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出来ることなら転生したかった。  作者: ALP
主人公になろう。
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始まってしまった。もう遅い。Ⅱ

「雨、降りますね。」


ツバサが窓の外をみて言った。しかし、私にはそんな様子は微塵も感じられなかった。


「雨の匂いがします。あと10分もすれば必ず降ります。」


「ふうん。天気予報も晴れなんだけどね。」


「賭けてもいいです。ま、それはそれとして。本題に入りましょうか。」

「お気付きかも知れませんが。『綻び』はあなたの前にしか現れません。正確にはあなたと同じく死線を乗り越えた人にしか。奴らはそれを嗅ぎ分けて現れるのです。」


「初耳ですけど。」


私にしか見えない化け物。それは他人にその存在を立証出来ないということ。見えない社会奉仕が報われることはなさそうだ。


「だから、あなたはこちらから動かなくても、自ずとやってくるのです。」


「何者なの。そいつらは。」


「その説明には先ず姫自身が何者かを教えなければなりませんね。昨日まではただの剣を持った人間でした。」


「それも問題だけどね。ただの剣を持った人。」


「姫、あなたは理不尽は嫌いですか。」


「好きではないかな。好きな人はいないでしょう。」


「そうですね。では努力は報われるべきだと考えますか。」


「少しくらいは報われるべきじゃないかな。」


ツバサは変な質問ばかりする。性格診断か、それとも占いの類か。


「殺したいほど憎む相手はいますか。」


「物騒な質問だね。いないかな。今のところは。で、こんな当たり前の質問と私に一体どんな関係性が。」


「ありますよ。」

「あなたにとっての当たり前の質問の数々。これを一度でも間違えれば脱落のクイズ大会だと考えてみて下さい。質問を繰り返していけば沢山いた参加者もどんどん脱落していきますよね。」


「私は残ったの?」


「察しが良いですね。最初の質問は『理不尽は嫌いか?』でしたが、この世の最大の理不尽とは何でしょう。あなたはこのように答えるはず。それは『突然の死』であると。非常に私達と考えが近しいのです。」


「私達というのは。」


「今は言えません。時が来たら話しましょう。」


ツバサが腕で大きくバツをつくり回答拒否のポーズをとる。これは意地でも教えないという意思表示だろう。彼女は話を続ける。


「剣によって運命を切り開く。だから『運命の剣(By The Sword)』。そう呼んでいます。平等を求めるのは生きている間だけでいいのでしょうか。死すらも平等であるべきではないでしょうか。そんな誰からも理解されないような心の中に閉まっておくべきとも言える考えを刹那的であったとしても抱いたあなたは。私達に選ばれてしまったのです。残念ながら剣が選んだ訳ではありません。」

「『綻び』は姫達しか襲いませんが、そこに無関係の人が居合わせることとなったら。どうなるかは分かりますよね。ご想像の通りです。」


「私にはそんな正義感はないよ。可能ならば遠慮したいな。」


「嘘ですね。」

「あなたは自分が原因で人が死ぬことを受け入れられない。」


私には返す言葉が無かった。


「優しい人です。それに正義感なんていりませんよ。行いが正義になるのですよ。悪になるのですよ。ま、今この瞬間に解答をだせとは言いませんよ。選択の場面は自ずとあちらからやってきますから。『綻び』と一緒に。遠慮もいりません。」

「『綻び』。それは、あなたから戦う度に放出されるオーラを求めて遥々と別世界からきた捕食者です。あなたが力を使えば、その匂いに釣られてやってくるでしょう。」


「そいつらは何匹いるの?強い?」


「数については分かりません。少なくとも人間と同じくらいには。勿論、増えたり減ったりもします。想像よりもいるかも知れません。潜んでいるものもいるでしょうから。」

「ですが。『綻び』ばかりに目を向けていても仕方がないのですよ。もっと身近に脅威があるのです。いや、脅威になった、でしょうか。強さ、でしたね。正直、力を使えるようになった姫にとって多くの『綻び』はそこまでの敵ではありません。」


私は対峙できる力はツバサから貰った。力の使い方。それを教えてくれていなければ、彼女に出会わなければ、私は死んでいた。けれど、その力が奴らを引き寄せる。そして更なる脅威があると言う。


「またか。またなのか。」


いつしかこの言葉は私の口癖になっていた。


「更なる脅威。それはなんなの?」


「それはですね。人に『運命の剣』を与えるのをよく思わない連中ですよ。死に平等だなんて馬鹿げていると。神に対する冒涜だと。連中は『スクリプチャー(Scripture)』と名乗っています。全く、どちらが神に対する冒涜なのか。」


「ボロクソだね。」


「姫。あなたは私達との対立に巻き込まれることになる。だから選択しなければならないのです。『綻び』、『スクリプチャー』と戦うか。剣を捨てて受け入れる『死』か。」


「素朴な疑問。私がどちらにも付かない場合はどうなるの。」


「嫌われるのには慣れています。」


ツバサは下を向きながら私に言った。


「どういう意味?」


「規定57条によって。一定期間の経過後に。権利の放棄とみなしてあなたを殺さなければいけません。雀の涙ほどのモラトリアムです。『運命の剣』は軽々しいものじゃないのですよ。何故なら本当はもう死んでいるはずの命を繋ぎ止めているのですから。」

「ああ、安心して下さい。明日、明後日の話ではないので。明々後日は保証対象外ですが。さ、今日はこのくらいにしときましょうか。あまり私に意地悪させないで下さいね。」


雨音がする。それも強く打ちつけるような荒々しい雨。ツバサの言う通り降ってきたようだ。


「そんなことしたくもないし、言いたくもありませんから。」


雨音に消されそうなくらいに小さな声でツバサは呟いた。聞きたいことは山のように積みあがっていたが、それを私は崩すことにした。

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