイバー。セバイバーは死に打ち勝つ強大な力を与えられた者です。しかし、一人ではその力を最大限に発揮することが出来ません。」
「一説にはセバイバーは個人を指すのではなくて、生存者のパートナー、つまり剣となる人。その二人のことを指しているとも言われています。要するに、最初に力を与えた者がいなければならないのです。与えたのは私達。姫に力を与えたのは私なのですよ。」
ツバサが自身の功績を讃えるように誇らしげに話す。彼女が続ける。
「例えるなら姫の持っているスマホ。姫がスマホなら私はウィーフィーといったところでしょうか。そんな関係です。」
「ワイファイね。」
切っても切れない間柄ということか。いつの間にか自動接続設定になったようだ。
「セバイバーは力を与えた者が近くにいればいるほど良いのです。」
「どんな人だったの?話したくなければ別に大丈夫だけど。」
「琥珀ですか?そうですねえ。なんだか似てますよ。姫と。」
空を見ながらツバサは言った。無配慮な質問だったと思う。琥珀さんという人はもういないのだから。ツバサはそれ以上、琥珀さんについては語らなかった。
「さ、これから忙しくなりますよ。セバイバーはそういう宿命なのですから。」
「不本意ながら頑張ってみるよ。」
「まずは稽古ですね。さっそく帰ったら始めましょうか。」
天使様はとても張り切っているご様子。しかし、流石に付き合えない。眠すぎる。
「夜勤明け。私。」
「眠さがなんですか。できる、できる。絶対出来ます。諦めなければ。ってテレビで言ってる人がいました。」
「あ、そうだ。ドーナツ買ってきたよ。」
「ドーナツ!?仕方ありませんね。明日からにしましょう。」
「非常に助かります。」
「あっ。」
「ドーナツは今日食べますからね?一緒に。」
私の前を歩いていたツバサは振り返ってそう言った。